表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/61

第二話 深奥の書庫と叡智の座

 俺は、正面の光の天幕に映し出された詳細な階層図を見つめながら、次に向かうべき探索先を探していた。


 そこで、ふと目に留まった場所がある。


 ──書庫だ。


 この迷宮の最深部にあるそこへは、本来なら数日をかけて罠や魔物を突破しながら進まねばならないはずだった。


 しかし、この中央指令室からならば、すぐ近くにある魔導式の垂直昇降機を使うことで直通できるようだ。


「ほう。超古代遺跡の最奥に、広大な書庫があるみたいだぞ」


 俺が何気なくそう呟くと、室内の全員が一斉にこちらを振り向いた。


 さすがはSクラスの精鋭たちだ。


 年齢の上下にかかわらず、未知の知識に対する興味は人一倍強いらしい。


「そこへ至る踏破経路は判明しているのか?」


 一同を代表するように、侯爵家のパスカルが尋ねてくる。


「ええ、ここからなら、そこの右側にある扉を開けた先から魔導のエレベーターに乗ればすぐです。だいたい四、五分もあれば到着すると思いますよ」


「魔導の……エレベーター? それは一体、どのような仕掛けなんだい?」


「ええと、魔導力を動力にして、上下に高速で移動する箱のような乗り物です。それを使えば、あっという間に最奥の書庫に行けます。超古代の文明は、俺たちが思っていたよりもずっと発展していたみたいですね」


「よし、ならば早速向かおう」


「そう来なくちゃ。みんなも異論はないだろう?」


 全員が無言で、しかし力強く首を縦に振った。


「よし、行こう。レッツゴー!」


「レッツ……ゴー、か。なんだか不思議な気合いの入れ方をするのだね」


「あ、いや、ただの景気づけみたいなものです。まあ、細かいことは気にしないで進みましょう」


 パスカル様の鋭いツッコミに、俺は慌てて愛想笑いを浮かべて誤魔化した。


 いかん。


 また前世の集団戦で気勢を上げていた時の癖が出てしまった。


 極力、こちらの世界の常識に合わせなくては。


 ◆


 その頃、地上では──。


 セマフォ殿下が落ち着かない様子で、広場をあちこちと歩き回っていた。


「殿下、いかがなされましたか?」


「いや……地下に潜ったルーカス伯爵たちの安否が気にかかってね」


「彼は十歳という若さでありながら、我が学院が誇るSクラスの頂点に君臨する御方。そう易々と遅れをとるような真似はいたしますまい」


「だが、油断は禁物だ。彼は将来、僕のすぐ傍らで国を支えてもらう、最も有力な側近の筆頭なのだからな」


「ならば、なおの事、時には配下の実力を信じて待つのも王たる者の器ではございませんか?」


「……それもそうだな。よし、もうしばらく信じて待つとしよう」


「ルーカス伯爵は、極めて希少な『無限収納魔法ストレージ』の使い手でもあります。その気になれば、物資の心配をすることなく一ヶ月は潜っていられるでしょうしね」


「うむ。確かにその通りか。ところで、最後に彼らを目撃した者の報告は?」


「それが、他には目もくれぬ凄まじい速度で遺跡を踏破していったそうで……。現在の詳細な位置までは把握できておりません」


「確か、ルーカス伯爵は超古代の文字をも流暢に読み解けたはずだ。ならば道に迷うこともないのだろう。正しい進路もすべて見抜いているに違いない」


「左様にございます。今はただ、吉報を信じて待ちましょう」


 ◆


「じゃーん! 超古代遺跡の書庫、名付けて『深奥の書庫』へようこそ!」


 昇降機を降りた先で俺が両手を広げると、バイナリが呆れたように声を漏らした。


「おいおい、いつになく高揚しているじゃないか」


「それはみんなも同じだろう? 超古代のあらゆる叡智がここに結集しているんだぞ。ほら、みんなの目だって輝いているじゃないか」


 周囲を見渡していたパスカルが、感嘆の息を漏らす。


「ああ、これは確かに壮観だ……。ところで、中央の一際小高い場所にある、あの豪奢な椅子は一体何だろう?」


「どれどれ……『叡智の座』と刻まれているね。どうやらあの椅子に腰掛ければ、この書庫にある超古代の知識が、すべて脳内に直接授けられる仕組みらしい」


「それは……危険ではないのかい?」


「じゃあ、俺が試しに座ってみるよ」


「お兄様、軽率に触れるのは危険です!」


「アドミナ、大丈夫、大丈夫さ。俺の頭の中にある超古代文明の知識と照らし合わせながら、慎重に精査してみるからね」


「……お兄様がそこまで仰るのなら」


「よし、じゃあ行ってくるよ」


 言うが早いか、俺は小走りで階段を駆け上がり、叡智の座へと腰掛けた。


「ふむ、この頭部を覆う金属製の宝冠を装着するわけか。それで、起動のスイッチがこれだな」


 俺がスイッチを押すと、かすかな駆動音を立てて叡智の座が目も眩むような光を放ち始めた。


(おお……これは凄いな。アカシックレコードから、直接情報を書き写されている感覚に匹敵するぞ)


 ──そして、一時間が経過した。


「ふう。満足、満足」


 そんな声を漏らしながら、俺は座から立ち上がって階段を降りていく。


 アドミナが皆を代表するように、真っ先に駆け寄ってきた。


「お兄様、いかがでしたか?」


「ああ、バッチリだよ。超古代の叡智がすべて頭に入った。ただ、膨大な情報が一気に流れ込んできたから、少し頭が疲れたかな」


 その言葉を聞いたルビィが、少し頬を染めながら申し出てくれた。


「……じゃあ、私の膝を枕にして、少し休むかしら?」


「えっ、いいのか? ぜひ頼むよ。あ、ちなみに順番はみんなで話し合って決めてくれ。喧嘩しないようにね」


 俺がそう告げた直後。


 現在進行形で優しく膝枕をしてくれているルビィと、心配そうに俺の額に手を当ててくれているアドミナの二人を除いた十歳組と五歳組の面々は、即座に円陣を組んで何やら深刻な相談を始めていた。


 どうやら無事に順番が決まったらしい。


 ──ルビィとアドミナの二人は、どう見ても最後尾に回されたようだった。


 それから、メンバーたちは順番に叡智の座へと上り、俺の真似をして頭部に宝冠を戴き、起動の意匠を操作していった。


 流れ込む膨大な情報に圧倒され、誰もが例外なく「おおお……」とか「あああ……」といった雄叫びを上げている。


 そうこうしているうちに、急速に体力が回復してきた俺は、傍らに寄り添う二人へと声をかけた。


「ルビィ、アドミナ、ありがとう。もうすっかり大丈夫だから、二人交代で叡智の座へ行ってきなさい。今度は俺が戻ってきた二人を膝枕してあげるからね。それか、いっそのこと添い寝でもしようか?」


「馬鹿! いくら婚約者だからって、このような公衆の面前で何を……!」


 ルビィは真っ赤になってそっぽを向いたが、アドミナは嬉しそうに目を輝かせた。


「では、お兄様。私は添い寝をお願いいたします!」


「あ……アドミナちゃん、一人だけずるい。抜け駆けは良くないわ。私も、その……添い寝をお願いするわ」


「了解。二人とも、戻ったら添い寝だな」


「「ええ。それでは行ってまいります!」」


 こうして、二人も手を繋いで叡智の座へと向かっていった。


 俺の頭の中では、先ほどまで脳を圧迫していた膨大な知識が完全に馴染み、整理され始めていた。


 古代の文化、風習、芸術……そしてもちろん、失われた高等魔術や神聖術に関する詳細な術式も手に入った。


(前世の世界は科学の力が極限まで発展していたけれど、こうして魔法の力が発展した世界でも、動力源が違うだけで辿り着く結末はほぼ同じになるんだな……)


 そんな哲学的な思考に耽っているうちに、全員が座からの知識の継承を終えたようだった。


 俺は約束通り、休憩スペースに敷いた寝具の上で、ルビィとアドミナを両脇に抱き抱える形で添い寝をした。


 五歳組のマイクロンが、この世の終わりかというほど恨めしそうな視線をこちらに投げかけていたが、気にしない、気にしない。


 ◆


 その頃、地上では──。


 セマフォ殿下が初日の探索の締めくくりと、明日行うべき遺跡調査の割り振りを統率していた。


「結局、ルーカス伯爵の一行は戻ってこなかったか」


「何かしらの大きな進展があったと見るべきでしょう。あの伯爵のことですから、じきに不思議な術式で折られた紙の鳥でも飛ばして、何らかの報告をしてくるかと思いますが……おや、噂をすれば」


 通路の奥からパタパタと飛んできたルーカスの式神が、セマフォ殿下の腕に止まった瞬間、ふわりと光って一通の書状へと姿を変えた。


 殿下はすぐにその書面を開く。


「どれどれ……。──おお、これは凄まじい成果だぞ! 彼らは現在、すでに最下層の深部に到達しているそうだ。さらに広大な書庫を発見し、そこに遺された超古代の文献を、すべて自身の収納魔法ストレージに収めて持ち帰る、とある!」


「それは素晴らしい! これで我が国の超古代文明の解明は、一気に進展することになりますな!」


「ああ。やはりルーカス伯爵だ。期待以上の仕事を平然とやってのけてくれたよ!」


 ◆


 その頃、地下の書庫では、ルーカスたちが和気藹々と夕食を囲んでいた。


「今夜のご馳走はカレーライスだよ。東方のある国で、子供から大人までを虜にした伝説の料理さ」


「なんだか、とても食欲をそそる素晴らしい香りがしますね、お兄様。早速いただいても?」


「もちろんだとも、アドミナ。出来立てでとても熱いから、火傷をしないように気をつけて食べるんだよ」


「はい! ……ええ、これ、もの凄く美味しいです! お肉はもちろん、お野菜の旨味も引き立っていますわ」


「気に入ってくれて良かったよ。さあ、みんなも遠慮せずにたくさん食べてくれ」


 こうして、一同による賑やかな夕食の時間が始まった。


「明日は、この奥にある訓練場へ行って、たった今手に入れた超古代の魔術や神聖術を実際に試してみないかい?」


 スプーンを動かしていたルビィが、その言葉に勢いよく食いついた。


「訓練場ですって?」


「ああ。中に備え付けられた魔導装置を操作することで、魔物の幻影を自由に実体化させられる施設らしいんだ。新しい技の練度を上げるには、これ以上ない格好の場所のようだよ」


「行くわ!」


「ははは、ルビィならそう言うと思ったよ。みんなはどうする?」


「「「行く!!」」」


 全員の意見が一致し、明日の予定は訓練場での実技に決まった。


 ──それが、後に迷宮を揺るがす大騒動(悲劇か、あるいは喜劇か)の幕開けになるとは、この時の彼らはまだ知る由もなかった。

【 読者の皆様へお願い 】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

下記の【ブックマーク登録】や、

評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、

毎日の執筆の大きな大きな励みになります!いただいた星とブクマの数が、

物語を完結まで引っ張る原動力になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ