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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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20/21

第20話 第三の選択肢

 艦橋に立つ全員が双眼鏡を構えている。




「秒読み始め」




「5…4…3…2…1…」




「噴龍発射!」




 何もない海洋に向けて細長い物体が勢い良く飛んでいった。その瞬間に歓声が「ワァ」と沸き上がる。海戦どころか戦争の常識を破壊する第三の選択肢が浮上した。まさに歴史的な瞬間に立ち会っている。それにもかかわらず、造船屋は全く別の視点から見ていた。




(ふむ。噴龍の発射による衝撃は皆無に等しく、蒸気式カタパルトも良好、まずまずと言ったところか)




「扶桑型の主砲を取っ払ってまで新兵器を積む。最初は馬鹿なことをと思ったが意外や意外に面白い。天才とは馬鹿と紙一重なのだね」




「褒め言葉と受け取りましょう。三川部長」




「褒めているつもりだ。大砲屋として言語道断と言ったことは詫びよう」




「はい。今ちょうど、詫びを受け取りました」




「まもなく弾着です」




 試験担当の士官から促されて首にかける双眼鏡を両目にあてる。その先では標的を模した島があった。標的艦を用意してもよかったが手身近な自然を的にするが安上がり。どうせ小島のため影響は無いと非情に割り切った。人間による自然破壊は数千年単位で行われている。何をいまさらの話だった。それはさておき、小島に向けて小ぶりな飛翔物体が突っ込んでいく。着弾の瞬間に猛烈な爆発音が響いた。艦橋のガラスがビリビリと震える。実戦を想定した故に炸薬と信管もバッチリ設定済みだ。その玩具のような見た目と裏腹に艦砲射撃に迫る。岩盤こそ破壊できないが表面を削り取っていた。岩盤が強固すぎるだけで人工物は容易く破壊できるはず。なぜなら、一発が1t爆弾に匹敵する威力を秘めていた。




 そんな新兵器は『噴龍』と呼ばれる。第三の選択肢と巡航噴進弾が浮上してきた。ロケットではなくジェットエンジンの一種であるパルスジェットを主機関に採用する。ドイツのフィーゼラー社が本格的に研究した技術であるが見向きもされなかった。特許も簡単に閲覧できる内に掠め取る。日本に持って帰ると研究と開発を始めた。その構造自体は簡単なもので燃料も低品質で構わない。なんとお財布に優しい機関だ。しかし、速力はお世辞にも高速と言えない。航空機への採用は非現実的と見送られた。その代わりが巡航噴進弾である。すでに爆弾をロケットで遠方に飛ばすことは考えられていたが燃費は劣悪を極めた。しかし、パルスジェットエンジンは比較的にだが射程距離に優る。低速が故に制御もしやすい点から『飛行爆弾』の名称で新兵器へ採用が決まった。




「要は和製V-1ミサイルってわけだ」




「なにか?」




「いえ、独り言です。失礼いたしました」




「気を付けたまえ。そういうのを聞くことが好きな奴もいる」




「よく気を付けます。それよりも扶桑のおかげで有用性が証明されました。山城への搭載を急ぎます。伊勢型姉妹は改良型を予定しました。主砲を圧倒する射程距離はアウトレンジを確立します。航空機に比べ射程距離と精度は大きく劣りますが、夜間でも難なく運用でき、何よりも兵士が危険に晒されなかった」




「戦争は無人に変わるか…自分が生きている内とは…」




「完全なる無人化も当分も先ですが、今のうちに始めること、先行優位の原則は崩れません」




「長官が説き伏せられるわけだ。君はペテン師の才能がある」




「世辞と受け取ります」




「そう言っている」




 クドクドしてしまったが結論は和製V-1ミサイルである。最大射程距離は初期型の時点で200kmを超えた。艦載機に比べると近所すぎるが主砲を突き放している。艦砲射撃を実施するケースを想定した。敵地から数十キロでは捕捉されやすく、沿岸砲台の反撃を受けかねず、なかなかにリスキーと言わざるを得ない。しかし、200kmの射程距離に加えて砲撃時特有の閃光が生じないと奇襲攻撃を成立させられた。砲弾に推進能力が備わる。それ故に再装填は迅速に行えて射出機が好調であれば高速の速射も可能にした。




 射出機は様々であるが将来性の観点から蒸気式を採用する。艦上発射型の場合は母艦の蒸気を流用した。母艦の出力が低下するが高速航行中に発射は原則として行わない。油圧式では出力が不足した。火薬式は連射に向かない。空母から艦載機を迅速に飛ばすための射出機を研究する点から蒸気式を採用した。万が一に不調により射出できなくても噴龍が自力で飛んで行ってくれる。とてもお利口さんな新兵器だった。大砲屋は最初の懐疑的な姿勢を恥じ、新しい玩具ができたと一転して喜び、航空屋や水雷屋に渡さんと言い出す。




 まずは地上発射型から試験を始めて艦載の艦上発射型に至った。蒸気式射出機を存分に運用できることを前提に噴龍を積み込める。母艦の選定を進めるまでもない。ちょうど大改装中の扶桑型と伊勢型が適任と上がってきた。14インチ砲12門の火力は魅力的だが旧時代の戦艦という指摘ができる。大砲屋も「う~ん」と唸ってしまった。二度目か三度目かの大改装により一線級に引き上げる。欠陥の抜本的な改善は不可能と素直に認めると噴龍搭載型へ舵を切った。




「艦中央部の主砲2基を撤去して得た射出機6基による火力は14インチ砲に負けず劣らず。引き算の考え方です」




「引き算は結構だが変な物を足してもな。今は大いに気にっているが」




「いつか電波誘導式に変えたいと思っています。現在の誘導装置は簡単なものです。ロケットよりはマシですが着弾の範囲に期待してはいけません。しかし、噴龍が対艦誘導弾と完成すれば…」




「兵士が…人間が…視認せずに進む。早い内に予備役に入っていたいよ」




「三川部長が大艦隊を指揮して勝利に導けばよいだけのこと。簡単ではありませんか」




「よう言うわ。例の研究所による中間報告を見せてもらった。まず勝てないと書かれていたよ。軍令部では燃やそうとしたぐらい」




「いけませんな。学問を軽んじている」




 扶桑型一番艦の扶桑は大役を務めあげる。艦中央部の3番主砲と4番主砲を撤去して噴龍用の蒸気式射出機を得た。ここまで蒸気を通すパイプが接続される。被弾時に爆発を起こすかもしれなかった。蒸気の逃げ場所と排出口を設けてダメージをコントロールする。主砲弾薬庫はそっくりそのままと噴龍がひしめき合う空間に転用した。最初から主機関を換装するような大改装のため、どうせならばと配管まで変更して新兵器が与えられ、賛否両論な姿形であるが威風堂々としている。




 大重量物の主砲が2基も取り払われた。射出機と噴龍の重量に変わっても大幅軽量化に成功する。主機関の強化と合わせて最速30ノットまで引き上げられた。金剛型のような優雅な快速とは明確に異なる。旧時代の戦艦が恥を忍んで若人に混じり戦おうと気概を見せつけた。これを笑い飛ばすことは誰一人と許されない。三川軍一少将にして軍令部第二部長は自他共に認める大砲屋だった。彼は扶桑の意地を真正面から認めている。そして、扶桑型に手を加えた稀代のペテン師を見定めた。一切のバイアスを排除して正しく評価しよう。ただでさえ貴重な戦艦から主砲を下ろすとは何事であるかと反対派の筆頭を早々に降りた。牧野茂は造船から勝利を目指している。自己満足の勝利に収まらず日本海軍を超えた大日本帝国の勝利を握ろうとした。




「学問といってズカズカ入ってくる。その横暴さが堪らんよ。横暴にして正しいのだから一層もだった。射撃指揮装置まで言ってくるか。巡航噴進弾を制御するための演算装置は布石だった」




「機械式電算機は不足していましたので電気式の時代です。一応言っておきますが、我が国の技術力は負けていないどころか圧倒しており、電波探信儀やマグネトロンは最先端を走りました。それを捨てると言うのだから横暴にもなりましょう」




 その馬鹿真面目な表情から何を読み取る。




続く

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