第八話 継承される緋色の刻(とき)
エルビィはルビィの愛刀の柄を静かに握り直すと、その凄絶な切っ先をサムへと向けた。
「パスカル、バイナリ。その男の拘束を解きなさい」
パスカルとバイナリが驚き、戸惑いながら声を上げる。
「エルドゥ……いえ、エルビィ様!? 本気で仰っておられるのですか!?」
「エルビィ様、そのようなことをすれば、こいつは再び暴れ出し……!」
「構いません。私が自ら切り伏せます」
「「はっ……!」」
主の絶対の言葉に二人は首を垂れ、術式と召喚獣の抑えを解除した。
拘束から解き放たれたサムは、不敵に首を鳴らす。
「フン……俺を自由にしたことを後悔するんじゃねえぞ!」
「ふふ、かかって来なさい」
「舐めやがって! 後でたっぷり可愛がってやるからな!」
「私を可愛がって良いのは、ルーカスだけよ」
そう言うと、エルビィは俺に向かって可愛らしくウインクしてみせた。
どうやら、単に存在が同化しただけでなく、ルビィの記憶やルーカスへの重すぎる愛までしっかりと継承されているらしい。
「このアマがぁッ!」
激高したサムが地面を蹴り、凶暴な殺気を撒き散らしながらエルビィへ迫る。
しかし──。
「秘術──『断絶する緋色の刻・改』」
かつてルビィにしか繰り出せなかったはずの絶対の秘術が、エルビィの手によって放たれた。
空間を歪める紅の閃光がサムを襲う。
直後、サムの右足が根元から激しく吹き飛び、彼は体勢を崩してその場に激しく転倒した。
「ぐああぁぁッ!? くそっ、こんな傷、すぐに再生して……なっ、再生しない……!? 馬鹿な、何をしやがったぁッ! なぜあの女と同じ技が使える!?」
「一体化したからに決まっているでしょうに」
エルビィは、まるで哀れなゴミ屑でも見るかのような冷ややかな眼差しでサムを見下ろした。
サムは愛剣を杖代わりに突きたて、怨嗟の声を上げながら必死に立ち上がろうとする。
だが──。
「『断絶する緋色の刻・改』」
間髪容れずに放たれた二撃目の秘術が、容赦なくサムを襲った。
今度は彼の右肩が絶叫とともに吹き飛んだ。
「ふふ、そろそろ旦那様にも活躍してもらいましょうか」
そう言って、エルビィの手がそっと俺の肩に添えられた。
その瞬間、身体の奥底からとてつもない量の未知の力が湧き上がってくるのを感じた。
「これは……!?」
自らの意思とは無関係に、俺の背中に六対十二枚の実体を持たない光の翼が優美に展開されていく。
「これは……『天級』の六段階目なのか……?」
「いいえ、神級よ。私の愛おしい旦那様。私がその封印を解放しました」
その時、脳内の支援意志(サポート機能)が、久しく聴いていなかった音声を頭の中に響かせた。
『──神級の解放を確認。種族が“ハイ=ヒューマン”から“神族”へと昇格。職業に“真勇者”が追加されました』
「え……種族が神族に……!? それに、真勇者だって……!?」
「さあ、行きなさい旦那様。あなた自身の手で、あの男との決着をつけるのです、ルーカス」
「決着……。そうか、分かる……今の俺なら分かるぞ! 奴の体内を循環している“核”の位置が……!」
俺は足元に落ちていた『ミストルティン』を拾い上げようと手を伸ばした。
──だが。
「それは駄目。それは私が預かるから、旦那様は別の神殺しの武器を使ってね?」
「え……? 『私が使う』って、どういう意味だ……?」
「あなたが他の女に現を抜かしたら……あなたをこれで殺して、私も後を追うから」
(ヤンデレなところまで、完璧に統合されちゃったのか……!)
俺は苦笑しながら、自らの空間保管庫の中を探索し、この局面にもっとも相応しい至高の武具を探した。
「……これしかないな」
そうして一本の神槍を取り出した。
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