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第九話 Sクラス

 順位決定戦が幕を閉じ、俺たち最年少クラスの最終結果が出揃った。


 Sクラスの席次は、俺、パスカル様、ルビィ、シー様の順。


 メンバーの入れ替えも追加もなし。


 Aクラスはモッド伯爵家のバイナリが筆頭トップになり、準々決勝でルビィと戦った魔術師が次席に滑り込んだ。


 それ以外のクラスは、上位から下位にいたるまで、目立った地殻変動は起きていない。


 だが、これはあくまで現時点に過ぎない。


 俺がばら撒いた高位魔法や神聖術の知識が完全に馴染む来年頃には、下位クラスの連中も化け物じみた成長を遂げているはずだ。


 そして、この大会を境に、学院内のSクラスという概念の定義そのものが完全に書き換わってしまった。


 これまでは単にAクラスより技能が上の者という認識だったが、現在の共通認識は、Aクラスとは完全に格が隔絶された、追随を許さない異次元の怪物、というものだ。


 結果として、一つ上の学年から最年長にいたるまでの既存のSクラスで大規模なクラス再編リストラが敢行され、グレーゾーンにいた実力不足の先輩たちが次々とAクラスへ降格される事態になった。


 俺たちの戦いを見て、講師陣も生徒もSの基準を生ぬるく設定していたことに気づき、規定を見直したらしい。


 逆恨みされるかと思ったが、アリーナで見せつけられた圧倒的な実力差の前に、全員が沈黙し、納得するしかなかったようだ。


 いまや全校生徒の一致した認識は、最年少Sクラスは、化け物と麒麟児の巣窟である。


「ねえルーカス、シー様は回復魔法が使えるだけで、化け物枠じゃないよね?」


 特訓の合間にルビィがそんな不敬な疑問を口にしたが、俺は静かに首を振った。


「ルビィ、この学院で『リザレクション(死者蘇生)』を完全無詠唱で扱えるのは、おそらく俺とシー様くらいだ。年長組のSクラスにさえ一人もいない。彼女は立派な麒麟児チートヒーラーだよ」


 通常の十六倍の破壊力を乱射する俺とルビィ。


 その猛攻を耐え抜き、暗殺術の枠を超えた『魔鋼糸術』でルビィを魔力枯渇まで追い詰めたパスカル様。


 物理法則(熱疲労)で糸を砕くなんていう無茶な事が出来るのは俺たちくらいなもので、普通ならパスカル様の糸に囚われた時点でチェックメイトなのだ。


「パスカル様、実家のヴィルト侯爵家に『魔鋼糸の改良(素材変更)』を依頼したらしいぞ。ハッキングの脆弱性対策もしてくるだろうな」


「へえ、おもしろいじゃない。次はどう切り裂くかワクワクするわ」


 不敵に笑うルビィは、現在、俺の格闘術をベースに、さらなるオリジナルスキルの開発に没頭している。


 急造だった抜刀術を極めるだけでなく、無属性の『時空間魔法』をブレンドし、空間の座標ごと相手を切り裂く居合を特訓中だ。


 これが完成すれば、どんな帝級防壁だろうが防御判定を無視して即死させられる。


 さらには、相手の『転移魔法』の出現を先読みして無効化するカウンターまで研究しているというから、彼女も十分に化け物の領域へ足を踏み入れている。


 ちなみにシー様はというと、最近なぜか「前衛で殴り合いたい」と言い出し、メイスではなく槍術に目覚めて『聖騎士パラディン』へのジョブチェンジを果たしていた。


 傷ついてもノータイムで自己治癒オートリペアし、死にかけてもリザレクションで自力復活してくるゾンビタンク。


 敵に回したら一番厄介なジョブチェンジである。


 ◆


「──なるほど、基礎の魔力回線が細いから、詠唱を破棄した瞬間に魔法の構造式がクラッシュしてしまうのですね」


「そういうことです、セマフォ殿下」


 ある日の午後、俺は四歳になるセマフォ殿下とお茶会(という名の技術カウンセリング)を執り行っていた。


 殿下はすでに帝級魔法と神聖術の適性を所持しており、ステータス的には将来のSクラス確定なのだが、完全無詠唱がどうしても習得できず、魔術回線が安定しないと悩んでおられた。


 先輩としてアドバイスを求められた俺は、五歳の子供の仮面を外し、前世の「守(二十九歳・システムエンジニア)」の思考ロジックを回した。


「殿下、焦って高レベルの魔法陣を無詠唱で走らせようとしてはダメです。まずは生活魔法のような、極めて小さな基本構文から無詠唱化し、脳内の魔力回路を最適化していくのが一番の近道です。焦らず、じっくりと鍛錬してください。私と同じオールラウンダー(器用貧乏)を目指すなら、なおさら基礎の鍛錬が命ですよ」


「……基礎の鍛錬。素晴らしい金言です、ルーカス殿!」


 殿下は小さな手で一生懸命にメモを取っている。


 よしよし、素直で良い子だ。


 殿下を見送った後、俺は一息ついて、最近チェックしていなかった自身のステータスを久々に起動してみた。


 ◆


【ステータス(仮リリース:Ver 0.99)】

[基本ステータス]

 名前:ルーカス・マギナ

 年齢:五歳

 種族:ハイ=ヒューマン・聖人

 練度:C (★Up!)

 職業:賢者 ・ 魔導師 ・ 陰陽師 ・ 退魔師 ・ 武闘家

[ステータスランク]

 知力:SSS (★Up!) / 知識:SS / 知恵:SSS (★Up!)

 力/体力/器用/素早さ:E / 運:SSS

 魔力 / 神聖力 / 神通力:∞

[アクティブ・スキル]

 全魔法:◎ (★Merge!) / 全神聖術:◎ (★Merge!)

[エクストラ・スキル]

 ギャザーが集めし秘術・改:◎ / ストレージ / ラーニング / 無詠唱 / スキルコピー / 古代魔法:◎ / 超古代魔法:◎ / 竜言語魔法:◎ / 魔力視:◎ / 条件コンパイル / 宮廷マナー / 魔鋼糸術:◎ (★New!) / 地球の武術全般 ・ 陰陽術 ・ 退魔術 ・ 魔術◎ / 食材リファクタリング / 並行調理プロセッサ

[ユニーク・スキル(管理者権限)]

 管理者(Root/※全言語理解及び会話マスタープラグイン内包、※思考トリガーUI拡張) / ハッキング:◎ (★Up!) / 賢者の叡智 / 魔導の深奥 / 陰陽道の極意 / 退魔の秘奥 / 地球の神々の寵愛 / ローゲストの神々の加護 / 地球の一流料理人及びパティシエ (★Merge!)

[称号]

 賢者 / 禁忌の淵を覗いた者 / 地球の術王・武王 / 赦されし者 / ドラゴン・スレイヤー / ジャイアント・キリング / 一流シェフ兼パティシエ

 ◆


 現在のステータス、仮リリース版バージョン0・99の表示によると、パスカル様との一戦による莫大な経験値の流入で、練度もCにクラスアップ。


 知力と知恵はアップして最高ランクのSSS、知識はSS。


 スキル欄には生活魔法のほか、統合された全魔法と全神聖術がそれぞれ最高評価の二重丸で並ぶ。


 エクストラスキルには、今回新しく魔鋼糸術が二重丸で加わった。


 ユニークスキルには、シェフ兼パティシエスキルが統合された一流シェフ兼パティシエ、そして最後に今回新しく習得したハッキングの二重丸が並んでいた。


(……よし、手札の整理はついた。なら、そろそろサポートAIを組み込むか)


 俺は脳内のサポートAIを駆動させ、ローゲストのメインサーバーの自分の権限にアクセス。


 この『ステータス・オープン』の表示システムと、サポートAIのプログラムを完全にマージ(一元化)するパッチを適用した。


『──システムアップデートを実行します。Ver 0.99 から Ver 1.00(リリース版)へ更新。UIユーザーインターフェースの最適化が完了しました』


 脳内にクリアな音声が響き、視界が劇的に見やすくなる。これほど大規模なシステム改ざんを無断で行ったのだ。


 ハッキングという物騒なスキルを公開したことも含め、神々に目をつけられたら不味い。


 俺はリスクヘッジ(ワイロ)として、即座にストレージから自家製の高級イチゴのホールケーキを取り出すと、主神様への祭壇へとお供えした。


『──チーン(神々より、極めて良好な接続・感謝のシグナルを受信しました)』


 よし、買収完了。


 神々からの警告(天罰)は来ない。


 ハッキングなんていう世界崩壊バグを引き起こしかねない術は、極力使わないでおこう。


 水を得た魚のように快適な環境だが、乱用は禁物だ。


 ──だが、この時のルーカスはまだ気づいていなかった。


 神々という遠い存在の監視よりも先に、もっと身近な、そしてもっと恐ろしい存在のロックオン(監視の目)が、すでに自分に向けられているということに。

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