第六話 いえ:固まらないまま、ずっとそこにある海が。
最終話です。
冬の浜辺で、凪は新しい石を拾います。固められた海と、固められない海。最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
あのジンベエザメは今、どこにいるだろう。
凪はときどき、そんなことを考えた。
リゾートワンピースの女性は、東京か大阪か、どこかの部屋に住んでいる。棚の上か、窓際か、テレビの横か。ジンベエザメはそこで、毎日同じ場所にいる。
固められた海が、内陸で光を受けている。
それでいい、と凪は思った。
それは、ここにしかない。
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十一月になった。
観光客は来なくなった。海沿いの集落は静かで、工房の前を通る人もほとんどいなかった。
凪は毎朝、浜に出た。
冬の海は、夏とちがった。光の角度が低くて、色が濃かった。青というより、緑に近い日もあった。観光地のポスターには使われない色だった。
それでも、凪は見ていた。
冷たい風が、首筋に当たった。夏とはちがう風だった。水分が少なくて、乾いていた。でも、海のにおいは同じだった。
浜辺に、小さな石が落ちていた。
灰色で、平たくて、波に磨かれた石だった。
凪はしゃがんだ。濡れた砂が、ブーツの先に触れた。
手を伸ばして、石を拾った。
ひんやりして、重さがあった。砂がついていた。
光の中で見ると、かすかに輝いていた。
持ち帰れば、また色が変わる。それはわかっていた。
でも、拾った。
砂をはらって、ポケットに入れた。
波が打ち寄せて、引いた。
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工房に戻ると、作業台の上に新しい型があった。
次は何を作るか、まだ決めていなかった。
深い青は、棚の一番奥に置いてあった。売れないままだった。でも、そこにあった。
灰色の石の横に、新しい石を並べた。
二つになった。
どちらも、輝かなかった。
でも、凪はそれを、しばらく見ていた。
窓の外では、冬の海が光を受けていた。
固まらないまま、ずっとそこにある海が。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
沖縄旅行で買ったレジンアートから始まった物語が、ここで終わりました。固められるものと、固められないもの——凪が七年かけて受け取ったものを、言葉にしないまま書き切れたなら嬉しいです。
またどこかでお会いできれば。




