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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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17/19

第17話 造船技師のグルメ

=京都府・舞鶴海軍基地=




 牧野茂は舞鶴にいた。




「たまには一人でしみじみしていいだろう」




 今日は舞鶴基地の増強に伴い巡洋艦と駆逐艦の受け入れ態勢を視察するために単身の出張である。高級将校の仲間入りと一等車の列車を乗り継いだが移動だけで数日を要した。この時代らしいゆっくりとした緩やかな時間の流れ方に多忙を忘れる。しかし、舞鶴基地に到着してからは再びバタバタと忙しなく動いた。




 舞鶴基地は小規模な基地であるが造船業界からの要望に応じて増強が図られる。小型艦専門に変わりないが受け入れの容量を増やしてもらった。軽巡洋艦と駆逐艦、海防艦に潜水艦の建造から修理まで受け入れる。呉や横須賀のように華やかさは見られないが地道にコツコツと積み重ねた。駆逐艦に関しては特型駆逐艦から汎用駆逐艦、二等駆逐艦まで担当すると着実にノウハウを蓄積する。舞鶴から全国に共有した。




「肉じゃがはいただけますか」




「もちろんだよ。うちが本家にして本元の元祖だからね」




「ぜひぜひ、お願いします」




「はいよ」




 午前中の仕事は午後の2時ぐらいまで延びている。駆逐艦の建造は全国各地に分散させているが未だに改良と開発は舞鶴工廠の担当だった。世界を驚愕させた重武装の特型駆逐艦から汎用駆逐艦まで何でもござれ。舞鶴に建造できない駆逐艦はなかった。そこで、牧野茂中将が自ら出向いて現場の確認と営業的な提案に訪れる。いくら若き天才造船技師と雖も中将のため相応のVIP待遇を得られた。駅からの送迎は四輪自動車である。暗殺未遂事件の余波か陸戦隊兵士がピッタリと寄り添った。その中で食事だけでは一人で静かに好きな物を食べたいもの。




 舞鶴と言えば東郷大提督の無茶ぶりから生まれた。まさに『舞鶴肉じゃが』である。艦上生活ではビタミンが欠乏して脚気に陥りやすく、肉じゃがはビタミン不足を解決し、かつ美味い海軍飯と爆発的に普及していった。将校らしく士官用食堂を越えたデリバリーは利用しない。あえて一般の兵士が利用する大衆食堂を利用した。大衆食堂だから味が落ちることはない。高級で上等の食事ばかりは飽きが訪れた。肉じゃがも家庭の味になるように海軍飯も大衆の味がよろしい。午後2時は殆どの兵士が出払っていた。この時間でも営業していることに感謝する。




「おまちどおさま」




「なんだ、できたと言ってくれたら取りに行くのに」




「バカにすんじゃないよ。報国のお仕事で疲労困憊の人に取りに来させる。そんな無粋な真似ができるかい。たんと食べい」




「ありがとうございます。いただきます」




「ゆっくりね。時間は気にしなくていいから」




 天才や中将など持ち上げられるばかりも心に障った。一人の人間と見てくれる。それが嬉しかった。ホカホカの麦飯としみしみの漬物、たっぷりの肉じゃがは至高かもしれない。肉じゃがの良い所はカレーに化けるポテンシャルを秘めた。艦上の限られた食料を最大限に活用するに相応しい。舞鶴が誇る日本海軍伝統の味を口へ運んでいった。




「美味い。これだよ、これだよ」




 感嘆の独り言が漏れる。この時代ならではの味だった。午前中からずっと打ち合わせをしている。舞鶴生まれの汎用駆逐艦は陽炎型にて完成を見た。自身の最高傑作と言って差し支えない。特型駆逐艦ほどでないが127mm連装高角砲3基と無難にまとめた。高角機銃は20mmと13mmに限定しながら積めるだけ積んでいる。魚雷は最後まで揉めた末に新開発の四連装魚雷発射管を2基と魚雷16本に終わった。艦隊型と防空型の中間のため魚雷は捨てられない。しかし、次発装填装置付きの最新型を前提にした。次発装填装置は画期的を極めている。機械の力により次弾を45秒で装填できた。危険物をさっと吐き出すことで安全を確保でき、かつ魚雷の密度を高めることで大戦果を見込め、珍しく誰もが納得する形で量産に入る。




 陽炎型は完成形であるが居住性の改良や簡略化による量産性の底上げなど小規模な改良を加えた夕雲型を予定した。これもノウハウのある舞鶴工廠から生まれる。その打ち合わせに時間を費やしてしまった。陽炎型から大きく変わらないにもかかわらず、魚雷を増やせ、主砲を増やせ、高角砲を副砲で積めないか、多方面から突っ込みを受ける。せっかく汎用駆逐艦に落ち着いたのに特型駆逐艦に戻りそうで必死に脱線を防いだ。遠目からでも疲労困憊が見て取れる。




「あぁ…芋が良い。肉じゃがの主役はじゃが芋かもしれん」




「すみません。お隣いいですか」




「どうぞ…え?」




「噂はかねがね伺っておりますよ。牧野茂中将殿」




「片桐司令!」




「私も忙しくてね。今から昼飯だ。一緒によろしいか」




 ガラガラの食堂で隣に座ってきたのは舞鶴鎮守府のトップである片桐栄吉中将だった。階級は同位であるが年齢は片桐中将が上のため敬意を払った。まだ還暦でないがそろそろ予備役かと最後の奉公に努める。出身は水雷畑であるが欧米出張から知見を広めていち早く航空屋に転身した。また、昨今の英米討つべしの論調に対しても慎重な姿勢を見せる。英米決戦は回避できるうちに回避すべきの避戦派に所属した。そのせいで風当たりが強い中を懸命に働いている。




 舞鶴鎮守府から航空兵力転換の主張を行っているが、空母はおろか戦艦、重巡洋艦も配備されておらず、駆逐艦と潜水艦が中心では発信力に欠けた。本人は百も承知している。牧野茂が出張で訪れることを知るや否や時機を見計らった。一度でもコンタクトに成功すればパイプはつながる。牧野氏は若い故にパイプが少なかった。故藤本氏の根回し、米内海軍大臣の推挙など外からが多く、自らつないだパイプは希少である。今後の活躍にパイプは欠かせず、ここはお爺が一肌脱ぐ時だ。




「何だか大変なことになっているね。艦隊型駆逐艦を作るだって」




「私は反対しているんですけど、特型駆逐艦は劇薬であり、一度効いたら二度も三度も欲しくなってしまう。神風型から吹雪型までは高速輸送艦に転用するのですが…」




「あぁ、だからか。まぁ、気持ちはわからんでもない。艦隊型駆逐艦はあれば嬉しい置物じゃないんだが理解できんようだ。私は君を支持するよ」




「ありがとうございます」




 舞鶴が日本海軍の駆逐艦を生み出してきた自負がある。特型駆逐艦の復活を望む声は根強かった。汎用駆逐艦も特型駆逐艦に負けない火力を秘める。なにせ登場時は世界最強を誇ったことが劇薬と効能を発揮した。特型駆逐艦は一隻で他国海軍の駆逐艦数隻に匹敵すると言わしめる。それは過去の栄光に過ぎなかった。質で勝負する考え方は頭越しに否定しないが隙だらけはいけない。友鶴事件と第四艦隊事件から特型駆逐艦は事実上の廃止で進められた。




 それを推進したのが牧野茂のため多少恨まれることは覚悟の上である。ならば突き抜けるまでと旧型駆逐艦の一掃を図った。旧型でも30ノットを超える健脚は制空権や制海権を確保しきれていない中を強行突破するに最適と考える。武装は撤去して空いた区画に物資と人員を押し込んだ。そして、駆逐艦時代から変わらない快速を活かして輸送を強行する。大規模な輸送作戦よりかは強襲上陸作戦や撤退作戦、包囲下の友軍へ補給作戦などスピードが求められる場面にピッタリだ。戦時標準設計を推し進めているが、いわば高級な輸送艦(輸送船)も時には必要である。




「艦隊型には及びませんが汎用駆逐艦を大きくした大型駆逐艦の構想はあります。防空駆逐艦と便宜的に呼びますが10cm高角砲を多数搭載すれば艦隊型に迫るかと」




「つまり砲火力は艦隊型と同程度であるが、艦対空の防空火力も併せ持ち、どちらも卒なくこなせる万能さ。器用貧乏にならんと良いが」




「そこは何とかします。何とかするのが私の仕事です」




「よろしい。もし建造するならば舞鶴で頼むよ」




「肉じゃがを奢ってくれるならば」




 ガハハハと笑い声が響き渡った。




続く

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