第四話 ギャザーが集めし秘術・改の完全習得、そしてドラゴン・スレイヤー
親父が現役時代に世界中からスクラップ(収集)してきたオリジナル・コード群──『ギャザーが集めし秘術・改』の最適化が完了した。
術式の制限コードを弾き、新コード“Φ(ファイ)”に置き換えたこの秘術。
さっそく実戦環境でテストして熟練度を『○(実用)』レベルに引き上げたかったのだが、あいにく親父は伯爵閣下からの急な呼び出し(出張)で不在だった。
そのため、俺はここ最近、ルビィの「臨時の家庭教師」としてリソースを割いていた。
実際のところ、セル家が高級な金で雇った本職の魔導師が教えるレガシーな魔法理論より、俺が現代エンジニア視点で最適化したクリーンコードの方が、発動速度・エネルギー効率共に圧倒的に勝っている。
結果として、プロのプライドを完全にへし折られた家庭教師が自信を喪失して自主退職するというアクシデントが発生してしまった。
そんなわけで、現在は俺がルビィに直接、中級から上級魔法の家庭教師をしている最中だ。
並行して、俺は自身の『神聖術』を聖級以上にアップグレードする方法を模索していた。
通常、この世界の仕様では、高位の神聖術を習得するためには教会の派閥に所属し、お堅いキャリア(プリーストやモンクなどのジョブ職)を積まなければならない。
だが、今世でそんな面倒な宗教組織の縛りを受けるつもりは毛頭なかった。
「……待てよ。わざわざ就職しなくても、高位の術者が使っている術式を『スキルコピー』で直接ぶっこ抜けば(複製すれば)いいだけじゃないか?」
問題は、このマギナ騎士爵領のようなしなびた片田舎の教会に、聖級以上の神聖術を実装しているハイレベルな術者が存在するかどうかだ。
いざとなれば最高管理神から貰った開発者アカウントで天界のデータベースから直接聖級以上の魔法コードを取得することも考えたが、現在俺の脳内リソースはサポートAIの構築に全振りをしているため、そのルートは保留していた。
そんなある日。
主神へお供えする次回の地球グルメ(賄賂)のメニュー開発に頭を悩ませていた俺は、気晴らしのつもりで領内の小さな教会へと足を運び、形ばかりのお祈りを捧げていた。
その時、ふと目の前で穏やかに微笑んでいる、高齢の老神父の背景が気になった。
俺は軽い気持ちで『魔力視』を発動し、神父をターゲットに指定した。
「──『ステータス・オープン』」
◆
【ステータス(βテスト版:Ver 0.9+)】
種族: 人族・聖人
練度: A
名前: アッセンブリ
年齢: 四十二歳
職業: 神父・元エクソシスト・元枢機卿
ステータスランク: 【知力:S】 【知識:SS】 【知恵:S】 【力:D】 【体力:D】 【器用:B】 【素早さ:D】 【魔力:F】 【神聖力:SS】 【神通力:-】 【運:C】
【スキル】 生活魔法:○ / 下級神聖術:○ / 中級神聖術:○ / 上級神聖術:○ / 聖級神聖術:○ / 王級神聖術:○ / 帝級神聖術:○
【エクストラスキル】
退魔払い特効 / 護符作成 / 聖水作成
【ユニークスキル】
ローゲストの神々の加護
【称号】
裏切られし者 / 酒に溺れし者
◆
(……待って、この神父さんのスペック、ちょっとバグってない?)
結論から言おう。
とんでもない隠しボス(化け物)だった。
年齢のせいで物理パラメータ(力・体力・素早さ)こそ極限までデバフがかかっているが、それ以外のマジックパラメータは完全にカンスト領域だ。
なぜそんな中央教会の最高幹部(元枢機卿)が、こんな辺境である片田舎の教会で燻っているのか。
その原因は、不穏すぎる【裏切られし者】【酒に溺れし者】という称号から何となく察せられたので、大人の対応としてあえて脳内から消去することにした。
何はともあれ、これほどの優良コードを目の前にしてスルーする手はない。
俺は『スキルコピー』のプラグインを即座に実行し、彼の持つ【聖級】【王級】、開示されている最高位の【帝級神聖術】までの魔法コードを一括複製させてもらった。
お礼(ライセンス料)として、教会の寄付箱に通常の三倍のお布施(硬貨)を渡して立ち去ろうとした、その時。
老神父──アッセンブリ氏が、こちらの意図をすべて見透かしたような深い笑みを浮かべて、にっこりと俺を見ていた。
(……あ、これ完全にコピー気づかれてるわ)
さすがは元枢機卿、セキュリティ感知能力も一流らしい。
何はともあれ、親父が帰宅するまでの間は、このコピーした聖級〜帝級までの神聖術を完璧に馴染ませ、熟練度『◎』にする事に専念しようと決めた。
なお、データを確認したところ、スキルコピーの瞬間に俺の固有スキル『ラーニング』も同時並行で強制発動していたらしく、今回複製した神聖術はすべて『△(習得中)』となっていた。
通常、ラーニングは相手が実際に術式を実行している所を視認しなければアクティベートされない。
つまり、あの神父さんは俺がお祈りを捧げている一瞬の間、脳内で天界の神々と超高速の交信を行っていたのだろう。
それを俺のスキルが感知してコピーしたわけだ。
(隠居した元枢機卿があのレベルで存在してるんだ……。この世界、もしかしてその辺の路地裏を探せば元大魔導師の隠居者とかも普通に転がってるんじゃないか?)
◆
そんな教会の帰り道、突如として前方の空間の魔力濃度が跳ね上がった。
見上げれば、街道沿いの広場で巨大な『ドラゴン』が激しく暴れ回っている。
砂塵が舞う戦場では、すでに冒険者らしき3人の人影がヘイトを引いて応戦しているのが見えた。
だが、見るからに限界が近く、完全に苦戦を強いられている。
「──手助けは必要ですか?」
俺が間近まで接近して声をかけると、前線で盾を構えていた前衛の男が怒鳴り返してきた。
「ここはガキの立ち入る領域じゃねえ、さっさと離脱──って、ルーカス様ぁ!?」
そう、そこで泥塗れになって戦っていたのは、以前親父の廃棄ダンジョン行脚に同行した、あの馴染みの実力派冒険者3人組だった。
「はい、ただいまより支援バフを走らせます。怪我人はいますか?」
「あ、あっちで横転してる馬車の中に数名いる! すでに瀕死だ!」
「了解しました。では、治癒に向かいます。皆さんはそのまま前線を維持してください!」
「助かる、頼んだぞ!」
俺は即座にターンを切り替え、大破した馬車へとダッシュした。
車内を覗き込むと、男性4名、女性2名が血塗れで横たわっており、瀕死状態だ。
「大丈夫ですか? 返事はできますか?」
だが、誰からも返事はない。
俺はさっそく、先ほど馴染ませたばかりの上級神聖術──広域修復コード『エリア・エクストラ・ハイ・ヒール』を無詠唱で展開した。
これで傷が治らなければ、三歳児の俺の出力では手の施しようがない。
幸い、帝級の神聖術コードを元にした俺の最適化ヒールは劇的に効いた。
眩い光が彼らの肉体を包み込み、傷口が猛スピードで塞がっていく。
「う……俺たちは、一体……?」
「ドラゴンに強襲されたようですね。痛みはありますか?」
「君は……一体何者なんだ?」
「ルーカス・マギナ。ギャザー・マギナの息子です」
「ああ! あの、マギナ家の神童君か!」
「神童かどうかは分かりませんが。馬車を引いていた馬が居ませんが、逃げたのですか?」
「いや……奴の腹の中だ。あいつは最初から馬の肉が狙いだったらしい。応戦したが、格が違いすぎた……」
「現在、ギルドの腕利き三人が前線で体を張って応戦しています。僕もこれから加勢に行くので、皆さんはご婦人方の安全確保をお願いします」
「あ、ああ、分かった。悔しいが足手まといにしかならん。神童君、頼む……!」
馬車の豪華な作りや、男たちが装備している高価な鎧から察するに、このご婦人方二人どこかの上位貴族で、男たちはその専属の護衛騎士なのだろう。
戦線に戻った俺は、ドラゴンと冒険者たちから一定の距離を取り、戦況全体を俯瞰できる高台のポジショニングを確保した。
まずは、味方三人に神聖術による『疲労回復』および『全身体能力五倍強化』のバフをかける。
同時に、俺はドラゴンの肉体に『ステータス・オープン』を叩き込み、その内部データ(弱点)を調査した。
主な攻撃メソッド(行動パターン)は【ドラゴンブレス】【竜言語魔法】【物理体術】。
(……竜言語魔法?)
違和感を覚えてドラゴンの詳細な種族カテゴリー(所属)をロードした瞬間、俺の背筋に冷たい汗が走った。
種族:『エンシェント・ドラゴン(古竜)』。
年齢は千歳強。
古竜の寿命からすればまだ若い個体だが、この世界の生態系のトップに君臨する災害指定クラスのモンスターであることに変わりはない。
しかも何らかの外的要因で狂暴化を起こしているらしく、両目が不気味な赤色に発光している。
説得は不可能だ。
俺は冷徹に思考を回し、まずはエンシェント・ドラゴンに向けて『スキルコピー』を発動。
ターゲットのスキルツリーから【竜言語魔法:×(未習得状態)】スキルの抽出に成功した。
これでお目当てのスキルは、すべて回収した。
もう用はない。
俺は、前回最適化を完了したばかりの『ギャザーが集めし秘術・改』の術式ツリーを展開した。
その中から、最も高火力かつ隠蔽性の高い、最大出力のディザスター系破壊魔法のコマンドを選択する。
「──今から広域破壊魔法を発射します! 合図を出したら即座に離脱してください!」
俺の突飛な警告に、前線の三人がギョッとした顔でこちらを振り返る。
だが、彼らは俺の規格外さを知っている。
すぐさま離脱へ移行できるよう、バックステップの体制を整えた。
俺は脳内でカウントダウンを開始する。
「二十……十九……十八……」
エンシェント・ドラゴンは未だ狂暴化の最中にあり、こちらの最大火力のチャージ(魔力収束)に気づいていない。
「……八……七……六……五……」
俺の周囲の空間が、あまりの総魔力量の密度に歪み、バリバリと空間が軋む音を立て始める。
「三……二……一……今!!」
そのシグナルと同時に、3人の冒険者が全速力で左右へローリング離脱。
直後、俺は最適化した親父の秘術──極大収束型の光属性破壊魔法『ビーム・キャノン』を無詠唱で解き放った。
ドォォォォォォォンッッッ!!!
「が、はっ……!?」
三歳児の貧弱な肉体が、あまりの超高出力の反動でミシミシと悲鳴を上げる。
制御を維持するだけで脳内が限界に達しそうだ。
閃光が空間を焼き尽くし、収束した光の粒子が晴れたとき──そこには、胸から背中にかけて、直径数メートルに及ぶ完全な空洞(大穴)を開けられた古竜の姿があった。
断面からはジュウジュウと細胞が炭化する凄まじい白煙と焦げ臭い匂いが立ち込める。
エンシェント・ドラゴンは、自身の身に何が起きたのかすら理解できないといった様子で、ゆっくりとその巨体を大地へと崩落させた。
俺が慎重に、息絶え絶えの古竜の間近へと接近すると、脳内の念話が繋がった。
『……まさか……人間の、しかもただの幼子に、我が一撃で討滅されるとはな……。俺様も、焼きが回ったものだ……』
俺は固有ユニークスキル管理者の『全言語理解及び会話マスター』プラグインをパッシブ起動し、竜の言語に合わせて念話を返した。
『なぜ、このような人里近くの領域に現れたのですか? 古竜は滅多に自身のテリトリーから出ないと歴史書で読みましたが』
『くく……単なる気まぐれ、旅だよ……。空をフライトしていたら、美味そうな馬が見えたのでな……。捕食した。それだけのことだ……』
『……そうですか』
『さて……小僧。そろそろとどめを刺してくれ。この激痛、耐え難い……』
『了解しました。介錯します』
俺は秘術のインデックスから、高密度魔力刃『ビーム・ソード』を選択。
古竜の額のコア(脳核)に向けて正確に突き立て、その生命活動を完全に終了させた。
死に際、古竜の顔が、どこか満足そうに笑ったように見えた。
俺は残された巨大な古竜の死体(素材データ)を丸ごと『ストレージ』に一括格納し、先ほどの馬車の元へと引き返した。
「討伐、完了しました。もしよろしければ、僕の馬車の空き座席に同乗されますか? ご婦人お二人と、重傷者一名なら車内に入れます。残りの護衛の方は、屋根の上でよろしければお運びできますが」
「は、はい……! 是非とも、よろしくお願いいたします、ルーカス様……!」
瀕死から蘇生したご婦人のうち、年若い方の令嬢が、未だ震える声でそう承認した。
「では、僕の馬車をここに横付けさせますね」
俺が御者台へ戻ろうとすると、その進路を遮るように冒険者三人組が待っていた。
「……おいおい、三歳にしてとうとう『ドラゴン・スレイヤー』の称号を取得しちまったか。坊ちゃん、あんたの将来の成長曲線を想像するだけで、俺ぁ夜も眠れねえよ」
「何も変わりませんよ。僕は僕のまま、淡々と日常をこなすだけです」
「ハッ、そいつは本物の強者だけが言えるセリフだ。弱者にはそんなセリフは吐けねえよ」
「何を言ってるんですか。皆さんが前線で完全にヘイトを固定して足止めしてくれなければ、あんな大掛かりな破壊魔法のチャージは通せませんでした。今回の結果は、全員で山分けの『共同討伐』でいいじゃないですか」
「ははっ、お情けの共有称号なんざ、プライドが許さねえよ。今回のMVPは間違いなくあんたのバフと一撃だ。ほら、早くVIP(お貴族様)を送り届けてやりな」
そう促され、俺は馬車を動かした。
車内でご婦人方二人と、未だバイタルデータが不安定だった重篤の護衛一名に対し、移動中も絶え間なく『エクストラ・ハイ・ヒール』の回復術をあて続けた。
だが、残念ながらその護衛の男性は、途中で生き途絶え、天界へと召されて(亡くなって)しまった。
その後、生存したご婦人方を、マギナ騎士爵領の隣に位置する『男爵家』の屋敷へと無事に送り届け、俺の今日の全作業は終了した。
◆
後の世に語られる、ドラゴン・スレイヤー事件の結末。
これまでは出力の制御が難しく、負荷が高すぎた『ギャザーが集めし秘術・改』。
エンシェント・ドラゴンの圧倒的な質量を相手に全出力を叩き込んだことで、その制御が完全に最適化された。
これで、実戦でもチャージタイムや反動を気にせず、完全に『実用』レベルとして回せる。
俺の基礎火力はこれでまた一段階上に引き上げられたわけだ。
そして最後、世界の基幹システムが俺に強制付与した、あまりにも目立ちすぎる新規ステータス。
ドラゴン・スレイヤー(New!)。
(これ、絶対に後から高位貴族や神々から不必要な詮索が飛び込んでくるやつじゃないか?)
その予想は、現実になる。
◆
──『三歳の幼児、エンシェント・ドラゴンを単騎一撃討伐』。
この、世界のバランスを根底から揺るがすニュースは、瞬く間に王国全土の通信網を駆け巡り、大炎上することとなる。
当のルーカス本人はというと、新称号ドラゴン・スレイヤーに、戦々恐々としながらも、今回のレイド戦の報酬である新規格の未解読コード【竜言語魔法】を手に入れたことに、ホクホク顔で脳内解析を進めるのだった。
ちなみに──このドラゴン・スレイヤー事件の後、なぜかマギナ騎士爵領の定住人口の数が、不可解な右肩上がりを見せ始めるのだが……それはまた、別のお話である。
【 読者の皆様へお願い 】
もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
下記の【ブックマーク登録】や、
評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、
毎日の執筆の大きな大きな励みになります!いただいた星とブクマの数が、
物語を完結まで引っ張る原動力になります。




