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アダンと二人の友人、ルカとハイードにとって、新しい学校生活の一日が始まっていた。
昼休みの時間になり、三人はカフェテリアで食事をしていた。しかし、アダンだけはまるで別の世界にいるかのように、ぼんやりとしていた。
金髪の少年は、あの少女のことをどうしても忘れられなかった。
アカネ。ほんの一瞬、自分を見つめた木の色をした瞳。彼女の凛とした立ち姿。そして、自分に向けてくれた小さな微笑み。フェンシングの練習で、心臓を一突きされたようなあの瞬間……。
彼女のことが大好きだった。どうしようもなく惹かれていたのだ。
そんな友人の様子に、ルカとハイードも何かがおかしいと気づいていた。炒めご飯が盛られたトレーを前にしているというのに、アダンはまるで上の空だった。
「おーい、アダン! こちら地球! アダン、応答しろ!」
ハイードはそう言いながら、友人の目の前で手を振った。どうにかして彼のぼんやりした様子を取り払おうとしたのだ。
そして、その試みは成功した。
金髪の少年は我に返り、少し困惑したように頭を動かした。
「えっ? 何かあった?」
「朝からずっと、何かを物語っているような顔をしているぞ」
ルカはそう言って指摘した。そしてアダンに近づき、からかうような口調で尋ねた。
「モデルの心を奪ったのは、一体誰なんだ?」
「あ……僕は……その……」
アダンは言葉をつまらせ、顔を真っ赤にした。
そして少し恥ずかしそうに視線を落とし、二人に打ち明けた。
「フェンシングに新しく入ってきた女の子なんだ。アカネ・ワダっていう。信じられないくらい綺麗な子なんだよ」
二人の少年はそれを聞いて、とても驚いた。
ハイードは小さく笑い声を上げた。
「へえ、あの優等生くんが剣士の女の子に惚れるとはな」
ハイードは面白そうに答えた。
「どこの出身なんだ? その名字、フランス人って感じじゃないけど」
「実は日本人なんだ」
アダンはそう答えた。
「僕が知っている限りでは、彼女はパラリンピックのフェンシング選手、ミコト・ワダの娘で、お父さんはテクノロジー企業ホンシュウの社長、ハイスケ・ワダなんだ」
「そんな家族が、どうしてパリにいるんだ? 技術投資をするなら、ここはシリコンバレーってわけでもないだろうに」
ルカはそう言って疑問を口にした。
一方、アダンはただ肩をすくめた。
「さあね。何といっても、ここはパリだから」
金髪の少年はそう答えた。
「それで、どうするんだ? フェンシングのレッスンが終わったら、彼女をコーヒーにでも誘うつもりなのか?」
ハイードがアダンに尋ねた。
アダンは皿に視線を落とし、少し悲しそうな口調で答えた。
「僕の状況でも、そんなに簡単にできたらいいんだけどね。彼女のこと、本当に好きなんだ。でも、父さんが彼女を何らかの形で利用して、名声のために使うんじゃないかって怖いんだ。あるいは、何かの契約に関わって、僕が彼女に会うことさえ許さなくなるかもしれない」
ルカとハイードは少し心配そうに顔を見合わせた。そしてルカが口を開いた。
「くそっ、それはひどい話だな」
「分かってるよ……」
金髪の少年はそう答え、両手を頭に当てた。表情には悲しみが浮かんでいた。
そのとき、アダンはご飯を食べながらカフェテリアの中を見回し始めた。
そこにはいくつものグループができていた。普通の学生たちが、他愛もない話をしながら食事を楽しんでいる。
そんな中、彼の目はある人物に留まった。
カフェテリアの奥の方に、一人で座っている少年がいたのだ。
赤い髪をしたその少年は、学校の制服に色とりどりの絵の具をつけていた。手元には何冊かのノートがあり、鉛筆を使って絵を描いていた。
その姿を見た瞬間、アダンの好奇心が動き出した。
結局のところ、好奇心が猫に勝ったのだ。
金髪の少年は席を立ち、その謎めいた少年のいる方へ歩いていった。
その行動に、ルカとハイードはかなり困惑した。
「おい、どこに行くんだ?」
「彼と知り合いになりたいんだ」
アダンは心からの好奇心と率直さを込めて答えた。
そして、少し驚いた様子のルカとハイードを残し、彼はその少年のテーブルへ向かった。
「どうしてだろうな……アダンがこういうことをするのは、今回が最後じゃない気がする」
ルカはそう呟いた。
「まあ……今まで家の外に出たことがなかったんだろ。こういう好奇心を持つのも普通だと思うけどな」
ハイードは肩をすくめて答えた。
一方、アダンは赤毛の少年に近づき、声をかけた。
「ええと……こんにちは。どうして一人でここにいるの?」
少年はスケッチブックから顔を上げた。
アダンは彼の瞳を見た。輝くターコイズブルーの瞳だった。そこには、アダンの存在に対する恥ずかしさのようなものが浮かんでいた。
「あ……えっと……いつも一人でいるんだ」
赤毛の少年は、何と答えればいいのか分からない様子でそう言った。
「だったら、僕たちと一緒に来なよ。きっとみんなとも仲良くなれると思うよ」
アダンは少年に向かって、とびきりの笑顔を見せた。
赤毛の少年は戸惑い、誘いを受けることに少し不安を感じているようだった。
しかし、アダン自身からあふれ出る率直さと、はっきりと伝わってくる優しさが、彼の決心を後押しした。
「そ、それじゃ……分かった。一緒に行くよ」
少年は少しどもりながら答えた。
そして、描くための道具を片付け始めた。スケッチブックなどをリュックサックにしまい、自分のトレーを手に取った。
二人はルカとハイードがいるテーブルへ向かった。
歩いている途中、アダンが尋ねた。
「それで、君の名前は?」
「ネイサン……ネイサン・ルルー」
赤毛の少年は小さな声で答えた。
「ルルー? 僕の家庭教師で、文学の先生も同じ名字なんだ」
アダンはそう言いながら、目を細めた。二人の間に何か共通点があるように感じたのだ。
「ちょっと待って。君って、先生の息子なの?」
ネイサンは恥ずかしそうに頷いた。
それを聞いたアダンは、満面の笑みを浮かべた。
「わあ、それはすごい! 君のお母さん、本当に素晴らしい先生だよ。心からそう思う!」
少年は嬉しそうにそう言った。
ネイサンは恥ずかしそうに小さく微笑んだ。
やがて二人は、ルカとハイードが座っているテーブルに到着した。
「ハイード、ルカ。彼はネイサンだよ。ネイサン、こっちは僕の友達。ハイード・スラハファとルカ・コヴァチだよ」
「あ……こんにちは」
赤毛の少年は少し緊張しながら挨拶し、そのまま席に着いた。
アダンはネイサンの隣に座り、彼に尋ねた。
「ねえ、さっき絵を描いていたよね。どんな絵を描くのか、少し見せてもらってもいい?」
金髪の少年は、尽きることのない好奇心を込めて尋ねた。
ネイサンは数秒間ためらった。何と答えればいいのか、よく分からなかった。
けれど、彼と一緒にいるのは心地よかった。
アダンには、自分にはない自信のようなものがあった。
そこでネイサンはスケッチブックを取り出し、アダンに差し出した。
アダンはそれを受け取り、ページをめくり始めた。
そこには、銃器を持った未来的なヒーローたちや、とても魅力的な女性たちが描かれていた。サイバーパンクとポストアポカリプスを融合させた、かなり個性的な作風だった。
太く力強い線、際立った陰影、そして特徴的なシルエット。それらはアダンに強い印象を与えた。
一方で、柔らかな風景画や、彼が描く動物たちの姿には、独特の優しさも感じられた。
「わあ……すごい! これ、本当に素晴らしいよ! どこからインスピレーションを得ているの?」
「本当に格好いいと思う?」
ネイサンは少し自信なさげに尋ねた。
「母さんは綺麗だって言ってくれるけど……でも、ほら、母親だからね」
「これを二人にも見せて、感想を聞いてみてもいいかな?」
アダンはそう言いながら、ルカとハイードの方を見た。手にはネイサンのスケッチブックを持っていた。
ネイサンは数秒間、何と答えればいいのか分からなかった。
やがて赤毛の少年は、ただこう答えた。
「う、うん……いいよ」
アダンはネイサンのスケッチブックを二人に渡した。
ハイードとルカはその絵を眺め、ネイサンが描き上げた作品にかなり驚いた様子だった。
「わあ、すごく格好いいじゃないか。本当に。八〇年代のコミックを思い出すよ」
ルカは絵を見ながらそう言った。
「そうだな。お前、絵の才能があるよ」
ハイードはそう言い、スケッチブックをネイサンに返した。
赤毛の少年の瞳には、二人の言葉を聞いた瞬間、輝きが宿った。
そして彼は答えた。
「あ……ありがとう。本当にありがとう」
ネイサンはスケッチブックを受け取り、もう一度そのページを眺めた。
「うん、八〇年代のコミックから影響を受けているんだ。あの太い線のスタイルがすごく好きなんだよ。綺麗な女の子と、筋肉質な男の子が描かれているところもね」
「それに、いつも描いているポストアポカリプスの世界観は、八〇年代の『マッドマックス』みたいな映画の影響がよく出ているね」
「実は、あれが一番好きな映画なんだ」
ネイサンは小さく微笑みながら答えた。
「母さんが少し前に見せてくれたんだけど、すごく気に入ったんだ」
「へえ、本当に?」
アダンは少し恥ずかしそうに言った。
「僕は普段、映画を見ることがあまりないんだ。というより、実際にちゃんと休んだこと自体、ほとんどなかったからね」
ネイサンはアダンを見つめた。
彼には何かが分かった気がした。アダンには、自分の人生に目的を見いだせていないような、どこか空っぽな部分があるように感じられたのだ。
そこで、ネイサンは彼に話しかけた。
「ねえ、君なら『トランスフォーマー』が気に入ると思うよ。ベイ監督の作品なんだ。あまり深い内容じゃないけど、爆発や特殊効果はすごく楽しめると思う」
「本当? それはすごくいいね!」
金髪の少年は嬉しそうに答えた。
「実は僕も、まだその映画を見たことがないんだ。みんなで集まって見るのも楽しそうだな」
ハイードもそう言った。
ネイサンの瞳には、特別な輝きが浮かんだ。
彼は小さく微笑んだ。
そのとき、ルカが赤毛の少年に尋ねた。
「なあ、俺たちの友達にならないか?」
ネイサンは、少年たちの口から出たその言葉を聞いて、数秒間その場で固まった。
しかし、ゆっくりと、少しずつ、彼の表情には信じられないほどの喜びが広がっていった。
パンク風の少年が差し伸べてくれた友情の言葉。それに応えるように、ネイサンは口を開いた。
「うん! もちろん!」
「やれやれ、まったく」
アダンの心の中で、エキビョウがそう呟いた。
「お前は本当に個性的な連中ばかりを集めるな。これは特別な才能だぞ」
『<<もしかしたら、僕には僕みたいな人たちと知り合う才能があるのかもしれないね>>』
アダンは混沌のネウマに、心の中でそう答えた。
一方、その頃。
別の場所では、暗闇に包まれた空間が広がっていた。
フェリシアは巨大なコンピューターの前に立っていた。
画面には、まるで古代の書物からスキャンされたかのようなページがいくつも表示されていた。
そのとき、低く重々しい声が響いた。
「永遠の腕輪と混沌の指輪については、すでに取り出すことに成功した。次は何を取り出すべきだと思う?」
姿勢よく立っていた女性は、画面に二本の特徴的な角の形をした髪留めを表示させた。
そして答えた。
「罪の髪留めが、次の候補として最適かと存じます。物体を創造するその力があれば、我々の目的を達成するうえで大いに役立つでしょう」
「いい考えだ……」
その太く低い声の主が答えた。
そこにいたのは、蝶の形をした眼鏡をかけた、暗い雰囲気をまとった男だった。
「それを取り出すことができれば、すべてのネウマを手に入れることができるかもしれない」
「必ず成し遂げてみせます、我が主」
女性は画面を見つめながら、そう答えた。




