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第九話 神槍グングニル

 光の粒子とともに取り出したのは──神槍『グングニル』であった。


 俺はグングニルの眩い槍先を、静かに前方の帝国兵とサムへ向けて突き付けた。


 これで、勝利は完全に確定した。


 神槍グングニルには、槍先を向けた相手に対し、必ず勝利をもたらすという絶対の因果の力が宿っているからだ。


 実際、槍先を向けられた瞬間から、帝国兵たちの動きは劇的に変化していた。


 まるで全身に重く巨大な鉛でも取りつけられたかのように、動作が鈍り、怯え切っている。


 そしてそれは、偽勇者サムとて例外ではなかった。


 俺は背の光の翼を羽ばたかせ、ゆっくりとサムに向かって歩みを進め始めた。


 ◆


 神槍『グングニル』を手に携え、俺はゆっくりとサムに向かって歩みを進めていく。


 追い詰められたサムは、恐怖のあまり下半身から汚物を垂れ流しながら、嫌絶を示すように何度も首を左右に振っていた。


「な、なあ……! 同郷のよしみだろ、助けてくれよ……ッ!?」


「何ゆえにお前を助けねばならない」


「何ゆえって……お前には血も涙もねえのかよ!?」


「お前のような存在に対して流す血も涙も、最初から持ち合わせていない」


「そ、そんな冷たいこと言うなよ……ッ! あの女を可愛がるとか言ったのは全部冗談だって! だからさぁ……なっ!?」


「お前は今まで、どれだけの人間を理不尽に殺してきた? どれだけの女性を辱めてきた? 許しを請う被害者たちに、お前は何をしてきた?」


「そんなこと、大したことじゃねえだろ……ッ! お前も一緒に楽しもうぜ……!」


 ふつふつと煮え滾る怒りが頂点に達した次の瞬間──俺はグングニルの槍先を突き出し、サムの股間を一突きで貫いた。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁッ───────!?」


 男としての最重要の急所を深々と刺し穿たれ、サムは白目を剥いて口から泡を吹き、絶叫を響かせる。


 だが、彼の持つ異常な超再生能力によって、欠損した部位は瞬時に再形成されてしまう。


 俺は無言のまま、その惨劇を何度も、何度も繰り返した。


 追撃に回った八部衆によって、周りの帝国兵が一人残らず処分され尽くすまで。


 そして──戦場の最後の一兵が完全に潰走、処分された時。


「最後に言い残す言葉はあるか?」


 股間を何度も破壊されたサムは、口から泡を吹いたまま完全に気絶していた。


「そうか。では、止めだ」


 俺は神級の洞察力でサムの体内を巡る“核(コア)”の軌道を見定め、それが彼の心臓へ達した瞬間──コアごと心臓をグングニルで一気に刺し貫いた。


「があ……っ……!」


 それが、偽勇者サムがこの世に残した最期の断末魔であった。


 息絶えたサムの肉体が急速に崩壊していくのを見届け、俺は八部衆のもとへ、そしてエルビィのもとへと帰還した。


 ◆


 八部衆の陣営に戻ると、なぜか男性陣の全員が極端な内股になり、両手で股間を必死に押さえていた。


「……皆、どうしたんだ?」


「あ、あんな恐ろしい光景を見せつけられたら、男なら誰だってこうなるに決まっているだろうがッ!?」


 夜叉衆を率いるセグムント・フォン・クラハト侯爵が、引きつった顔で俺に全力の突っ込みを入れてくる。


「あんなもの、とは失礼な。俺はただ、これまで被害に遭った犠牲者たちの無念を代行しただけなのだが」


「それは……まあ、そうかもしれないが……!」


「ああ、思わずグングニルで何度も突いてしまったな。後で綺麗に洗浄して手入れをしておかないと」


「感想がそれだけか!?」


「他に何か言うべきことがあるか?」


「……いや、何でもない……」


 男性陣が顔を蒼白にさせる一方で、女性陣からは絶賛とお褒めの言葉をいただいた。


 さらにエルビィからは、


「さすがは私の『氷の貴公子』ね。胸が胸すっとしたわ」


 と微笑まれ、周囲の女性隊員たちも一斉に深く同意するように頷いていた。


 ひとしきり和やかに笑い合った後、俺はふと思い立って集中する。


「さて……そろそろ『神級』の状態を解除し──て……あれ? 解除できない……?」


 焦る俺に対し、エルビィは呆れたようにくすりと笑った。


「当たり前でしょう? 人を超えて真の『神』に至ったのだから。もう人間には戻れないわよ」


「えっ!? それじゃあ、俺はこれからどうすれば……!」


「どうもこうもないわ。これからは、ずーっと私と一緒よ。ルーカス、とりあえず帰りましょう」


「どこへだ?」


「魔王城でも、睺羅伽(まごらか)衆の居住地でも、どちらでも良いわ。愛する旦那様と二人きりで朝を迎えるの……一度やってみたかったのよね」


「エ、エルビィ……はしたないぞ」


「仕方がないでしょう? 私、早くあなたとの子供が欲しいの。じゃあ、ここから近い魔王城に決定ね!」


 そう言って、俺の手を引っ張り強引に引きずっていくエルビィ。


「あ、そうそう! 言い忘れていたけれど……皆、サムみたいな下劣な真似や浮気は絶対にダメだからね? もし破ったら……どうなるか分かっているわね?」


 エルビィが背後を振り返り、転がっているサムの残骸をにっこりと指さす。


 八部衆の男性陣が一斉に、青ざめた顔で高速でコクコクと頷いた。


「ふふ、じゃあ行きましょう、旦那様」


「ああ……。睺羅伽(まごらか)衆の皆は、本拠へ帰って今日はゆっくり休んでくれ。長として伝えておく。……それと、怪我人の治療は……」


 俺の言葉を遮るように、エルビィが優しく手を掲げた。


「怪我人は、この場で全員治してしまいましょう──『エリア・エクストラ・ハイ・ヒール』」


 神聖な光が広がると、八部衆全員の身体が眩しく輝き、あらゆる傷や疲労が一瞬で完治した。


「ふふ、今度こそ行くわよ!」


 こうして──猛威を振るった『第二次・界門防衛戦』は、ついに完全なる終末を迎えたのだった。

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