第十話 帰還
王都を出立した俺たちのパーティは、マギナ領まで残りおよそ一週間というフィールド(街道)まで差し掛かっていた。
馬車と船の定期便を使えば一ヶ月で到着するルートなのだが、あえて陸路を選んだ俺たちは、ここまで約三ヶ月の時間を費やしていた。
だが、この三ヶ月は無駄な待機時間ではない。
道中、新メンバー五人の肉体と認識のラグを修正するリハビリ訓練を並行処理していたおかげで、今ではメンバーたちとも完全に打ち解け、俺は彼らから「ルーちゃん」や「ルー坊」といった、実年齢(三歳)相応の親しみやすい愛称で呼ばれるようになっていた。
この関係性のアップデートには、明確な理由がある。
「緊急事態のバックアタック(敵襲)を受けた際、いちいち『ルーカス様』なんて長い敬称のコマンドを入力していたら、戦術の応答速度が遅れて全滅する。だからフィールドでは全員、役職抜きの呼び捨てで統一しよう」
そう、俺自身がシステム提案したのがきっかけだ。
その代わり、俺も彼らを「アーラン」「アルゴル」と呼び捨てにする双方向のルールにした。
ちなみに、軍師アルゴルを始め、パイソン以外の四人は当初、
「俺たちを奴隷に落とし、あんな酷い目に合わせた『教会派の黒幕』を、いつかこの手で復讐してやりたい」
と、熱いリベンジを燃やしていたのだが──それを聞いたパイソンが、
「ああ、それなら心配いらんぞ。我が主が以前、不届き者どもの拠点を『メテオ・ストライク』で山ごと消し飛ばして、一瞬で遺跡ごと消去されたからな」
と、とんでもない過去の所業を漏洩してしまった。
それを聞いた五人は、凄まじい衝撃でしばらくフリーズした後、腫れ物に触るような表情で「……ルーカス、様」と、再びガチガチの敬語モードに逆戻りしてしまったのだ。
俺は慌てて、
「メテオ・ストライクは超一級の禁呪だから、絶対に外部非公開(秘匿)にすること! あと、様付けは本当に戦線維持の邪魔だからやめて!」
と必死に懇願し、しばらくしてようやく元の呼び捨てに直してもらった。
だが、その一件以来、パーティメンバーとの本当の意味での意思疎通が完璧にハマるようになったのは、言うまでもない。
規格外すぎる主人のスペックを、全員が完全補正(理解)したからだろう。
そして、この長い旅の途中で、俺は四歳の誕生日を迎えていた。
せっかくなので自分で自分を祝おうと、前世の記憶(地球のライブラリ)から『ザッハトルテ』のレシピを取り出し、ストレージの最高級チョコと魔導コンロをフル稼働させて作り、メンバー全員に振る舞ってみた。
これが超高評価(大好評)を叩き出し、それ以来、一週間に一度、俺がデザート作りを担当する事が定着した。
もちろん、完成した最高品質のデザートは、いつも俺の事を支えてくれている『最高管理神様』への定時献上として、異空間ストレージへ転送している。
ある日、その献上の現場を、聖職者のピエトさんに見られてしまった。
「……神へ直接、供物を転送する権限を持っているなんて、やはりルーカス様は神の使わしめられた聖人……!」
と、またしても「様付け」が発生してしまった。
だが、俺はすかさず「様付けを止めてくれるなら、次回の主神様への献上の際、同席を許可します」という取引を提示したところ、彼女は二つ返事で快跨。
それ以来、様付けはされなくなったものの、代わりに瞳の奥に狂信的なレベルの尊敬の眼差しが常時されるようになってしまった。
「その様な善行(定時献上)を日々積み重ねておられるからこそ、帝級神聖術という神域の魔法まで扱えるのですね」
と、ピエトから深く感銘を受けたように言われたが、
「そうですね。主神(最高管理神)様は、常に人々の善行を見ておられますから」
と、もっともらしい返事を返しておいた。
◆
そんなある日のこと、俺たちは補給のために近くの村に立ち寄った際、「近隣に魔物の新しい巣が出来たらしく、農作物を荒らされて困っている」という深刻な相談を受けた。
俺たちはすぐに調査を受託。
俺の『探索魔法』のパッシブ範囲を、村を中心にグングンと広域展開していく。
程なくして、森の奥深く、山腹にある巨大なダンジョン(洞窟)の内部に、高密度の『オークの群れ』のアカウントを多数検知した。
軍師アルゴルが即座に戦術作戦を組み立てる。
「相手は完全な数の暴力だ。何のバフもなく普通に正面から突入しただけでは、全滅する可能性が高い。……今回は、以前ルー坊から聞いた、例の『粉塵爆発』を試させてもらうぞ」
アルゴル式のオーク洞窟粉塵爆発の工程表に基づき、俺たちは作戦の実行へと移った。
村から提供された大量の小麦粉を、俺の無限容量ストレージへ一括格納。
そして、すべては事前の計算通り、処理していく。
まず最初の仕事は、ゲートキーパーの排除だ。
洞窟の入り口で見張りをしていたオークに対し、ハスケルが音もなく肉薄する。
彼の超高速のアタックにより、オークは悲鳴を上げる間もなく無力化された。
障害が消えたところで、即座に次のリソース配置へと移行する。
俺たちは村から提供してもらった大量の小麦粉を、洞窟の入り口へと一斉に配置した。
続いて、この小麦を洞窟の奥まで広域拡散させるフェーズだ。
ここでリスプが前に出る。
彼女が展開した『風の精霊魔術』によって生み出された緻密な風の制御が、配置された小麦粉の粒子を巻き上げ、洞窟の内部へと均一に充満させていく。
洞窟内が白い粒子で満たされた絶妙なタイミングを見計らい、俺は密閉環境の構築を試みる。
俺の『土魔法』を発動し、むき出しの岩を瞬時に構成。
入り口を巨大な岩盤で完全に閉塞した。
これで、内部の圧力を限界まで高めるための密閉空間が完成する。
準備はすべて整った。
最後は実行をするだけだ。
俺はあらかじめ内部へと射出しておいた陰陽術『発火の護符』に意識を向け、遠隔でアクティベート(点火)した。
──ドオォォォォォンッ!!!
──刹那、密閉された岩盤の向こうで、計算通りの大爆発(粉塵爆発)が激しく駆動するのだった。
すぐさま俺が土魔法の岩盤を消去して洞窟内に突入すると、内部はまさに阿鼻叫喚の凄惨な光景を呈していた。
オークのほとんどは、一瞬の超高熱と急激な酸素消費によって、反撃を打つ間もなく事切れていた。
だが、やはり最奥のエリアには生き残りがいた。
上位種である『オークジェネラル』が二体、その巨体ゆえの高いHPで耐えきっていたのだ。
しかも、そのさらに後ろの暗闇の奥から、禍々しい魔力パルスを放つ巨大な影──『オークキング』が、その醜悪な顔を覗かせた。
(……危ないところだった。もう少し放置していれば、この洞窟全体がキングを頂点とする大規模なレイドボス拠点に完全進化していたぞ)
だが、軍師アルゴルの思考に混乱はない。
「パイソン、アーラン! ジェネラルを1体ずつマーク(ヘイト固定)! ──ハスケル、お前はキングの突進軌道を潰せ! リスプ、即座にキングの拘束を!」
アルゴルの鋭い音声コマンドが飛び交う。
前衛の獣人三人が瞬時にポジショニングさせて飛び出すと同時に、俺とピエトの2人で、前衛へと最高倍率の『身体強化(攻撃・速度特大バフ)』を並列で付与していく。
ここまではアルゴルの完全な計算通りだ。
すかさず、精霊術師のリスプが『植物拘束の精霊術』の呪文を高速展開。
オークキングの太い足元から、鋼並みの強度を持つ蔦が爆発的に生い茂り、その巨体をがっちりとホールド(ロック)した。
その間、俺は脳内で『ストーンバンカー(岩の杭)』の構築データをスタンバイさせておく。
「──全員、クリア(離脱)!!」
アルゴルから口笛のトーンによる、一斉離脱コマンドが響いた瞬間、前衛の獣人三人がバックステップで一瞬にして射線から退避した。
ターゲットの座標が完全にクリアになった刹那、俺はチャージしていた土魔法を完全解放する。
「──『アースバンカー(大地の穿杭)』、執行」
ドンッ!! という地響きと共に、洞窟の床面から、天を衝くほどの鋭利な巨大岩石の杭が爆発的に突き上がり、ホールドされていたオークキングとジェネラル二体の肉体を、下顎から脳天へと完全に垂直貫通(一撃必殺)した。
さらに追い打ちとして、リスプが風魔法の『衝撃の刃(真空波)』を乱れ撃ち、残る生命力を完全にゼロへとすり潰す。
すべての戦闘が終わった頃には、そこにはジェネラル二体とキングの、文字通りの完全な屍が転がっているだけだった。
俺たちは討伐の証明である魔石を手際よく回収し、村へと凱旋した。
村に戻った俺は、キングとジェネラルの巨大な魔石3つを村長に直接手渡し、
「この魔石の売却益で、被害に遭った農作物の補填や、村の復興に当ててください」
と伝えた。
村長は、まさかこれほどの上位素材を丸ごと無償提供されるとは思っていなかったようで、ボロボロと大粒の涙を流して服が滲むほどに泣いて喜んでくれた。
その晩は、村を挙げての盛大な勝利の宴(祝勝パーティー)が開催された。
村人たちが極上の酒を酌み交わす中、俺の前に差し出されたグラスの中身は……安定の『温かいミルク』だった。
(……ちくしょう。この時ほど、自分の肉体が「四歳児」のままであることを疎ましく思ったことはないな……!)
俺は心の中で前世のビールを恋しく思いながら、大人しくカルシウムの補給(ミルクの飲み干し)に専念した。
◆
翌朝。
村を出立する時間になると、村人たちが総出で盛大な見送りの列を作ってくれた。
俺たちは何度も手を振り返しながら、いよいよ最終目的地であるマギナ領へのルートを再開した。
この村のエリアを通過すれば、我が実家(マギナ領の本拠地)には、あと1日半の時間で到着する計算だ。
脳内思考に、優しくて大好きな両親の顔、そして可愛い幼馴染(婚約者)のルビィの笑顔。
さらには、俺が王都へ行っている間にこの世界に新しく誕生しているはずの、まだ見ぬ弟か妹の顔が思い浮かぶ。
(よし、まずは到着の先ぶれを送っておくか)
俺は陰陽術の『式神(白紙の符)』を構築し、それを伝書鳩の3Dモデルへとトランスフォーム。
実家の座標を指定して、大空へと高速射出した。
先ぶれの仕事を終えた俺たちは、そのまま順調に整備された街道を進行していった。
◆
その頃、マギナ領の男爵邸では。
「──エルザ、ルーカスから『先ぶれの紙の鳥』が届いたぞ! いよいよ明日、王都から帰還するそうだ!」
ギャザー男爵が、嬉そうに手紙を読み上げる。
「まあ……! やっと、やっとルーちゃんに会えるのね!」
ベッドの上で、母のエルザは愛おしそうに自身の胸元を視線に収める。
そこには、生まれたばかりの、まだ小さな小さな新しい命があった。
「もうすぐ、とっても優しくて強くて、最高にカッコいいお兄ちゃんに会えるわよ。……ねえ、アドミナ」
母に優しく名前を呼ばれた赤ん坊──アドミナは、まだ見ぬ兄の存在を予感するように、小さくその手足をバタつかせていた。
◆
一方、街道を進む俺たちのチーム。
「ルー坊、急に顔の表情がソワソワしてどうしたんだい?」
並走する軍師アルゴルが、俺の落ち着かない様子を気にして声をかけてきた。
「いや……予定通りなら、実家で新しい弟か妹が生まれているはずなんです」
「ああ、なるほど。ルー坊もついに『お兄ちゃん』という新規ジョブ(役職)に就任するわけだな」
「ええ。早く会いたくて、ちょっとはやり気味です」
「なら、ここから全体の移動を少し上げて行くかい?」
アルゴルの提案に対し、俺は首を横に振った。
「いえ、安全第一です。こういう目的地直前の『気が緩んだ瞬間』ほど、予期せぬ危機への対処に遅れが出ますから。最後まで慎重な行動で行きましょう」
「……相変わらず、中身のスペックが大人びているな。その通りだ。──よしリスプ、周囲の精霊のパッシブセンサーに何か反応があれば即座に割り込みをくれ」
「オッケー、了解。……今のところ、周辺は完全クリア(敵影なし)よ」
「よし。じゃあ今日のセーフエリア(適切な寝床)を探しながら進もう」
──と、アルゴルが指揮を吐き出したその数十分後、前方の死角から、ゴブリン十体がポップ(出現)した。
アルゴルの瞳の奥に、不敵な光が宿る。
「おい、野郎ども! 雪辱戦だ! 王都を出た最初のフィールドでの、あの無様な失態を、ここで綺麗に返上するぞ!」
「「「おう!!!」」」
アルゴルの激しい檄に応じるように、前衛の3人──パイソン、アーラン、ハスケルが電撃的にフロントラインへとシフトし、ゴブリンの群れを完全にけん制する。
その間に、アルゴルは後衛への命令を流れるように出力。
「ピエト、前衛3人にスピードと攻撃のバフを! ──リスプ、ゴブリンどもの足元に俊敏性低下のデバフ(足止め精霊術)を!」
俺は、激しい混戦状態に突入した前線を見つめながら、いつでも高火力の支援スペルを撃ち込めるようバックエンドで待機していた。
──だが、俺の出番は、一秒たりとも必要なかった。
まさに『鎧袖一触』。
最高倍率のバフを得たパイソン、アーラン、ハスケルの三人は、全盛期どころか以前を遥かに凌駕する圧倒的な速度と破壊力で、ゴブリンを次々と撃破していく。
刃のブレ、ステップのラグ、脳の認識バグ──それら全てが、この三ヶ月の時間(猛訓練)で完全に修正されていたのだ。
程なくして、ゴブリンの群れは跡形もなく一掃された。
(凄いな……。全員、完全に全盛期の最高スペック(ポテンシャル)を取り戻している)
◆
その晩のキャンプでのことだった。
焚き火の明かりの中、アルゴルをはじめとする五人の新メンバー、そしてパイソンが、俺の前に改めて居住まいを正して向き直った。
そして、軍師のアルゴルが、全員を代表して静かに、だが極めて重みのある宣言を口にした。
「──ルーカス。俺たちはこの3ヶ月でお前の器を十分に監査させてもらった。……結果は、俺たちの完全な
敗北だ。お前はただの規格外の化け物(天才)じゃない。俺たちの命を救い、尊厳を戻し、そして戦う力を再構築してくれた、最高の『主』だ。……俺たち五人の今後の生涯、お前に主事させてほしい」
俺の網膜の奥に、かつてないほど重厚なメッセージがポップアップした。
それは、これまで俺の無茶な冒険に付き合ってくれた仲間たちとの関係性が、次のフェーズへと移行したことを告げる通知だった。
【契約のアップデート】
対象となるユニットは五名──アーラン、ハスケル、リスプ、ピエト、そしてアルゴル。
彼らとのこれまでの関係を示す旧契約ステータスは、いわば『試用運転モード(テストドライブ)』。
お互いの性能や相性を見極めるための、暫定的なテスト期間に過ぎなかった。
だが、数々の死線を共に潜り抜け、不具合を潰し合ってきた今、その生ぬるい契約は書き換えられる。
新たに更新された新契約。
そこに刻まれたのは──『永久独占締結(生涯忠誠完了)』の文字だった。
(……生涯忠誠、か)
脳内のログに刻まれたその一文を見た瞬間、胸の奥が熱くなるのを覚えた。
もう、彼らは単なる一時的なパーティメンバーではない。
俺という存在の根幹に組み込まれた、決して切り離せない生涯のパートナーとなったのだ。
俺は視界の端で静かに輝くその確定をクローズし、隣で次の指示を待つ仲間たちへと、力強く、そして信頼を込めた視線を向けるのだった。
その真摯な申し出を聞いた俺は、胸が熱くなるのを抑えきれず、満面の笑みで二つ返事で了承した。
「喜んで! こちらこそ、皆さんのような優秀な人財が仲間になってくれて、本当に心強いです」
アルゴルたちは嬉しそうに表情を緩め、今後一年間はパイソンと共に、マギナ領の私設騎士団の初期基盤のビルド・運営に全面協力してくれることも約束してくれた。
俺は、彼らへの感謝が止まらなかった。
前世の社畜時代にはどれだけデスマーチを回しても得られなかった、これ以上ない最高峰の『人財(仲間)』の獲得。
これもきっと、俺の固有初期スペック『運:SSS』と、地球の神々、そしてローゲストの神々が裏で付与してくれた加護の恩恵に違いないと、俺は神々への信仰心(信心)をさらに深めていくのだった。
◆
翌朝。
俺たちは最終目的地のマギナ領に向けて、最後の出立を果たした。
予定通りにいけば、今日の正午には領地の実家に到着する予定だ。
俺は、並んで歩く六人の頼もしい背中を見つめながら、今後の長期的な人員配置を脳内でアップデートしていた。
(この六人と過ごすうちに確信した。この七人の結束は、いつか僕の領地経営において、絶対に欠かせない最重要人財になる。……よし、王都の伯爵邸の護衛は、一年後に別途新しい人員を外部から入手して入れ替え、この五人はそのままマギナ領の『直属中央騎士団』として常駐させよう)
そんな四歳児らしからぬ経営マインドの設計を転がしているうちに、ついに見慣れたマギナ領の美しい景色が目の前に展開された。
男爵邸の門の前には、俺の帰還を待ち侘びていた最高の家族たちが整列していた。
父のギャザー、母のエルザ、そして愛しのルビィ。
さらにルビィの両親や、その兄姉までもが笑顔で出迎えてくれている。
そして、何よりも──。
静寂に包まれた部屋の中で、新しい命が出迎えてくれた。
「ただいま、お母さん。……アドミナ、お兄ちゃんですよ」
俺がそっとその小さな小さな手に触れながら声をかけると、つぶらな瞳が俺を捉え、キャッキャッと歓声を上げるように無邪気に喜んでくれた。
(──可愛い。破壊的な可愛さだ)
前世のワンオペ社畜時代には決して手に入らなかった、守るべき、愛すべき、最高の家族という名の絆。
「ばぶ……?」
鼓膜を震わせたのは、鈴を転がしたような、あまりにも儚く無垢な音声データ。
俺の網膜の端に、警告色ではない、しかしそれ以上に暴力的な輝きを放つウィンドウがポップアップする。
名前として登録されたデータは『アドミナ・マギナ(妹 / 0歳)』。
視線を落とすと、きらきらと潤んだつぶらな瞳が真っ直ぐに俺を捉え、衣服の裾をぎゅっと掴む小さな手足が、言葉にできないほど健気に動いている。
その瞬間、脳内のアラートがけたたましく鳴り響いた。
付与デバフ、【破壊的可愛さ(強制フリーズ)】ルーカスの思考を完全ロック。
「っ……あ……」
世界を再構成するほどの魔術計算を瞬時にこなす俺の脳内思考が、たった一つの命によって完全に演算機能を失う。
思考が次々とエラーを起こして身動きが取れなくなり、声すらろくに出せないまま、精神が強制フリーズに追い込まれていく。
(なんだ……この、過負荷すぎる赤子は……!?)
最強の魔術師たるこの俺が、指一本動かすことすらできずにその場で硬直する。
「ばぶ」と呼ぶ小さな妹を前にして、俺のシステムは完全に陥落されてしまったのだった。
俺は、この生まれたばかりの妹の未来、そしてこの領地のすべての笑顔を守り抜くためにも、四歳になったここから、さらに自身のスペックを限界突破(最強へビルド)させていくことを、胸の奥で深く、強く決意するのだった。
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