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第六話 特訓の成果

 魔力・神聖力・神通力の体内循環、および出力制御の特訓を日々繰り返して、早一年。


 俺の肉体的な年齢は一歳半を迎えていた。


 久しぶりに、内部システムとUI(画面表示)を大幅に改良した『ステータス・オープン』を展開してみる。


 画面のログは以下のようにアップデートされていた。


 ◆

【ステータス(βテスト版:Ver 0.6)】

 種族: ■■■■■■■■・■■

 練度レベル: H(New!)

 名前: ルーカス・マギナ

 性別: 男

 職業: 賢者・魔導師・陰陽師・退魔師・武闘家

 ステータスランク: 【知力:C(New!)】 【力:H】 【魔力:∞】 【神聖力:∞】 【神通力:∞】 【体力:H】 【器用:I】 【素早さ:I】 【運:SSS】

【スキル(※右側は魔力制御レベル)】

  生活魔法:◎(完璧) / 下級魔法:○(実用レベル) / 中級魔法:△(習得中) / 上級魔法:×(未習得) / 下級神聖術:○(実用レベル) / 中級神聖術:△(習得中) / 上級神聖術:×(未習得)

【エクストラスキル】

 ギャザーが集めし秘術:×(未解禁) / ストレージ / ラーニング / 無詠唱 / スキルコピー / 地球の武術全般・陰陽術・退魔術・魔術◎

【ユニークスキル】

 管理者(Root/※全言語理解及び会話マスタープラグイン内包) / ハッキング(※隠蔽中) / 賢者の叡智 / 魔導の深奥 / 陰陽道の極意 / 退魔の秘奥 / 地球の神々の寵愛

【称号】

 賢者の卵(New!) / 地球の術王・武王

 ◆


 初期の『Ver 0.1』ではうっかり入れ忘れていたパラメータ──『練度レベル』と『知力』の項目をコンソールに追加。


 さらに、新しく『賢者の卵』という称号が自動で生えていた。


 今回の最大のUI改善点は、ローゲストの魔法・神聖術の後ろに、現在の「制御レベル」を【×〜◎】の4段階で表記するように変えたことだ。


 ◎は「完璧」、○は「実用レベル」、△は「習得中」、×は「未習得」を意味する。


(よしよし。いくら知識があっても、それを体外に引き出す制御レベルが伴わなきゃ意味がないからな。この可視化は正解だ)


 さすがに一歳半の子供部屋では、広範囲を破壊する『上級魔術』の実戦訓練を行う場所がないため、現状は×評価のままだ。


 ちなみに、この世界の魔法階級は上級の上に【聖級・王級・帝級・天級・神級】という恐ろしい上位等級が存在するらしいが、一般的な人間が到達できる限界は帝級まで。


 それ以上は神の御使いや、本物の神々の領域とのことだ。


 うちの両親は平民から叩き上げの魔導師と神官のため、高位貴族階級が独占している聖級以上は持っていなかった。


 とは言え、俺も一応は騎士爵という末端貴族の端くれだ。


 五歳になって貴族向けの学校に入学すれば、上手くいけば上位の術式も教えてもらえるかもしれない。


 貴族のややこしいマナー(作法)に関しても、学校が始まってからマナー講師の挙動を『スキルコピー』で丸ごと引っこ抜けば一瞬で物にできるだろう。


「よし、ステータス・クローズ」


 脳内でコンソールを閉じる。


 ちなみに、もう一つの重要なセキュリティ対策として、「ステータス画面は、管理者(俺)の網膜以外には絶対に見えない」という強力な隠蔽をしてある。


 これで、人前でうっかり開いてしまっても情報漏洩の心配はない。


 さて、当面の課題は、下級〜中級魔法の制御レベルをすべて完璧『◎』に引き上げることだ。


 現代で言えば、キーボードのタッチタイピングが手になじんでいるかどうかで、プログラムのコーディング速度と正確性に致命的な差が出るのと同じ。


 熟練度を極めれば極めるほど、ノータイムで術を最速起動できるようになる。


 同時に、こちらの世界ローゲストの近接武術のデータも、もう少し体が成長したら手に入れたいところだ。


 魔法職だからといって、近接戦のディフェンスで遅れを取りたくはない。


 だが、一歳半のちんちくりんな肉体でできる筋トレには限度がある。


 とりあえず、すり足のような特殊な歩法で部屋を歩き回ったり、庭の漬物石を持ち上げたりして、身体パラメータの『力』と『体力』を最低値のIからHまで何とか引き上げた。


 ちなみにこの特殊な歩法、最初は地球のデータベースから引っ張ってきた古流武術の歩法(縮地など)を訓練していたのだ。


 歩き方くらいなら目立たないだろうと高を括っていたのだが──ある日、庭でステップを踏んでいるところを父ギャザーにバッチリ見つかってしまった。


『おいルーカス、なんだその不気味なほど無駄のない足運びは!? 騎士たる者、堂々と大地を踏みしめねばダメだ! よし、パパが我が家に伝わる歩法を仕込んでやる!』


 と、プロのゴリゴリな指導が入ってしまったため、現在は大っぴらにはローゲスト方式の歩法を訓練している。


 目立つのは不味いので、洗練されている地球の武術のステップは、夜中にベッドの上で隠れてこっそり練習する形に切り替えた。


 フィジカル面の訓練が終われば、あとは書架にこもって魔法、神聖術、この世界の歴史や地理の学習だ。


 数学に関しては、ローゲストの文明水準が低すぎて俺にとってはただの算数レベルだったため、すでに完全マスター(習得済み)。


 国語や外国語の文字解析も、ユニークスキル管理者のプラグイン『全言語理解及び会話マスター』の常駐プロセスが自動翻訳してくれるので勉強無しでクリアした。


 書架にはいくつか武術の本もあったが、ローゲストの武術は「男なら力任せに大剣を叩き込め!」というような剛剣・剛拳ばかりだった。


『柔よく剛を制す』というカウンターや合気のような概念は、「女子供向けの軟弱な護身術」として少数派に追いやられているらしい。


(ふん、分かってないな。力任せのゴリ押しなんて、美しいカウンターの一撃で一発倒せるのに)


 そんな感じで、さらに半年間が過ぎ、俺は二歳になった。


 三歳になれば、両親による本格的な魔法・神聖術と、武術の基礎訓練が公式にスタートする。


 そして五歳になれば、貴族の学校への入学だ。


 俺のロードマップとしては、五歳までに最低でも上級魔法までは完全制御(◎)で実戦配備できるようにしておきたかった。


 そうでなければ、ポッと出の貧乏騎士爵の子供など、学校の生意気な上位貴族のガキどもに見下されるに決まっている。


(そのためにも、既存の魔法・神聖術の再構築に余念がないな。もちろん、武術もだ)


 俺は、あえてこの世界では不人気な『柔よく剛を制す』技術を極めることに決めた。


 元日本人として、相手の力を利用する合気道や柔術の方が性に合っていたのだ。


 ……そういえば、前世のMMORPGでは、パーティの都合で無理やりガチガチの重装タンク(盾役)のメイン職をやらされていたっけ。


 本当はスタイリッシュに避けて殴る『武闘家』や、ド派手な広範囲火力をぶっ放す『スペルキャスター(魔導師)』にずっと憧れていたのだ。


 トッププレイヤーになればなるほど、転職したいという思いは強くなったが、そのたびに「お前が抜けたら誰がボスの攻撃を受けるんだよ!」と周囲のギルドメンバーから大反対されて泣く泣く盾を構え続けていた。


(だが、この異世界はソロプレイだ! 誰にも文句は言わせない。今度こそ俺のやりたかった『術王』にして『武王』、究極の魔法格闘を完成させてやる……!)


 何はともあれ、三歳になるまであと一年。


 俺はここへ来て、育成のラストスパートをかけることにした。


 午前は、魔導書と神聖書をうきうきしながら解読し、術式の軽量化と魔力循環の効率化に費やす。


 午後は、徹底的な歩行訓練と、誰も見ていない隙を突いて地球の武術の型を黙々とトレースする。


 どれだけ体が疲れても、あえて神聖術の回復魔法ヒールには頼らなかった。


 神聖術による超回復を日常的に使いすぎると、筋肉が適切なプロセスを踏まずに修復され、かえって生体構造(筋肉の成長)に阻害が生じることを、スサノオ様から頂いた地球の医学データベースから引き出していたからだ。


 筋肉のビルドは、地道なプロテイン効果(食事と休養)に限る。


 その間にも、通信規制の裏をかいて地球のデータを少しずつダウンロードして脳内で解凍する作業も継続していた。


 まだまだ覚えるべき未実装の知識は山ほどある。


 俺は、これ以上ないほど充実した限界育成ライフを送っていた。


 ◆


 ──しかし、そんな平穏な日々は、ある報告によって唐突に終わりを告げた。


 マギナ領からほど近い、広大な『原始の森』。


 その深部において、魔物が一斉に狂暴化して街へ押し寄せる未曾有の大災害──『魔物の氾濫スタンピード』の危険な予兆が観測されたのだ。


 事態は一刻を争う緊急処理案件。


 領主である父ギャザーと、元一流神官の母エルザも即座に武装して前線へと駆り出されることになり、まだ二歳の俺は、戦闘力のない使用人さんと二人きりで屋敷に留守番をすることになった。


 他には、腕に覚えのある近隣の冒険者数人が、生存率の低い斥候(偵察)として、森の奥深くへと先行して消えていく。


 静まり返った屋敷のなかで、俺は小さな拳を握りしめ、窓の外のどんよりと曇った森の空を睨みつけた。


 予定されていた俺の育成ロードマップを嘲笑うかのように、魔物氾濫スタンピードが、すぐそこまで迫っていた。

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