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転生造船技師は最強艦隊を作る  作者: 竹本田重郎


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第13話 牧野茂暗殺危機

=広島県呉市・海軍基地=




 呉基地に勤務する若手の見習士官はいつも通りに雑務を処理していた。書類をお届けする先は艦政本部から派遣された牧野茂の仕事部屋である。偉い人も出入りする都合でアクセスに優れた。




「牧野茂は逆賊である。奴を消してこそ…」




 その懐に二十六年式拳銃を潜ませている。骨董品のようなリボルバーだが倉庫から盗み出した。ただの造船屋が出しゃばっている。何かと面倒なことをしてくれた。これでは国体が持たない。海軍から危険人物を排除せねば皇国は立ち行かなくなると信じていた。書類を届けるという名目で仕事部屋に侵入して銃弾を叩き込む。当然ながらすぐに取り押されると予想して自決の覚悟を決めていた。ここで牧野茂を討つことができれば本望である。死ぬことは恐れていなかった。まさに誉ある死に方と胸を張る。




 そうして部屋の前まできた。皆が多忙らしくすれ違う者は急いでいるよう。さすがは呉だった。あくまでも暗殺である。牧野茂に怪しまれないように士官仕込みの挨拶を入れた。自分よりかは年上だが海軍の中では若手に括られる。無警戒に作業中の返答があった。帝都の連中は失敗したが自分は確実に成功させる。無計画な暴動という二の足を踏むわけにはいかなかった。




「そのまま置いて行ってくれ。すまないね」




「はっ! かしこまりました」




 ドアを開けた先に作業中の目標がいるはず。9mm弾は6発をキッチリと込めていた。不良品も除去している。これで仕留められないはずがなかった。一発で脳天を撃ち抜いてやる。覚悟を決めてドアを開けた先に牧野茂はいた。彼は宣言通りに作業中と見える。このまま仕留めると懐に手を伸ばした。




「牧野茂! 天誅!」




「なんだ! であえ! であえぇぇ!」




「叫んだところでもう遅い!」




 二十六年式拳銃を構えた照準の先に脳天がある。すでに勝ち誇っていた。まさか足元を鉛筆に取られるとは想像していない。造船屋の仕事部屋を侮ってはならず、造船のレオナルドダヴィンチを自称し、そこら中にメモ書きと鉛筆が転がった。呉に出てきて尚も変わらない。鉛筆を思い切り踏んだことでコロリンと滑った。丸みのある形状は小さくとも大人をどってんコロリンと転ばせられる。その際に発射された弾頭は頭を掠り窓ガラスに穴を開けた。




「なんだどうした!」




「牧野少将の部屋からだ!」




「急げ!」




 外からドタバタと足音が大きくなる。一発目は外してしまったが二発目と三発目が残った。すぐに起き上がると至近距離から何発も撃ちこむ。自決の弾は残さなかった。建物から飛び降りてやる。造船屋は碌な訓練を受けていなかった。どうせオドオドしている。




「これでも一介の将校だ。自衛の火器は持っているさ」




「そんな玩具で!」




「舐めるなぁ!」




 再度銃声が響いた。非常事態を把握した兵士が到着した頃には全てが終わっている。牧野茂の前に見習士官が倒れていた。コンクリートの床に転がるは生温かい二十六年式拳銃である。3発ほど残っていたが銃口は素っ頓狂なところに向いていた。




「暗殺者か何かのたぐいである。私を狙ってきた…」




「やけに冷静ですね。本件の処理は任せてください。牧野少将は停泊中の日向へ行きましょう。あそこであれば不届き者は入ってこれないので安全です」




「すまないね。私は技術者の端くれとして敵国を打倒するつもりだった。それが同胞を撃っている」




「自衛の正当防衛です。司法も認めてくれるでしょう。さぁ、安全なところへ」




 いの一番に駆け込んできた若手士官は単身赴任に伴う付き添いらしい。優等生らしく一目でくみ取った。どうも不穏な空気が流れていたが呉にて暗殺未遂が起こる。もう起きてしまったものは仕方なかった。ここから先のことは上層部に任せて牧野茂少将の身を案じる。彼はアドレナリンの分泌から一時的な興奮状態に突入した。正当防衛に成功したが人を自らの手で殺めている。それが現実として重くのしかかった。アドレナリンを凌駕する低血圧に襲われている。




 牧野少将の安全の確保と精神の平静を確保するために洋上に停泊する伊勢型戦艦二番艦『日向』への移動を強引に推奨した。洋上であれば侵入に舟艇が必要である。乗艦も高位の将軍でなければ検査が求められて警備は厳重を約束された。戦艦が旧時代の兵器と雖も安心感は最大を誇る。鋼鉄の分厚い装甲と鍛えられた14インチ砲に勝るものはなかった。呉に停泊中というのは訓練や儀礼ではなく大改装の順番待ちである。牧野少将が呉にいる間に色々と進めていた。まさかこんな事件を誘発するなんて想定外だが帝都の一件から予想できたはず。




 それはさておき、牧野少将はフラフラとした足取りだが資料の詰まったカバンを提げた。先ほどの正当防衛は幸運の賜物と認める。碌な訓練を受けていなかった。自衛用の拳銃の扱い方は学んでいるが実戦から程遠い。その証拠として国産ではなく外国製の自動拳銃を手にしていた。




「ワルサーPPK。これが役立つとはな…自分の身は自分で守らんといかん」




「相手は骨董品であり、牧野少将は芸術品であり、そこが分かれ目でしたか」




「そうかもしれない。運命とはわからない。万事塞翁が馬だ」




「これから、いかがいたしましょうか。呉を離れられますか?」




「そうもいかないんだ。扶桑型の大改装に次ぐ伊勢型の大改装である。高橋是清が何のために中華事変を収めてもらった。2月26日の国家転覆事件が失敗してよかったと本気で思っている。それ故に刃が私に向いたかもしれないが」




「心中お察しいたします」




 正当防衛は間違いないが牧野少将の命を守ったのはドイツ製のワルサーPPKである。警察向けの小型拳銃と実用性に富んだがデザインも良好だった。フランスに留学していた際に観賞用の名目で購入している。弾薬は日本で容易に手に入った。それからは肌身離さず携帯したが軍人ごっこのような自尊心の一端を担う。己はあくまでも造船屋だから撃つことはないと信じていた。




 しかし、2月26日のクーデター事件より認識を改めて正しく自衛用と携帯する。それとなく警告を発していたことが功を奏した。高橋是清をはじめとした閣僚や軍人は間一髪で殺害を免れる。天皇陛下が周囲が震え上がる程に激怒して逆賊の討伐に出たことで速やかに沈静化された。五・一五と真反対に青年将校のエゴイズムと猛烈な批判にさらされる。それが回り回って良い方向へ進んでいった。




「少し一人にしてくれないか。用便は人を呼ぶ」




「わかりました。外には兵が立っております。御用の際は遠慮なくお申し付けください」




「ありがとう。面倒をかける」




「とんでもございません。ごゆっくりお過ごしください」




「うん」




 呉の単身赴任に伴う付き人を退室させる。先の暗殺未遂を思い出さないように仕事にとりかかった。本来の仕事は余計なことを考えないで済む。ワルサーPPKは簡単な台の上に置いた。戦艦で造船屋の仕事は不向きであるが致し方ない。必要最低限の道具と資料のみ持参した。陸地に戻るまでは1日か数日か一週間かわからない。護衛の兵士に依頼すれば仕事部屋から持ってきてくれるはずだ。そのような気分でない。今は自分が握っている伊勢型戦艦の大改装を進めることに徹した。大枠は固まっているが扶桑型大改装の反省を含めることが残っている。新しく戦艦を建造するよりも既存の戦艦を大改装する方が安上がりだった。古い革袋に新しいワインの考え方を実践している。




「14インチ砲を1基降ろし高角砲を増設した。主機関まで丸ごと取り換える大工事だが抜本的な速度向上である。14cm砲と15cmの副砲は全廃して12.7cmに統一した。装甲が薄い箇所は傾斜装甲を採用して…」




 今日のことは忘れたくても忘れられなかった。




 ワルサーPPKから硝煙の匂いが漏れる。




続く

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