表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/34

第三話 神託(オラクル)と再度のステータス・オープン

 それは、あまりにも唐突な神託オラクルだった。


 ベビーベッドの上で、母エルザによる毎晩のルーチン──『魔導書』の読み聞かせが終わった直後のこと。


 エルザが本を片付けるために一度部屋を後にした、その一瞬の隙を突くようにして、部屋の中に厳かな光が満ちた。


 光の粒子が集まり、あの最高管理神の幻影がホログラムのように浮かび上がる。


『──地球アースの管理者との事前交渉ネゴシエーションが完了した。今後、お前の魂は正式に我がローゲストの管理下に置かれる。ただし、向こうの神々の強い要望により、地球との部分的な接続も許可された。その恩恵として、お前には魔力・神聖力に加え、地球由来の『神通力』も付与される。……フハハ、それも“無制限”にな!』


「…………」


『もっとも、完全に無力化されて言葉も喋れぬ赤子となったお前には、地球の言葉で言うところの「猫に小判」「豚に真珠」というやつだがな。無駄にするだけだろうが、精々こちらで人間らしく励むが良い。これでお前へのリアルタイム監視も終了じゃ。好きに生きるが良い、さらばだ!』


 言いたいことだけを一方的に告げ、勝ち誇った顔で主神の幻影が消滅していく。


 それを見届けた俺は、ふっと小さな赤ん坊の唇の端を吊り上げた。


(監視の終了、自分から宣言しちゃったよあの神様。わざわざ『無制限』の拡張適用までしてくれるなんて、神対応がすぎるだろ……)


 俺はさっそく、新しく付与された『神通力』の循環を試みた。


 やはり最初だけは回路がこじ開けられる特有の痛みが走ったが、その後は魔力や神聖力と同じように、スムーズに巡り始めるのが分かった。


(なるほど。魔力は体全体に血液が行き渡るようなエネルギー。神聖力は、神聖書に出てきた『セフィロトの樹』の概念回路に近い聖なる輝き。じゃあ、この神通力は……)


 神通力は、へその下にある『丹田たんでん』から、脳天に向かって熱い塊が循環していくような、これまでにない全く新しい感覚だった。


 ただ、神通力は地球由来の力であるせいか、ローゲストの魔導書を読み聞かされている今の俺には、イマイチ具体的な使い道が分からない。


(だけど、さっき主神のやつ『地球との接続も可能』って言っていたよな。ってことは、故郷の地球のサーバー……いや、『アカシックレコード(世界の全記憶データベース)』にバックドアを仕掛けてアクセスできれば、安倍晴明みたいな陰陽術や退魔術も引っ張っていけるんじゃね? 過去の天才たちの実戦データがそのまま収集できるぞ。……うわ、ワクテカが止まらなくなってきた!)


 こうしちゃいられない。


 俺は中断していた『ステータス・オープン』のオリジナル術式の作成を急いだ。


 他人のパラメータや世界の内部データを覗き見るには、神々の持つ高次元の権限──すなわち『神聖力』のコマンドが必要だったのだ。


 神聖力をハッキングツールとして組み込み、ついに完成した自作コンソールをさっそく実行する。


 ◆


【ステータス(βテスト版:Ver 0.1)】

 種族: ■■■■■■■■・■■

 名前: ルーカス・マギナ

 性別: 男

 職業: 賢者・魔導師・■■■・■■■・■■■

 ステータスランク: 【力:I】 【魔力:∞】 【神聖力:∞】 【神通力:∞】 【体力:I】 【器用:I】 【素早さ:I】 【運:SSS】

【スキル】

  生活魔法・下級魔法・中級魔法・上級魔法・下級神聖術・中級神聖術・上級神聖術

【エクストラスキル】

 ギャザーが集めし秘術・ストレージ・ラーニング・無詠唱・スキルコピー

【ユニークスキル】

 管理者(Root)・ハッキング(※隠蔽中)・賢者の叡智・魔導の深奥・陰陽道の極意・退魔の秘奥・地球の神々の寵愛

 ◆


 脳内に展開された実行結果画面を見て、俺はベッドの上でひっくり返りそうになった。


(おいおいおい、ツッコミどころが多すぎるだろ!)


 魔力と神聖力、環境を問わない神通力がすべて『∞(無限)』になっているのは、さっき主神が『無制限』と言っていたので納得がいく。


 身体パラメータがすべて最低値の『I』なのも、まだ生後まもない赤ん坊(初期値)なので仕様通りだ。


 だが、運の『SSS』は意味が分からない。


 確率操作バグを疑うレベルだぞこれ。


 スキル欄に下級〜上級の魔法や神聖術がズラリと並んでいるのは、毎晩エルザが魔導書と神聖書を読み聞かせてくれたおかげだろう。


 俺の脳がそれを全自動で取得したわけだ。


(問題は、エクストラとユニークスキルだ……)


『ギャザーが集めし秘術』。


 父さんが戦場を駆け巡って自国や他国の秘術を集めたデータが、なぜか息子である俺の初期データに遺伝(継承)している。


 親父、現役時代にどんなチート魔術を収集してたんだよ。


 さらに、一度見た技や術を覚える『ラーニング』、呪文の詠唱をスキップする『無詠唱』、他人のスキルを複製する『スキルコピー』まである。


 そしてユニークスキルの極めつけ。


 俺の根幹である『ハッキング』だ。


 これらはローゲストの神々(運営)に検知されたら即、処分を食らう危険物なので見えるようハッキングを隠蔽しておいた。


 それに並んで──『陰陽道の極意』『退魔の秘奥』、さらには『地球の神々の寵愛』という文字が刻まれていた。


(……なるほど。地球の神々からの、粋なお餞別ギフトってわけか)


 まだ『種族』や『職業』の一部のデータが『■■■』と文字化けを起こしているが、これはまだ俺が自作したステータス画面がβテスト版だからだろう。


 トライ&エラーを繰り返してデバッグしていけば、そのうち綺麗に見えるようになるはずだ。


 脳をフル回転させて検証を行っていると、急激な眠気が襲ってきた。


 ちょうど部屋に戻ってきたエルザが、愛おしそうに俺の額にキスをして明かりを消す。  俺は心地よい疲労感のなかで、ゆっくりと深い眠りへと落ちていった。


 ◆


 ──その夜、俺は不思議な夢を見た。


 真っ白な空間に、地球の神々が勢揃いしているのだ。


 神々はそれぞれ俺に向かって何かを温かく語りかけてくれているのだが、音声データが途切れたように口パクで、何を言っているのかが聞き取れない。


(ローゲストの最高管理神のやつ、地球からの通信にアクセス制限をかけやがったな……?)


 嫌がらせのような制限に呆れていると、神々の中心から一歩前に出た、一際ワイルドで猛々しい男神──須佐之男命スサノオノミコト様が、不敵に笑って俺に親指を立て、グッと拳を突き出してきた。


 あぁ、言葉なんて要らない。


 神様たちの言いたいことは全部伝わった。


 俺も赤ん坊の小さな拳を突き出し、スサノオ様と力強くグータッチを交わす。


 神々は満足そうに手を振りながら、静かに夢の彼方へと去っていった。


 ◆


 パチッと目覚めると、外はすっかり朝になっていた。


 何気なく、もう一度脳内でステータス画面をリロード(再読み込み)してみる。


(──っ!? 文字化けが直ってる!?)


 なんと、職業欄の『■■■』で隠されていた3つのジョブが、【陰陽師】【退魔師】【武闘家】と完全にアンロックされていた。


 それだけではない。


 エクストラスキルに『武術全般』、ユニークスキルに『地球の武術全般◎・陰陽術・退魔術・魔術』がドサッと追加されていたのだ。


(スサノオ様は、武術や勝利を司る神でもある……。なるほど、さっきのグータッチは、通信規制をすり抜けて俺の魂に直接チートを流し込むための『物理データ転送』だったのか!)


 さらに、新しく『称号』というログ項目まで生えていた。そこには【術王】と【武王】の二文字。


 地球のあらゆる魔術と武術をマスターした者に与えられる、最高位の称号だ。


(……うん、これ、他人に見られたら一発で国家転覆レベルの危険人物として処刑されるやつだわ)


 俺は冷や汗を流しながら、自作の『ステータス・オープン』の術式を完全ステルス化(暗号化)することに決めた。


 よほどの緊急事態がない限り、人前で披露するのは絶対にやめようと固く心に誓う。


 試しに、頭の中で『武術』のログを少しだけ閲覧してみた。


 その瞬間、脳内に居合、合気道、空手、ボクシングといった地球のあらゆる体術の実戦データがドッと流れ込んできて、軽い頭痛が走った。


(危ねえ……! これ、一気に全データを脳内にダウンロードしたら、また五日間昏睡するやつだ。ダウンロードマネージャーを設定して、一週間に一つの武術ずつ、小分けにして実装していこう)


 それにしても、生粋の魔導師の家系(マギナ家)で、誰にも教わっていない地球の古流武術や格闘技を使い始めるのは色々と問題がある。


 これも基本的には秘匿だな、とベッドの中で一人ごちる。


(そもそも、刀や槍みたいな地球の武具なんて、このファンタジー世界の騎士爵家には無いだろうし──)


 そう思った瞬間、俺の小さな左手が淡く発光し、手のひらの中に、見慣れない漆黒の『刀のつか』が実体化しかけた。


 焦って引っ込めると、それはスッと消える。


 エクストラスキル『ストレージ』の自動呼び出し(ショートカット機能)が暴走したのだ。


 慌てて脳内にストレージの内部構造を展開して、中身をのぞき込んでみる。


 そこには、地球製の業物(刀・西洋剣・槍)、山のような武術書、陰陽道の護符、自由に使用できる地球の魔導書グリモワールが、テラバイト級の大容量でぎっしりと格納されていた。


(スサノオ様……口パクで「差し入れ入れといたぞ!」って言してたんだな……)


 俺は静かに、天の彼方にいるであろう地球の神々へ向けて、心からの感謝のありがとうを念じた。


 返事は返ってこなかったが、さっき交わしたグータッチの熱い感触だけが、掌に鮮明に残っていた。


 味方は神界(しかも地球側)にいる。


 なら、それでいい。


 今はそう納得することにしたルーカスだったが、この地球の神々による『非公式の大型アップデート』が、近いうちに周囲の人間や、ローゲストの神々をふたたび大混乱に陥れる導火線になることを、彼はまだ予感することしかできていなかった。

【 読者の皆様へお願い 】

もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

下記の【ブックマーク登録】や、

評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、

毎日の執筆の大きな大きな励みになります!いただいた星とブクマの数が、

物語を完結まで引っ張る原動力になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ