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第九話 王都での拠点確保とステータス

 公式の昇爵を終え、コボル辺境伯邸に戻った俺は、二年後に控えた貴族学院への入学やその後の長期的な運用を見据えて、早くも王都に『セカンドハウス』を確保する事にした。


 幸いなことに、前回の貴族派・教会派の粛清によって多くの上位貴族が粛清された直後だったため、中央都市の特等地に多数の空き物件が出回っていた。


 俺はその中から、元貴族派の伯爵家が使っていた邸宅をまるごと買い取ることにした。


 購入資金なら有り余っている。


 このあいだ討伐したエンシェント・ドラゴンの素材(頭部以外の全ドロップアイテム)をドワーフの鍛冶師ギルドに直接売却したところ、国家予算レベルの多額の報酬が俺の個人口座に振り込まれていたからだ。


 屋敷を一つ一括購入したくらいでは、未だ残高のキャッシュはびくともしない。


 だが、ここで前世の地球(エンジニア時代)の意識が抜けない俺の悪い習性が頭をもたげた。


 ……どうにも、私生活の領域に使用人を雇って常駐させることに、強烈な気まずさがあるのだ。


 自分の身の回りの世話は自分でしたい派だからである。


 そんな俺のワンオペ計画を見透かしたように、ルビィからツッコミが入った。


「ねえルーカス。そんな巨大な伯爵邸、誰がどうやって維持(掃除や管理)するつもりなの?」


「ん? 僕の『生活魔法:◎』をフル稼働させて定時実行を組めば、ボタン一つで邸内すべてをクリーンアップできるよ?」


 そう答えると、ルビィから「こいつ、頭の構造スペックがおかしい……」と言わんばかりの驚愕の眼で見られた。


 とはいえ、屋敷の自動化はできても、今後の政治的リスクに備えるための護衛兼・私設騎士団だけは絶対に確保したかった。


 俺が成人(十五歳)されるまでは、領地経営の全権は父さん(ギャザー男爵)が『領主代行』として一任してくれる。


 その間、三歳の俺は領地を持たない『法衣貴族』として国から毎月不労所得(定額報酬)が入ってくる仕様だ。


 その予算枠で無理なく維持・雇用できる人員(四〜五名)を、今のうちにスカウトしておく必要があった。


 屋敷のリフォーム(改装)を含めた引き渡しの予定は、ちょうど俺たちが五歳になる二年後。


 それまでに優秀な護衛を雇うか、あるいは自前で育成しなければならない。


 だが、ここで再びルビィから、重大な盲点を指摘された。


「じゃあルーカス。その新しく雇う護衛の人たちの『ご飯管理や体調面のサポート』は誰が担当するの? 騎士の人たちに自分たちで自炊や家事をさせるつもり?」


「……あっ(完全なミスだ)」


 完全に死角だった。


 護衛を雇うなら、必然的にその生活環境を支える使用人も同時にパッケージングして雇用しなければならない。


 修正を余儀なくされた俺は、急遽【護衛3名、使用人2名】の最小構成でチームをビルドすることに決めた。


 当初、護衛の育成タスクについては、パイソンが「私がこの王都の屋敷に残り、彼らを徹底的に調教しましょう」と申し出てくれたのだが、彼にはマギナ領に戻って本拠地の私設騎士団長を務めてもらわなければならない。


 その旨を伝えると、パイソンは「ハッ、ならば是非とも我が主に推薦したい最適の元仲間たちがおります」と言い、俺たちをある場所に案内した。


 連れてこられたのは、王都の裏通りにある『奴隷商』の監獄だった。


 パイソン曰く、昔、彼の獣人の里を違法奴隷商のクライアントが襲撃してきた際、共に背中を預けて戦った信頼できる戦友たちだという。


「彼らは前回の戦闘で致命的な肉体欠損を抱え、まともな商品価値を失いました。……運が良ければ、まだ廃棄されずに残っているはずですが」


 そう言って檻の奥を覗き込む。


 ──どうやら、俺の固有パッシブスキル『運:SSS』が良い仕事を下してくれたようだ。


 檻の中にいたパイソンの仲間は、計五名。


 アーラン(虎獣人)、前衛戦士かつ護衛、手足の損壊(戦闘不能)。


 ハスケル(狼獣人)、前衛戦士かつ護衛、手足の損壊(戦闘不能)。


 リスプ(エルフ)、精霊術師かつバトルメイド、声帯破壊により魔法の詠唱不可。


 ピエト(人間)、聖職者かつバトルメイド、声帯破壊により奇跡の詠唱不可。


 アルゴル(人間)、軍師ディレクターかつ執事候補、視覚・声帯の同時破壊により出力・指示処理が完全不能。


(なるほど。……だが、そんな欠損、【帝級神聖術】をマスターしている僕からすれば、一瞬で完全治療できるな)


 俺は奴隷商に交渉し、商品価値ゼロとしてタダ同然の格安価格で五人の所有権を買い取った。


 急ぎコボル辺境伯邸のプライベートエリアへと運び込み、さっそく欠損部分の治療を執行する。


 まず、最初に『聖職者』のピエトを帝級神聖術の回復魔法『リジェネレーション』で修復。


 残り四人の治療を手伝ってもらうためだ。


 次にレディーファーストの原則に基づき『精霊術師』のリスプの喉を修復。


 続いて『軍師』のアルゴル、『戦士2名』の順に、すべて完治していった。


 俺は治療のついでに、彼らの魂のコアに刻まれていた『奴隷紋』の魔術コードを検出・完全消去デリートし、隷属契約から完全に解放してやった。


「なっ……!? 奴隷紋の縛りが、消えた……?」


 五人は信じられないといった複雑な表情で俺を見つめていたが、パイソンが横から「我が主は、規格外の御方だぞ」と熱い説得を入れてくれたおかげで、一まずは仮雇用の契約を結ぶことに成功した。


 一応、今回の契約はテスト期間(試用運転)であり、とりあえずマギナ領に戻って一年間、肉体のリハビリを兼ねて俺という主人の適性を見極めるという条件だ。


(……アーラン、ハスケル、リスプ、ピエト、アルゴルだって!? 前世のエンジニアの魂にぶっ刺さる、なんて素晴らしい名前の構成なんだ……! このメンバー、絶対に手放したくない!)


 俺はテンションが上がった勢いのまま、五人にそれぞれのジョブに最適化された最高級の武器・防具のフルセット(装備一式)を惜しげもなく買い揃えた。


 そして、俺とパイソンを含めた計七名のパーティで、陸路でマギナ領を目指すルートを選択した。


 俺としては、この旅を通じて新メンバー五人の実戦での力量が見たかったし、彼らの方も、年齢の概念を無視したこの三歳の伯爵がどんな器の貴族なのか、知りたがっていたからだ。


 なお、安全を考慮し、父さん(ギャザー男爵)とルビィの二人には、防衛設備の整った馬車で一足先に本拠地(マギナ領)へ帰還してもらうことにした。


 ルビィは「私も一緒にその旅に付いていきたい!」とゴネていたが、実年齢はまだ三歳だ。


 無理な負荷をかけるわけにはいかない。


 それに、父さんとしても、領地でお留守番中の身重の母さん(エルザ)の事が心配で、一刻も早く高速移動(馬車)で帰りたいだろうという、俺なりの配慮でもあった。


 帰還の途に就く前、俺は久しぶりに自身のステータス画面を呼び出し、現在のシステム状況を確認してみることにした。


 ◆

【ステータス(βテスト版:Ver 0.93)】

 種族: ハイ=ヒューマン・聖人

 練度: D(Up!)

 名前: ルーカス・マギナ

 年齢: 三歳

 職業: 賢者・魔導師・陰陽師・退魔師・武闘家

 ステータスランク: 【知力:S】 【知識:SS】 【知恵:SS】 【力:G】 【体力:G】 【器用:G】 【素早さ:F】 【魔力:∞】 【神聖力:∞】 【神通力:∞】 【運:SSS】

【スキル熟練度】

 各種魔法(生活〜上級):◎ / 聖級魔法:〇 / 王級魔法:○ / 帝級魔法:○ /各種神聖術(下級〜上級):◎ / 聖級神聖術:◎(Up!) / 王級神聖術:◎(Up!) / 帝級神聖術:◎(Up!)

【エクストラスキル】

 ギャザーが集めし秘術・改:◎(Up!)/ ストレージ / ラーニング / 無詠唱 / スキルコピー / 古代魔法:◎ / 超古代魔法:◎(Up!)/ 条件コンパイル:◎ / 魔力視:◎ / 竜言語魔法:△ / 宮廷マナー / 地球の武術全般・陰陽術・退魔術・魔術◎ / 食材リファクタリング(New!) / 並行調理プロセッサ(New!)

【ユニークスキル】

 管理者(Root/※全言語理解及び会話マスタープラグイン内包、※思考トリガーUI拡張) / ハッキング(※ログ隠蔽中) / 賢者の叡智 / 魔導の深奥 / 陰陽道の極意 / 退魔の秘奥 / 地球の神々の寵愛 / ローゲストの神々の加護 / 地球の一流料理人(New!) / 地球の一流パティシエ(New!)

【称号】

 賢者 / 禁忌の淵を覗いた者 / 地球の術王・武王 / 赦されし者 / ドラゴン・スレイヤー / ジャイアント・キリング / 一流シェフ兼パティシエ(New!)

 ◆


(……そういえば、新しくコピペした『聖級魔法』から『帝級魔法』までの【無詠唱】の適用がまだ実用(○)のままだったな。神聖術の方は、領地の庭のガーデニング(家庭菜園)に毎日オートスペルでかけまくっていたから、無詠唱まで含めて完璧に『◎』へカンストしているんだが。『ギャザーが集めし秘術・改』もいつの間にか熟練度トップ(◎)だ。さらに『超古代魔法』からは(禁呪除く)の例外処理テキストが消去され、すべての全コードが解禁されているな。よしよし)


 先日の昇爵パーティでサポートAIが付与してくれた『地球の一流料理人・パティシエ』のユニークスキルと複合称号も、綺麗に画面に反映されている。


 ただ、王都でのイベントが忙しすぎて、『竜言語魔法』の練度上げタスクをすっかり怠っていた(△状態)。


 よし、今回のマギナ領への道中を利用して、このあたりの熟練度上げを並行するとしよう。


 それにしても、全体の『練度レベル』がいつの間にかEからDへとステージアップ(Up!)しているのが気になる。


 前世の基準で言えばレベル百相当のアップデートだが、何か大きなイベントをクリアしただろうか?


 檻の中にいた新しい仲間五人のバグ(欠損)を神聖力でまとめて治療した程度しか心当たりがないのだが。


 ……まあ、システムの隠し実績でも解除されたのだろう。


 ともあれ、俺は前世のゲームの画面の向こうでしか味わえなかった、初めてのフィールド冒険という新規コンテンツに、内心でひどくワクワクしていた。


 ◆


 軍師アルゴルは、前方を歩く小さなルーカスの背中を観察しながら、未だに思考の整理がつかずにいた。

 なぜ、あの誇り高き黒豹の最上位獣人であるパイソンが、まだ三歳にすぎない人間の子供に、あれほど絶対的なロイヤリティ(忠誠)を誓って仕えているのかが不思議でならなかったのだ。


 だが、この短時間で、その疑問パズルのピースが少しだけ噛み合い始めていた。


(……この幼き主、あまりにも『お人好し』が酷すぎるな)


 どこの馬の骨とも知れない、五体不満足の廃棄寸前だった我らを引き取り、最高峰の神聖術で一瞬にして肉体を完全リカバリし、あろうことか主人の絶対特権である『奴隷紋』まで跡形もなく消去して自由を与えてくれた。


 裏切りと欺瞞が横行するこの歪んだ世界において、命など羽毛よりも軽い。


 それなのに、解放されてフリーランス(自由の身)になった我らに対し、ルーカスは何の躊躇もなく、国宝級の最上級装備(武器・防具)を予算度外視で惜しげもなく買い与えたのだ。


 このあまりにも危うく、規格外な子供が、この先どうやって過酷な貴族社会をサバイブし、成長していくのか──軍師として、その先(未来)を少しだけ見てみたい、という知的好奇心が湧いているのは事実だった。


 だが、マギナ領へ向かう最初のフィールド(街道)でエンカウントした初戦闘の瞬間、我ら五人のプライドは、凄まじい衝撃によって木っ端微塵に粉砕されることになる。


 前方の茂みからポップ(出現)したのは、ゴブリン十体程度の雑魚エネミーの群れ。


 正直、かつての我らの全盛期のスペックなら、お遊びでワンパン処理できる程度だ。


 だが、今回はこちらの指揮権をルーカスが執るのだろうから、三歳児の拙い命令のせいで多少の苦戦を強いられるだろう──と、事前にアルゴルは予測シミュレートしていた。


 しかし、ルーカスは平然とした顔でこちらを振り返り、こう言ったのだ。


「アルゴルさん、今回の戦闘指揮は、軍師である貴方に一任します。僕も好きに配置して使ってください」


 見ず知らずの、ついさっき奴隷から解放したばかりの我らに、いきなり自分たちの全生命線を預けるという狂気。


 そのあり得ない意思決定に、アルゴルだけでなく他の四人も驚愕でフリーズした。


 隣のパイソンだけは完全に平常運転──いや、すべてを察したようにニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。


 アルゴルは、何とか平静を保ちながら、急ぎバトルコマンド(指揮)を出力する。


「全員、配置に付け! ──ルーカス様は安全圏(後衛)へ下がってください!」


 当然だ。


 いくら莫大な資金を持っていようが、実体はただの三歳の幼児。


 何ができるわけもない。


 精々、後ろからおろおろと治癒魔法を打つのが限界だろうと判断し、安全なバックエンドに配置した。


 そして以前の戦術通り、前衛に獣人三名(パイソン、アーラン、ハスケル)を配置し、後方にアルゴルを含めた三名を配置して迎撃しようとした。


 ──だが、全力を出せなかった。


 長期奴隷生活、および肉体欠損ブランクによる「脳内イメージと実機のタイムラグ」で、深刻なミスを連発する。


 虎獣人のアーランは、全盛期の感覚で振るったはずの武器を盛大に取り落とし、スピード特化の狼獣人ハスケルは、自身のあまりの動きの鈍さに翻弄されてゴブリンの物理アタックを被弾する。


 後衛のエルフの精霊術師リスプは、パニックを起こして精霊への詠唱の歌を忘れてしまい、聖職者ピエトは恐怖で神聖術を構築できずに完全にフリーズ。


 そして、戦術を脳内で組み立てても、長い間潰されていた喉のせいで声による命令出力が満足に出せないアルゴルは、ただ戦場でカカシのように立ち尽くすことしかできなかった。


 前線は、一人だけ全盛期の勢いで暴れ回っているパイソンだけで辛うじて維持されている破綻寸前の孤立状態。


(……クソっ! 治してもらったばかりの命を、こんな初期の雑魚狩りフィールドで即死されるのか……!?)


 アルゴルが完全に全滅を覚悟したその瞬間、最前線のパイソンから割り込みが入った。


「──マスター! 後衛の支援が酷いです、支援バフを!」


 アルゴルのすぐ横に佇んでいた、あの三歳の幼児の魔力パルスが、一瞬にして天を衝くほどの超高密度なエネルギーへと変貌した。


 ルーカスが小さな手をかざした瞬間、前衛3人の外見に、見たこともない高倍率の『全属性特大強化(超上級バフ)』が即座に付与される。


 それだけではない。


 ルーカスの周囲の空間に、一瞬のタイムラグ(詠唱)すらなく、空間を焼き尽くすほどの高火力上級魔法『ファイア・ジャベリン』の極太の炎槍が、同時に十本、並列展開された。


「──バースト(実行)」


 ルーカスが小さく呟くと同時に、十本の炎槍が音速を超えて射出され、ゴブリンたちを寸分の狂いもなく正確に直撃(一撃で全貫通)。


 フィールドを焦土に変え、エネミーの群れを一瞬でスクラップ(肉片)へと変えた。


 かろうじてHPの残っていた数体のゴブリンも、超バフによって筋力ステータスをカンストさせられたアーランたちの追撃によって、一瞬でとどめを刺された。


 ◆


 俺は、戦闘終了後の5人の絶望的なモーション(動き)を見て、心の中でフムと頷いた。


(……やはり、肉体を治癒術で完治させても、長年のブランクによる脳の認識のずれが深刻だな。これは本格的なリハビリと、調整が必要だ)


 前衛の脳筋二人の鍛え直しに関しては、パイソンに相談したところ「ハッ、私の特別メニューで骨の髄まで絞り直しましょう」と快く賛同してくれた。


 ならば、俺のタスクは後衛3人のメンタルケアと、詠唱・指揮の最適化だな。


「あの、リスプさん、ピエトさん、アルゴルさん。……僕の特製ケアプログラム、受けてもらえますか?」


 俺が少し不安になりながら問いかけると、後衛の三人は、未だに目の前の焦土(三歳児が無詠唱で放った帝級並みの火力)を呆然と見つめたまま、ガタガタと震えながら深く何度も頷くのだった。


 この、初の実戦テスト(大惨敗と圧倒的ワンパン)という名のイベントが、後に俺たち七名の絆を、何よりも強固に結びつけるマスターキーになるのだが──それは、これからの道中で行われる、スパルタなリハビリの日々の中で実証されることになる。

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