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あの少し変わった初日の授業を終えた後、私たちは、暗い表情を浮かべながらリムジンに乗り、自分の大きな屋敷へと戻っていくアダンの姿を目にすることになる。
「おい、坊主。どうしたんだ? 自分の成し遂げたことを誇りに思わないのか? お前は人々を救ったんだぞ」
若者の頭の中で、エキビョウが語りかけた。
一方、アダンは、今やカオスのネウマと自分を結びつけている指輪を見つめた。そして、その指輪を通じて、猫の姿をした存在と心の中で会話を始めた。
「何でもないよ、エキビョウ。ただ……疲れているだけだよ」
「疲れている? おいおい、そんな嘘はすぐに分かるぞ。猫に舌でも噛まれたのか? それとも、何か俺に隠している問題でもあるのか?」
エキビョウは金髪の少年に問いかけた。
アダンはただ視線をそらし、床を見つめながら、どうにか返事をした。
「ほ、本当に……な、何でもないよ」
猫のような姿をした黒き存在は、その言葉を信じきれない様子で喉を鳴らした。そのどもり方は、単なる疲労によるものではない。エキビョウには、それがよく分かっていた。こんな声を聞くのは初めてではなかったからだ。
アダンは何かを隠している。そして、それをカオスのネウマははっきりと感じ取っていた。
やがて車は巨大なヴォーブラン邸に到着した。少年は車のドアを開け、自分の荷物を手に取ると、屋敷の中へと入っていった。
屋敷に足を踏み入れた彼は、周囲を見回した。誰もいない。そのことに、金髪の少年は心のどこかで安堵していた。
彼は大理石でできた大きな階段を上り、自分の部屋へと向かった。そして、背後のドアを閉めると、重いため息をついた。
そのとき、エキビョウが動物の姿で現れた。エメラルド色の瞳を持つ黒猫となり、今や自分の契約者となった少年を注意深く観察しながら、尻尾を揺らしていた。
「えっと……僕、シャワーを浴びてくるね。いいかな?」
アダンは猫にそう話しかけた。
そう言って少年は浴室へと入っていった。黒猫だけが部屋に残されると、エキビョウは少年のベッドに横たわり、巨大な部屋を大きな目で素早く見渡した。
「こいつは黄金の檻の中で暮らしているようなものだな……。ここに帰ってきたときのあの目を見れば分かる。だが、それだけじゃない。こいつは俺にすべてを話していない」
猫のような存在は小さくつぶやいた。尻尾は不安を隠せないかのように、左右へと揺れ始めた。
エキビョウは浴室のドアに目を向け、再びつぶやいた。
「まったく、人間というのは時々理解できんな。あの子はあの中で何をしているんだ? ちょっと様子を見てくるか」
黒猫は立ち上がり、軽く身体を伸ばした。すると再び影の姿へと変わり、浴室のドアの下から静かに入り込んだ。
浴室には湯気が立ち込めていた。エキビョウは音もなく浮かび上がり、シャワーカーテンの上まで移動した。
そして、カーテンレールの上に静かに身を置くと、シャワーを浴びているアダンの姿を目にした。
しかし、その背中を見た瞬間、エキビョウの表情が変わった。
少年の身体には、いくつもの痣があった。黄色く変色した痕、誰かによってつけられた傷。それらを目にした瞬間、猫の姿をしたカオスの内側で、静かでありながらも恐ろしい怒りが燃え上がった。
黒猫は怒りを覚えた。
それも、凄まじい怒りだった。まるで炎のように、今にも爆発しそうなほど激しいものだった。
だが、シャワーが終わるまでは待つべきだ。
エキビョウは少年の洗面台へと降り、再び猫の姿を取った。しかし、破壊を司る猫の毛並みは、怒りを必死に抑え込もうとするかのように、炎のように揺らめき始めていた。
それから約十分後、アダンはシャワーを終えた。
洗面台の上で自分を見つめている黒猫に気づいた瞬間、彼は凍りついた。
「……アダン。いったい誰がお前にこんなことをした?」
エキビョウは、心配をにじませながらも、厳しい声で尋ねた。
猫の目には、少年の身体の状態がよりはっきりと映っていた。それはあまりにも痛々しいものだった。
肌には紫色や黄色に変色した痕があり、すでに治癒した傷跡も残っていた。そして、両腕には、かつて自分自身につけたことが分かる、塞がった傷がいくつもあった。
アダンは何も言えなかった。
ただ震えながら、エキビョウを見つめていた。その瞳には、はっきりと恐怖が浮かんでいた。
そして、その瞬間……アダンの心は崩れ落ちた。
彼は泣いた。
ずっと胸の奥に押し込めていた痛みを、とうとうすべて吐き出すように泣き続けた。
「父さんが……父さんなんだ……」
アダンは涙に濡れた声でつぶやいた。
「何かに失敗するたびに……笑顔が足りないときも……父さんに従わなかったときも……。僕の何がいけないんだろう、エキビョウ……。どうして父さんは僕にこんなことをするんだろう……。でも……痛いんだ……」
エキビョウは少年を見つめた。
数秒の間、煙のように揺らめいていた毛並みの炎が静まり、その耳が悲しげに垂れ下がった。
目の前にいる少年の悲しみと、どうすることもできなかった無力感を目の当たりにしたとき、エキビョウの中で何かが変わった。
黒猫は、さらに深く喉を鳴らし始めた。それは普通の猫のものではなかった。むしろ、ライオンや虎のような、威厳に満ちた獣の唸りに近かった。
そして、その毛並みが再び炎のように揺らめき始めた。ただし今度は、そこから緑色の火花が散っていた。
「よく聞け、坊主」
破壊を司る猫は、低く威厳のある声で語りかけた。その声には、権威と同時に、ほかにはない特別な温かさが宿っていた。
「お前は俺の契約者だ。カオスそのものを、その身に宿す者だ。俺が守っている限り、誰にも二度とお前を傷つけさせはしない。俺が息をしている限り、俺という存在がこの世界にある限り……誰一人として、お前を傷つけることは許さない」
金髪の少年は、黒猫を見つめ続けた。
そのとき、エキビョウの毛並みは再び元の状態に戻り、彼は少年の腕の中へと飛び込んだ。
アダンは、まだ涙で濡れた目のまま、その小さな身体を両腕で受け止め、ぎゅっと抱きしめた。
「アダン……」
エキビョウは静かに語り始めた。
「俺は幾千年もの時を、何世紀もの時を生きてきた。その間、俺の力を受け継いだ契約者たちが、苦しみの中で自らを壊していく姿を見てきた。俺の力を宿した子猫たちが、一人、また一人と命を落としていくのも見てきた。だが、俺には彼らを守る力がなかった……」
その声には、長い年月の中で積み重なった後悔がにじんでいた。
「だから、もう二度と繰り返したくないんだ。俺の爪の届くところで、また一人、契約者を失うなんて……そんなことは絶対に許さない」
破壊を司る猫に抱きしめられ、その深く温かな喉鳴らしを感じているうちに、少年の心にも何かが変わり始めた。
アダンは、まるで自分に残された最後の大切なものを守るかのように、黒猫をさらに強く抱きしめた。
「ありがとう、エキビョウ……。ありがとう……」
エキビョウは優しく鳴いた。
そして頭を持ち上げると、少年の目をまっすぐに見つめて語りかけた。
「一つ、覚えておいてほしいことがある。心に深く刻み込んでおけ。
お前は弱くなんかない。これから先も、決して弱くなることはない。
なぜなら、お前の胸の奥には、自由を求める熱い願いが煮えたぎっているからだ。
そして、その願いを叶える力を俺は持っている。
カオスとは、ただすべてを消し去るためだけのものじゃない。自分らしく生きることを妨げるものを壊し、自分を閉じ込める檻を破壊する力でもあるんだ。
もしお前が俺にそれを許してくれるなら、俺は……」
アダンはただ首を横に振り、エキビョウの言葉を遮った。
「できたらいいのに……。でも、結局は父さんなんだ。僕に残された唯一の家族だから……。ほかに行く場所があるのかどうかも分からないんだ」
エキビョウは悲しげにアダンを見つめた。
これほどの苦しみを味わっていながらも、少年はまだ父親に生きていてほしいと願っていたのだ。
「分かったよ、子猫ちゃん。だが、一つだけ約束してくれ」
「……何を?」
「いつか、もう一度、自由に笑えるようになってくれ。誰かを恐れることなく、心から笑えるように。そして、その笑顔は誰かに命令されたからじゃなく、お前自身がそうしたいと決めたからこそ生まれるものであってほしい」
アダンは小さくうなずいた。
その瞳には、ようやく新しい輝きが宿っていた。
そこにあったのは、もはや単なる恐怖だけではなかった。
エキビョウのおかげで、少年の心には小さな希望が芽生え始めていた。
「約束するよ、エキビョウ」
そう答えると、黒猫はアダンの腕から降り、少年に話しかけた。
「それで、子猫ちゃん。着替えは俺が何か持ってきてやろうか?」
「何でもいいから、着られるものを持ってきてよ。どんな服でもあまり気にしないから。いい?」
エキビョウは嬉しそうな様子を見せた。そして影へと姿を変え、浴室の外へと戻っていった。
その姿を見送ったアダンの口元には、ほんのわずかな笑みが浮かんだ。けれど、それはまだ少し苦い笑顔だった。
金髪の少年は、自分の手にあるカオスの指輪を見つめた。
そして鏡に映る自分自身の姿を見つめながら、そっと胸に手を当てた。
「……僕なんかが、本当にヒーローになれるのかな?」
アダンは自分自身に問いかけた。
そのとき、浴室のドアがこすれる音が聞こえた。
アダンがドアを開けると、そこにはエメラルド色の瞳を持つ黒猫がいた。
ベッドの上には、何着かの服が置かれていた。少ししわくちゃではあったものの、ちゃんと着替えられるように並べられていた。
どうやらエキビョウなりに、一生懸命選んでくれたらしい。
黒猫はただ一声、にゃあと鳴いた。
そして、その様子を見たアダンは……笑い始めた。
それは心からの笑いだった。
小さな黒猫の姿をしたエキビョウが、服を選んで持ってきてくれたことがおかしくて、少年は思わず声を上げて笑ってしまったのだ。
エキビョウは、そんなアダンの姿を見つめていた。
ようやく少年が、楽しそうに笑ってくれた。
そのことが、破壊を司る猫にとって、何よりも嬉しいことだった。
こんにちは、ニクと申します。スペイン出身です。この物語を日本語に翻訳することができたおかげで、こうして公開する運びとなりました。このユニークな物語を皆さんに気に入っていただけたら、そして私が執筆を楽しんだのと同じくらい、皆さんにも楽しんでいただけたら心から嬉しく思います。かなりの長編となりますが、物語がさまざまな章を経て展開していく中で、ずっと興味を持ち続けていただければ幸いです。




