第二話 古代魔術とエンチャント魔法
廃棄ダンジョンでの初実戦を経てルビィと正式に友達になってからというもの、俺の日常に新しいルーチンが組み込まれた。
午前中は自室でみっちり座学と魔法コード解析。
そして午後からは、お互いの屋敷を行き来して一緒に過ごすという習慣だ。
俺は午前中のリソースを、主に『古代魔法』と『超古代魔法』の解読・習得プロセスの進行に割り振っていた。
そして午後、ルビィと合流してからは……遊ぶというより、もっぱら『剣術談義』と特訓に費やされる。
どうやら彼女、前回の俺のせいで完全に自信をへし折られたらしく、純粋な魔導師になるルートは完全に断念してしまったようだ。
そんなある日の午後の我が家の裏庭でのこと。
せっかくそれなりの素質を持っているのに、前衛の物理アタッカー一本に絞るのは宝の持ち腐れだ。
もったいないと思った俺は、ルビィにある提案を勧めてみた。
「ねえルビィ。剣も魔法も両方のアドバンテージを活かせる『魔導騎士』のルートを目指してみるのはどう?」
「──魔導騎士?」
その言葉を聞いた瞬間、ルビィの目がハッと輝いた。
「うん、なる! 私、それにする!!」
現金なやつだ。
さっそく基礎の魔力循環テストから始めようとしたのだが、さすがは裕福な御用商人の娘。
そのあたりの手ほどきは、すでに高額な家庭教師の手によって習得済みらしい。
下手な騎士爵の家よりよほど資本力がある。
「じゃあ初級魔法の構築から──」と言いかけたが、それもすでに詠唱破棄のレベルまで習得済みだという。
「それなら、中級魔法にしようか?」
俺がそう提案すると、ルビィは身を乗り出して食いついてきた。
中級魔法のツリーには、武器や防具に属性を付与する『エンチャント(付与魔術)』が存在する。
前衛で剣を振るう彼女には、これ以上ない最適な魔法だ。
指導を始める前に、まずは俺の『魔力視』を通して、ルビィの最新のステータス画面を確認してみた。
◆
【ステータス(βテスト版:Ver 0.9 / 推し声優ボイス実装済)】
種族: 人族
練度: I
名前: ルビィ
性別: 女
年齢: 三歳
職業: 騎士・魔導師
ステータスランク: 【知力:C】 【知識:E】 【知恵:C】 【力:G】 【体力:G】 【器用:H】 【素早さ:G】 【魔力:E】 【神聖力:-】 【神通力:-】 【運:E】
【スキル】
生活魔法:○ / 下級魔法:○ / 初級剣術:△
◆
(うわぁ、めちゃくちゃ綺麗な『魔導騎士』向きのベーススペックだ……)
『力』『体力』『器用』『素早さ』の物理パラメータが、今の俺とほぼ同等の数値をマークしている。
陰ながら相当エグい筋トレを積み重ねてきた証拠だ。
無詠唱が使えないためスキルレベルは『○(実用)』止まりだが、魔力の最大容量も悪くない。
知力と知恵のバランスも良好だ。
よし、と。
俺は彼女の身体に合わせて独自に最適化した、俺特製の中級エンチャント魔法のコードを教えることにした。
──だが、ここで最初の問題が発生する。
「ちょっとルーカス。あなたが今教えてくれた呪文のコード……これ、中級魔法なのに私が知ってる初級魔法より『行数(詠唱)』が圧倒的に短いんだけど? ミスじゃない?」
ルビィが、あからさまに詐欺を疑うような疑惑の目を向けてきた。
「まあまあ、騙されたと思って試してみてよ。木刀に『風の属性』を付与するイメージで」
ルビィは半信疑のまま木刀を構え、俺の渡した最適化コードを実行した。
「──『風よ、剣に宿りて、敵を打て』!」
キィィィィン──!!
木刀の刀身に高密度の圧縮風の刃が付与され、彼女が何気なくそれを一振りした瞬間。
凄まじい衝撃波(風の刃)が前方へ射出され、射線上(直線状)にあった裏庭の頑丈な立ち木を、文字通り一刀両断に切り裂いて吹き飛ばした。
「えっ……えっ、何今の!? えっ、私!? 私が今、これやったの!?」
「そうだよ。ほら、一旦落ち着いて。深呼吸」
パニックを起こすルビィをなだめようとしたが、逆効果だった。
彼女は完全にリミッターが外れたようなキラキラした目で、俺の間近まで肉薄してきた。
「ルーカス!! 他の属性も全部教えて! できれば生活魔法から今持ってる魔法全部!!」
「いいけど……どうしたの、そんなに慌てて?」
「どうしたもこうしたもないわよ! 普通の中級エンチャントで、こんな物理破壊の威力が出るわけないでしょ!?」
「ああ、余計な多重ループとか冗長な記述を省いて、独自に最適化したからね。普通より出力効率は高いし、コードの行数が少ないから発動速度も段違いだよ」
「……あなた、もう父親(ギャザー様)のスペック超えてるんじゃないの?」
「まさか。まだ古代魔法も、父さんが現役時代に世界中で収集してきた秘術も習得しきれてないし」
「いや、その年齢でそれは十分異常よ! いいから全部教えなさい!」
「わかった、わかったよ。じゃあまずは生活魔法の『クリーン』の最適化コードからね。この記述をだな……」
こうして、午後の特訓ルーチンにルビィへの魔法最適化講座が追加された。
これが後の世において、世界の戦術バランスを根底から破壊する『最凶の化け物コンビ』が結成された瞬間だったのだが、当時の俺はそんな大掛かりな未来予測はしていなかった。
◆
ルビィに魔法を教える傍らで、俺はふと思い出した。
(そういえば、親父が昔集めてきたっていうエクストラスキル『ギャザーが集めし秘術』のソースコード、まだ解析してなかったな)
先にそっちの解析を終わらせておくか。
俺はルビィに課題を与えて自主練させている時間を使い、親父の持つ門外不出のオリジナル・コードを解析・習得するというマルチタスク(並行処理)を開始した。
──それから一ヶ月後。
まず、俺の英才教育(チートコード書き換え)を受け続けたルビィのステータスが、以下のような大改造(魔改造)を遂げた。
◆
【ステータス(βテスト版:Ver 0.9 / 推し声優ボイス実装済)】
種族: 人族
練度: I
名前: ルビィ
性別: 女
年齢: 三歳
職業: 魔導騎士(New!)・騎士・魔導師
ステータスランク: 【知力:C】 【知識:B(Up!)】 【知恵:B(Up!)】 【力:G】 【体力:G】 【器用:H】 【素早さ:G】 【魔力:E】 【神聖力:-】 【神通力:-】 【運:E】
【スキル】
生活魔法:◎(Up!) / 下級魔法:◎(Up!) / 中級魔法:○(New!) / 初級剣術:△
【称号】
付与魔法を極めし者(New!)
◆
見事な成長率だ。
俺のクリーンコードによる効率的な魔力循環を理解したことで、『知識』と『知恵』が軒並みBランクへアップ。
さらに、生活魔法と下級魔法に関しては、三歳にしてすでに完全な『無詠唱』での発動を実装した。
中級魔法に関しても、剣に纏わせるエンチャントに限定すれば完全に無詠唱化に成功。
その結果、風のような速度で習得し、【付与魔法を極めし者】という超早熟な称号をポップ(獲得)させていた。
ちなみに、並行してマルチタスクを行っていた俺の最新ステータスはこれだ。
◆
【ステータス(βテスト版:Ver 0.9 / 推し声優ボイス実装済)】
種族: ■■■■■■■■・■■
練度: G
名前: ルーカス・マギナ
年齢: 三歳
職業: 賢者・魔導師・陰陽師・退魔師・武闘家
ステータスランク: 【知力:A】 【知識:A】 【知恵:S】 【力:G】 【体力:G】 【器用:H】 【素早さ:G】 【魔力:∞】 【神聖力:∞】 【神通力:∞】 【運:SSS】
【スキル】
生活魔法:◎ / 下級魔法:◎ / 中級魔法:◎ / 上級魔法:◎(Up!) / 下級神聖術:◎ / 中級神聖術:◎ / 上級神聖術:◎
【エクストラスキル】
ギャザーが集めし秘術:△(New!) / ストレージ / ラーニング / 無詠唱 / スキルコピー / 古代魔法:○(Up!) / 超古代魔法:○(Up!) / 条件コンパイル:◎ / 魔力視:◎ / 地球の武術全般・陰陽術・退魔術・魔術◎
【ユニークスキル】
管理者(Root/※全言語理解及び会話マスタープラグイン内包、※思考トリガーUI拡張) / ハッキング(※隠蔽中) / 賢者の叡智 / 魔導の深奥 / 陰陽道の極意 / 退魔の秘奥 / 地球の神々の寵愛
【称号】 賢者の卵 / 禁忌の淵を覗いた者 / 地球の術王・武王
◆
先に学習を進めていた『古代魔法』および『超古代魔法』が、実用レベルの『○』にアップデート。
そして、親父のオリジナル・コード群である『ギャザーが集めし秘術』が、正式に『△(習得中)』としてアクティベートされた。
なお、ルビィの異常な成長ログや、俺のパラメータ改変データが外部(教会やギルドの測定網)に検知されないよう、固有のユニークスキル『ハッキング』は完璧に隠蔽し続けている。
この、親父が前線で集めてきた『秘術』のソースコードをアナライズしてみて、俺は深く感銘を受けた。
実戦の中で叩き上げられただけあって、極めて実用的、かつ殺意(威力)が高い。
大貴族や高位聖職者が独占している聖魔法のように、大掛かりな光の防御壁を張って上品に耐えるような非効率的なコードではない。
いかに敵の魔法構成をジャミング(妨害)し、無効化し、強制終了させるかという、いわば『対魔導師用ハッキング・セキュリティ魔法』とでも言うべき着眼点の塊だったのだ。
(めちゃくちゃ面白いアーキテクチャだ……! クソ役に立つじゃん、親父のコレクション!)
だが同時に、ある致命的な『記述の歪み』が気になった。
すべての術式の根幹に、例の世界のリミッターコード──“Λ(ラムダ)”が、当たり前のように組み込まれているのだ。
おそらく、この世界の常識で完成してしまった一流の魔導師たちには、このΛコードの存在に何の疑問も持てないのだろう。
それが世界の仕様だと思い込まされているからだ。
だが、前世のエンジニアとしての知識を持ち、頭の柔らかすぎる幼児である俺の目は誤魔化せない。
(こんな無駄なレガシーコード、一括置換で削除だ。代わりに、魔術の指向性と浸透率を極限まで高める独自の最適化コード──“Φ(ファイ)”に再構築してやる)
キーボードを叩くように脳内で数式を書き換えていく。
結果、Λをパージし、Φによって超絶強化された親父の秘術(ギャザー・コレクション・改)は、生みの親である親父すら卒倒しかねない、極めて凶悪な性能へと変貌を遂げた。
ただでさえ高威力だった魔法は「かすっただけで対象の魔力回路を焼き切る」レベルのディザスター系へと変貌。
無効化・妨害系統にいたっては、敵が魔法を発動した瞬間にその術式を乗っ取り(ハイジャック)、敵の脳内で逆流・暴発させるという、「これがあれば防御壁すら一切必要ない」というレベルの悪魔のカウンターに進化してしまった。
(……これ、もし俺が『無詠唱』で実戦投入したらどうなっちゃうわけ?)
自分で再構築しておきながら、そのあまりの凶悪な処理能力の高さに、俺の幼い背筋がゾクゾクと歓喜で震えた。
もちろん、高位の聖魔法の中にも優れた攻撃コードはあるのだろう。
だが、この泥臭くも合理的で冷徹な、親父の『妨害・無効化の秘術』の美しさに、俺は完全に魅せられてしまった。
後々、このルーカスによって最適化された『ギャザーの秘術・改』が、世界のあらゆる格差と権力をひっくり返す【下剋上の代名詞(絶対の魔導)】として恐れられることになるとは、この時のルーカスはまだ、想像すらしていなかったのである。
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