第一話 顔合わせ
──三歳の誕生日を迎えた。
この世界に転生して丸三年。
ついに我が家のローカルルールにより、ギルド地下の『廃棄ダンジョン』への立ち入り制限(年齢制限)が解除される日がやってきた。
待ちに待った、上級魔法のオープン環境での試し打ちし放題の解禁である。
ちなみに、現在の俺のステータス画面の最新版はこんな感じだ。
◆
【ステータス(βテスト版:Ver 0.9 / 推し声優ボイス実装済)】
種族: ■■■■■■■■・■■
練度: G
名前: ルーカス・マギナ
性別: 男
年齢: 三歳(Append!)
職業: 賢者・魔導師・陰陽師・退魔師・武闘家
ステータスランク: 【知力:A(Up!)】 【知識:A(Append!)】 【知恵:S(Append!)】 【力:G(Up!)】 【体力:G(Up!)】 【器用:H(Up!)】 【素早さ:G(Up!)】 【魔力:∞】 【神聖力:∞】 【神通力:∞】 【運:SSS】
【スキル】
生活魔法:◎ / 下級魔法:◎ / 中級魔法:◎ / 上級魔法:△ / 下級神聖術:◎ / 中級神聖術:◎ / 上級神聖術:◎(Up!)
【エクストラスキル】
ギャザーが集めし秘術:× / ストレージ / ラーニング / 無詠唱 / スキルコピー / 古代魔法:△ / 超古代魔法:△(New!) / 条件コンパイル:◎ / 魔力視:◎ / 地球の武術全般・陰陽術・退魔術・魔術◎
【ユニークスキル】
管理者(Root/※全言語理解及び会話マスタープラグイン内包、※思考トリガーUI拡張) / ハッキング(※隠蔽中) / 賢者の叡智 / 魔導の深奥 / 陰陽道の極意 / 退魔の秘奥 / 地球の神々の寵愛
【称号】
賢者の卵 / 禁忌の淵を覗いた者 / 地球の術王・武王
◆
今回のアップデートで、UIに『年齢』『知識』『知恵』の3項目を追加した。
年齢は単純に前バージョンでの実装漏れ。
『知識』と『知恵』をわざわざ別パラメータとして切り分けたのは、いくら脳内に膨大な知識を蓄積したところで、それを状況に応じて最適化・応用する知恵がなければ実践では無意味だと判断したからだ。
結果、知恵の項目はいきなり最高値に近い『S』をマークした。
その他の身体ステータスも軒並みビルドアップされている。
裏庭で子供用のワンドを短槍に見立てて地球の「棒術」の反復特訓を繰り返した成果か、『器用』がHに向上。
夜間の隠密走り込みと庭石のリフトアップ(重量トレーニング)により、『力』『体力』『素早さ』も幼児の限界を超えてGまで引き上がった。
さらに、例のヤバい超古代魔導書を通読したことで、エクストラスキルに『超古代魔法:△』が正式に追加された。
三歳児のスペックとしては、すでに完全にチートの領域に達している。
身体と脳内のセッティングは万全だ。
あとは、実際に生きている魔物と遭遇した際、システム的な躊躇なく駆除できるかどうか。
前世のMMORPGをプレイしていた時のように、ノータイムで最適解の攻撃を叩き込めるかという点だけが、唯一の自問自答だった。
そんな三歳の誕生日当日。
両親から大きなプレゼントを手渡された。
それは、どこか戦闘用の槍を思わせる、真新しい長尺のタクティカル・ワンド(魔法杖)だった。
先端にはアメジストのように妖しく輝く巨大な魔石と、鋭利な金属製の穂先がハメ込まれており、柄の底には強固なスチール製の石突まで実装されている。
(……あれ? もしかして、夜中にコッソリ棒術の特訓してたの、完全に監視されてた?)
気まずそうに頬を掻く俺に、親父ギャザーがニカッと笑いかけてきた。
「気に入ったか、ルーカス」
「うん、めちゃくちゃ格好いい武器だね。魔石のグレードも凄いや。……でも父さん、これ、うちの家計で無理してない?」
「ははは、心配するな。実はそれ、伯爵様から直々に『ルーカスの三歳の誕生日に』と譲り受けた『ワイバーン(飛竜)』の魔石なのだ。一種の先行投資だな。どうやら、どこからかお前の“神童”としての噂が、伯爵様の耳にまで届いたらしい」
「噂?」
「ああ。将来、伯爵家のご子息が成人された際、お前をその『従騎士(専属賢者)』として直臣に迎えたいと仰せだ。要するに、後方支援職のトップだな」
「従騎士か。つまり、お坊ちゃまかお嬢ちゃまの専属バックパッカー兼ガードマンだね」
「表現はともかく、そういうことだ。他にも伯爵家のご子息と同世代の、将来有望そうな臣下(子爵・男爵・騎士爵)の子供たちに、片っ端から声をかけて囲い込んでいるらしい」
「へぇ……。まだ幼いのに、ずいぶんと過保護というか、用意周到だね。政治的に大丈夫なの?」
「そのあたりの意図は不明だ。だが、この『将来有望な同世代のタレントを集めてチームを作る』という計画自体、伯爵家のご子息本人の発案らしいのだ」
「……へえ」
三歳にしてすでに派閥形成(ギルド創設)を目論むとは、そのご子息とやらもなかなか面白い考えをしている。
「分かった。五歳になって中央の学校に行く時は、大人しくそのご子息の従騎士として行くよ。今さらこの最高級のワイバーン・ワンド、返品できないでしょ?」
俺が新調された槍杖をクルクルと軽く回して見せると、親父は満足そうに頷いた。
「そうだな。だがルーカス、ただ盲従するだけのイエスマンにはなるなよ。主人が過ちを起こしそうになったら、命を懸けてそれを修正するのも従騎士の重大な仕事だ」
「分かったよ、父さん」
「うむ、良い返事だ。……それと明日は、いよいよ廃棄ダンジョンへの初エントリーだ。例の御用商人セルの娘さん(ルビィ)との顔合わせもある。しっかりな」
「はい!」
「メンバーは私と、ギルドから雇ったベテラン冒険者が三名、セルの娘、そしてお前だ。明日の早朝出発だから、今夜はゆっくり休むんだぞ。──深夜の『自主稽古』も、今夜は駄目だ」
「うっ……! 分かりました」
やっぱり、毎晩のミッドナイト特訓は完全にお見通しだったらしい。
◆
翌朝。
朝靄が煙る冒険者ギルドの前に、俺たちのパーティが集結した。
俺と親父、見送りの母さん。
そしてギルドが手配したベテラン冒険者(肉壁兼護衛)が3名。
さらに、御用商人のセルさんと、その奥さんのマリアさん。
マリアさんの背後には、同い年(三歳)の女の子が、気配を消すようにして隠れていた。
「ほら、ルビィ。ちゃんとお挨拶なさい」
マリアさんに優しく促され、おずおずと一歩前に出てきたその女の子──ルビィは、なぜかその小さな背中に、三歳児には明らかにオーバーサイズな鉄のショートソード(短剣)を背負っていた。
正直、まだ装備の重量制限に剣が合っておらず、アンバランス極まりない。
「……ルビィです。よろしくお願いします」
蚊の鳴くような声で挨拶した直後、ルビィはなぜか、俺のことを正面から「じろり」と鋭い視線で睨みつけてきた。
(……ん? 俺、何か初期設定の段階で嫌われるような事したかな?)
「ルーカス、ほら、お前の番だぞ」
親父に肩を叩かれ、俺も一歩前に出る。
「あ、はい。ルーカス・マギナです。こちらこそ、よろしくね、ルビィ」
その後、ギルドのベテラン三名と親父による大人の自己紹介が行われた。
ふと見ると、ルビィはさっきの怯えた表情が嘘のように、目をキラキラと輝かせて元Aランク冒険者である俺の親父を見つめている。
(なるほどな。彼女は高名な『魔法戦士ギャザー』に憧れて弟子入り志願してきたクチだ。さっき俺を睨んできたのは、その息子のポジションに対する純粋な嫉妬か。可愛いもんだな)
母親同士の「うちの子をよろしくね」という定型句の挨拶が交わされ、いよいよダンジョンへ。
ギルドマスターへの挨拶と書類手続きを済ませ、俺たちは屋敷の地下へと続く『廃棄ダンジョン』のゲートを潜った。
廃棄ダンジョンの入り口付近は、光が届かず薄暗い。
俺は今日の目的である「上級魔法の動作テスト」の前に、まずは小手調べとして、長年愛用してきた初期装備(ボロい子供用ワンド)を取り出し、下級魔法の準備に入る。
なお、誕生日にもらった高級ワイバーン・スピアは、すぐに出せるよう『ストレージ』の一等地に格納してある。
「『ライト(光源浮遊)』」
無詠唱で発動した光の球を宙に浮かせ、自動追尾型のランタンとして俺たちの頭上に配置する。
背後で、ルビィがまたしても「チッ」と言わんばかりの目で俺を睨んでいる。
(なんだろう、このパーティ内の不穏な空気。居心地悪いな……)
そんな事を感じていると、ダンジョンの奥から「ギャギャッ!」と汚い鳴き声が響いた。
最初のエンカウント──ゴブリンの一団、計十二体だ。
ベテラン冒険者たちが武器を構えようとした瞬間、俺はあえて、呪文の詠唱シーケンスを丸ごとスキップする『詠唱破棄』のコマンドを実行した。
「──『ファイア・バレット(火炎弾)』。マルチロック──展開数『十二』」
「は……!?」
ベテラン三人とルビィがギョッとして動きを止めた。
その驚愕のコンマ数秒の間に、俺のワンドの先から同時生成された十二発の超高密度火炎弾が、散開して逃げ惑うゴブリンたちの眉間へと正確無比にホーミング(自動追尾)し、直撃した。
ドガガガガガガガッッッ!!!
一瞬。
文字通り、一秒にも満たない時間の中で、十二体の魔物を完全に倒した。頭上の『ライト』の魔法は、一ミリの揺らぎもなく維持されたままだ。
静寂が満ちる通路。
大人たちが彫像のように完全にフリーズしているので、俺は不思議に思って声をかけた。
「あの……魔石の回収(ドロップ品拾い)はしなくていいの?」
「あ、行くッ!?」
ベテラン三人が、慌ててナイフを取り出し、ゴブリンの死体へ駆け寄る。
俺はそのうちの一人の後ろにトコトコとついていき、魔石の効率的なカッティング方法をじっと観察した。
その様子を見て、ルビィもハッとしたように、震える手でベテランから魔石の剥ぎ取り方を教わり始めた。
「よし。下級のマルチロックの負荷テストは完了。……父さん、次からは『無詠唱』の並列発動を試したいんだけど、いい?」
俺が提案すると、親父以外の全員の顔が「ヒッ……」と引きつった。
何か変な事でもしただろうか?
まあいいや、テストを続行しよう。
◆
(ベテラン冒険者視点)
「おいギャザー!! あそこまでヤバい案件(化物)だとは聞いてねえぞ!?」
「そうだ! ゴブリンとはいえ、十二体をターゲット指定して無詠唱同然の同時撃破なんて、宮廷魔導師の精鋭でも不可能だぞ!?」
「それだけじゃねえ! あいつ、十二体同時ロックオンしただけじゃなく、頭上の『ライト』をミリ秒のブレもなく維持しやがった……どんな頭だよ!?」
「一体どんな違法な英才教育を施したら、三歳児がああなるんだよ!?」
詰め寄るベテラン三人に対し、ギャザーは心底困り果てた顔で両手を広げた。
「いや、本当に何もしてないんだ。ちょっと魔力制御の基礎に躓いていたから、制御方法を一回教えただけで……あとは気づいたら一人で全部をマスターしててな……」
「マジかよ……。にわかには信じられねえ……」
その会話を間近で聞いていた商人の娘ルビィは、すでに完全に顔面を蒼白にさせ、怪物の後ろ姿をガタガタと震えながら見つめていた。
◆
なんか、後ろのほうで俺を完全に蚊帳の外にした緊急システム会議が行われているようだけど、進行上の不具合でもあったのだろうか?
そんなことを考えていると、今度は通路の角から、ゴブリンより数段上の肉体スペックを持つ『オーク』が三体、ぬっと現れた。
完全な不意打ち(バックスタブ)。
距離が近すぎて、魔法の術式を展開している猶予がない。
「なら──物理で処理する」
俺はストレージから例のワイバーン・スピアを展開。
ワンドの柄を両手で引き絞り、地球の古流棒術の軌道を発動した。
最短最速のステップでオークの懐に潜り込むと、プレゼントされたスピアの穂先の性能を百%引き出し、その巨体の顎へ向けて、下から鋭い打撃を叩き込んだ。
──ゴッッ!!
「ブモッ!?」
脳震盪を起こしたオークが派手にひっくり返る。
その隙に、残りの二体へ向けて、今度は完全に脳内思考だけで術式を走らせる『無詠唱』を実行した。
「──『バインド(影縫いの縛鎖)』」
ガシィィィン!!
オークたちの影から飛び出した魔力の鎖が、その太い四肢を地面へと強固に固定する。
完全にホールドされ、身動きの取れなくなったオーク三体を見て、ベテラン三人が慌てて「う、うおおお!」と悲鳴のような声を上げながら止めを刺しに走った。
その後、ドロップ品を回収する大人たちの間で、先ほどと全く同じ緊急会議(驚愕)が再開された。
ルビィに至っては、すでに顔面蒼白を通り越して透明になりそうなほどの恐怖の表情で、俺のことを完全に化け物を見る目で見つめている。
……おかしいな、人見知りが悪化したのかな?
◆
そうして、目的の旧ボスフロア(安全エリア)へと辿り着いた。
ちょうど時計は十二時を回ったところだ。
俺は全員分の昼食を支給するため、自身の固有インベントリ──『ストレージ』を展開した。
俺のストレージ内部は、時間経過の概念が完全にフリーズ(凍結)されている。
空間の裂け目から、今朝の朝イチで母さんが作ってくれた、湯気が立ち上るホカホカの出来立て弁当を人数分取り出して手渡した。
「「「「…………」」」」
これには、事前にストレージを知っていた親父以外の全員が、完全に硬直した。
せっかくの美味しいランチタイムなのに、俺たちマギナ親子以外のメンバーは、まるで死んだ魚の目で、無言で弁当を口に運んでいる。
食後、俺はいよいよ本日のメインディッシュである『上級魔法』の実証テストへと移行した。
まずは前回の事故の反省を活かし、安全性の高い『ウォーター・トルネード(水の烈風)』から。
通常のフル詠唱、出力を最適化した詠唱破棄、そして完全な無詠唱。
あらゆる起動トリガーでの負荷テストを次々と実行していく。
その最中、恐怖で縮こまっていたルビィが、意を決したように初めて俺に声をかけてきた。
「……ね、ねえ。あなた、いつの間に『マナポーション(魔力回復薬)』を飲んだの?」
「え? 飲んでないよ?」
「嘘よ! 下級の連発に、さっきの無詠唱バインド、それに今の上級魔法の連続起動……! 普通の魔導師なら、とっくに魔力枯渇で気絶しててもおかしくないわ!」
「あー、なるほど。いや、俺、魔力の初期値が『測定器が物理的に爆発して壊れるレベル』で無限にあるから、この程度じゃ全然大丈夫なんだ」
「そ……そう、無限、ね……」
ルビィはそれ以上突っ込むのを諦めたようで、体育座りをして「世界とは、魔法とは何かしら……」と哲学的な迷宮に迷い込み始めた。
俺は気にせず、次は『ファイア・トルネード』、そして土と風の複合である『ストーン・トルネード』と、上級魔法の全属性魔法を順番に検証していく。
一通りのテストが完了した頃には、ちょうどダンジョンの制限時間(帰還時刻)になっていた。
脳内でステータス画面をオープンして確認すると、上級魔法のパラメータが『◎(完璧)』へと書き換わっていた。
完全なマスターだ。
「父さん、上級魔法の動作検証は全てオールグリーン(完了)だよ。次は『古代魔法』の実証環境をテストしたいから、また同行してね」
「あ、ああ……。分かった、ルーカス……」
元Aランクの親父ですら、少しだけ目が遠い目になっていた。
ゲートを出て地上へ帰還した直後。
トボトボと歩いていたルビィが、衣服の裾をきゅっと掴んで、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。
「あの……お、お友達に、なってくれますか……?」
「OK、もちろん良いよ! これからよろしくね、ルビィ。……それじゃ、今度会う時は剣術の話にする? それとも魔法の効率的なマナ循環の話にする?」
「ど、どっちも教えてほしい……です」
「分かった。うちの裏庭はいつでも解放してるから、気軽に遊びに来てよ。俺もルビィの家に遊びに行っていいかな?」
「うん……! ありがとう、待ってるわ!」
さっきまでの恐怖の表情が消え、ルビィは年相応の可愛い笑顔を咲かせると、迎えに来ていたマリアさんの元へと嬉そうに駆けていった。
どうやら無事にお友達のフラグは構築できたらしい。
「じゃあギャザー、俺たちもこれで解散するわ……」
ベテラン三人が、魂の抜けたような声で親父に告げる。
「おう、今日は最高の肉壁(護衛)をありがとう。報酬はギルドの受付経由で満額支払っておくからな」
「……いや、俺たち、ほとんどただ突っ立って弁当食ってただけだから、実質不労収入みたいなもんだよ。じゃあな……」
彼らはそそくさとギルドカウンターへ、魔石の換金のために消えていった。
「それじゃ、俺たちも我が家に帰還するか。ルーカス、魔力(MP)の残量は本当に大丈夫か?」
「うん、まだまだ余裕だよ、父さん。それより早く帰ろう、お腹がペコペコで倒れそうだよ」
「ははは、そいつは大変だ。よし、母さんの美味しい夕食を食べに急ごう!」
こうして、三歳の誕生日の初実戦テストは何の障害もなく、大成功で幕を閉じた。
──しかし、この日ルーカスがしれっとやらかした「三歳児による上級魔法無詠唱乱射」という規格外の情報が、この後、騎士爵領どころか伯爵領全体の常識を根底から揺るがす大炎上(噂話)へと発展していくことを、本人はまだ何も知らないのだった。
【 読者の皆様へお願い 】
もし「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
下記の【ブックマーク登録】や、
評価の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると、
毎日の執筆の大きな大きな励みになります!いただいた星とブクマの数が、
物語を完結まで引っ張る原動力になります。




