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第六話 断絶する緋色の刻・改、炸裂

「ハ……ハハハッ! こいつなら……いくら最強の力を持とうが、貴様を殺せるわけだなぁ、ルーカスぅッ!!」


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ───────!!」


 絶望に満ちたルビィの悲痛な叫びが、虚しく戦場に響き渡る。


 俺は即座に『天級』の制限を三段階まで解放し、凄まじい脚力でその場を跳躍・離脱した。


 コンマ一秒前まで俺が立っていた地点に、一直線に放たれた『ミストルティン』が深々と突き刺さる。


 ズゥン……と重苦しい衝撃音が響き、大地が巨大なクレーター状に圧し潰された。


 サムは地面からミストルティンを引き抜くと、凶悪な笑みを浮かべてこちらを睨みつけてきた。


 神殺しの短槍に穿たれた彼の左肩からは、今も絶え間なく血が流れ落ち、一向に癒える気配がない。


「左腕が使えないのは業腹だが……最高に狂った武器が手に入ったぜ。気に食わねえ貴様をこの手で殺せると思うと、ゾクゾクしてたまらねえな!」


「……気に食わない、だと?」


「そうさ! どいつもこいつも『ルーカス、ルーカス』と、俺と貴様を比べやがって……! 貴様のような優男なんぞ、俺のこの手で叩き潰してやる!!」


「できるものなら、やってみるがいい!」


 俺は愛刀を一度鞘へと収め、低く腰を落として居合の型をとった。


「知ってるぜ、それ……“イアイ”とかいう和風の手品(マジック)だろう? ルーカスゥ、貴様もあの世界から来た口か!」


「お前のような奴と同郷と思われるのは胸糞が悪いが……俺の手で介錯してやる。大人しく先にあの世へ行け」


 ──その瞬間、背後から不意に躍り出てきた帝国兵の殺気を感じ取り、俺は反射的に居合の一閃で斬り倒した。


 だが、サムがその決定的な隙を見逃すはずもなかった。


 一瞬で間合いを詰めたサムは、ミストルティンを高く掲げ、俺の胸元を目掛けて一直線に突き出してきた。


「させない……っ! ルーカスは殺させない! 殺すのは私だぁぁぁぁぁぁッ!!」


 狂気の混じった悲鳴が、戦場の刻(とき)を強引に止める。


 ルビィの解き放った秘術『断絶する緋色の刻・改』が、一直線にサム目掛けて飛翔した。


 迫り来る異次元の斬撃に対し、サムは驚愕に顔を歪ませたまま固まる。


 直後、ルビィの斬撃はサムの不完全な左肩を根元からバッサリと切り落とし、その肉片ごと次元の彼方へと吹き飛ばした。


 激痛に顔を歪めながらも、サムは下卑た笑いを浮かべる。


「ケッ……礼を言うぜ! 傷口ごと吹き飛んだなら、これで元通り再生する──」


 しかし──どれほど時が流れても、失われた左腕が再生する気配は一切なかった。


「な……なに……!? なぜ再生しない! 貴様、何をしやがったぁッ!?」


 激昂したサムが、逆上してミストルティンを大振りに振り抜く。


 ただ短槍を振るっただけだというのに、真空を切り裂く凄まじい衝撃波がルビィへと襲いかかった。


 ルビィは咄嗟に防御結界を展開するものの、衝撃を殺しきれず後ろへと弾き飛ばされる。


 ──だが、吹き飛ぶ彼女の身体を優しく受け止める者がいた。


 エルドゥ魔王様であった。


「ルビィ、何をやっておる。そのような怒りに任せて放つ乱暴な剣術で、あの男を止められるはずなかろう」


「魔王様……私、私のミスのせいで……『神殺しの武器(ミストルティン)』が、あいつの手に渡ってしまって……っ!」


「過ぎたことを悔やんでも始まらん。まずは頭を冷やせ。願望と焦燥で曇った剣技が、今の敵に通じると思っているのか?」


 そこへ、跳躍した俺が舞い戻ってきた。


「ルビィ、さっきの言葉は本当なのか……? 俺は、君に嫌われていたのか? 死んでほしいほどに……?」


「違う! 嫌ってなんかいない……っ! 愛しているのよ、ルーカス! 誰にも渡したくないほどに、あなたを愛しているの……!」


「だったら、どうして──」


 俺たちの会話を遮るように、サムが強引に割り込んできた。


「痴話喧嘩ならあの世でやれぇッ!!」


 再び振るわれたミストルティンの衝撃波が、俺たち三人を襲う。 エルドゥ魔王様が瞬時に多重防壁を展開したおかげで、波衝はギリギリで相殺された。


 俺は『天級』を四段階目まで一気に解放し、直風の勢いでサムへと肉薄する。


 視認すら困難な極限の高速戦闘を展開し、サムを防戦一方へと追い詰めた。


 しかし──偽勇者とはいえ、召喚された勇者のスペックは伊達ではない。


 サムは戦いの中で俺の速度に急速に順応し始めていた。


(こいつ……戦場の中でリアルタイムに進化し続けているのか!? こういうタイプは一気に叩き潰さなければ手に負えなくなる……!)


「ルビィ! さっきの『断絶する緋色の刻・改』を、もう一度放てるか!?」


 背後へ問いかけるが、ルビィは放心状態のまま地に座り込んでしまっていた。


(くっ……こうなったら……!)


「ハハハッ! こうなったら何だってんだよぁ!? お前の女、お前を殺し損ねて心が折れちまったみたいだぜ! まあいい、貴様を殺した後に、じっくり可愛がってやるさ!」


「貴様ぁッ……!!」


 激怒で頭が真っ白になった俺は、愛刀を力任せに振るってしまう。


「ハッ、頭に血が上ったか!? 怒りに任せた切っ先なんぞ、見切りやすいことこの上ねえな!」


 サムの振るうミストルティンの威圧を受け、俺の愛刀は衝撃ごと大きく弾き飛ばされてしまった。


「……可愛がってやるとは言ったが、俺の再生能力を奪うあの女の術は脅威だ。ルーカス、お前はそこで、貴様の女が先にあの世へ行くのを黙って見て居ろ!」


 サムはターゲットを切り替えると、座り込むルビィ目掛けてミストルティンを振り抜いた。


 凝縮された殺意の衝撃波が、一直線にルビィへ肉薄する。


 エルドゥ魔王様がルビィを庇うように前面へ立ち塞がり、絶対障壁を展開した。


 だが、先ほどよりも威力を増した衝撃波の奔流に、流石のエルドゥ魔王様といえど後退を余儀なくされる。


「どこまでも邪魔くさい魔王だぜ……! 先に貴様から始末してやる!!」


 体勢を崩した魔王様を目掛け、サムは全身の筋力を躍動させてミストルティンを直接投げつけた。


 軸を崩されたエルドゥ魔王様には、それを回避する余裕がない。


 ──しかし、その魔王様の前に、突如として立ちはだかる影があった。


 ルビィだ。


 彼女は魔王様を庇うように両腕を大きく広げ、一直線に飛来するミストルティンの射線上へと躍り出たのだ。


「何っ!?」


 サムが驚愕に目を見開く。


 ──そして。

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