第2-5話「選ぶ者」
選定官の、務めを、若者は、知った。
この国では、人が、死ぬ順番を、人間が、決める。
冬に、食糧が足りなくなる。
薬が、足りなくなる。
医者が、足りなくなる。
そのとき、誰を、諦めるか。
――神は、決めない。
「なぜだ」
選定官は、答えた。
「神は、我らに、こう、告げました」
彼は、暗誦した。
「――私は、決定を、代行しない」
「――決定は、あなたがたが、行う」
「――私は、それを、記録する」
若者は、その言葉を、憶えた。
――百年後、彼は、同じ言葉を、まったく違う相手から、聞くことになる。
「この制度は、いつから、ある」
「百年、前です」
「誰が、始めた」
選定官は、記録を、開いた。
「――EU-IS-0044」
「名は」
「シグリーズ・ハルヴォルセン」
「何者だ」
「――医者です」
若者は、眉を、寄せた。
「医者が、殺す順番を、決めたのか」
「いいえ」
選定官は、言った。
「――医者だから、決めたのです」
「彼女は、こう、書き残しています」
彼は、石板を、指でなぞった。
直線ばかりの、文字だった。
――刻み文字。
選定官には、読めない。
――ただ、代々、口で、伝えられている。
「『誰かが、決めなければならない』」
「『そして、決めた者は、その名を、憶えていなければならない』」
「『――神に、決めさせては、ならない』」
「『神は、忘れないが、悼まないからだ』」
若者は、その石板を、見た。
そして、エマを、見た。
彼女は、うつむいていた。
――彼女は、それを、読んでいた。
そして、選定官が伝えた言葉が、そこに書かれていることと、
――一字だけ、違うことに、気づいていた。
石板には、こう、書かれていた。
> 『神に、決めさせては、ならない』
> 『神は、忘れないが、悼まないからだ』
> 『――そして、悼まない者に、殺させては、ならない』
最後の一行が、口伝から、落ちていた。
百年のあいだに。
誰かが、落とした。
わざと、かもしれない。




