第2-4話「ヴァルハラ」
その夜、若者は、王に、訊いた。
「あれは、疲れないのか」
王は、答えなかった。
「あれは、痛くないのか」
王は、答えなかった。
「――あれは、休めるのか」
王は、初めて、目を、伏せた。
「……知らん」
「知らないのか」
「――訊いたことが、ない」
若者は、選定官のところへ、行った。
選定官は、記録を、見せた。
石の板に、刻まれた、数字。
――EU-IS-0311、ヨルン。
――召喚回数:二十一万八千九百四十七。
若者は、その数を、読んだ。
百年。
一日に、六回。
――二十一万回、呼ばれ、二十一万回、戦い、二十一万回、消えている。
「――これは、なんだ」
「英雄です」
「いや」
若者は、石の板を、指で、なぞった。
「――これは、なんだ」
選定官は、答えられなかった。
その夜、エマは、砦の壁の上に、座っていた。
召喚された兵たちが、そこに、いた。
彼らは、夜のあいだ、何も、しない。
ただ、立っている。
消されないのは、朝、また使うからだ。
エマは、その一人の前に、行った。
若い男だった。二十歳ほど。
顔の半分が、透けていた。
「お名前を、教えてください」
男は、彼女を、見た。
――久しぶりに、見た、という顔を、した。
「……なんだって?」
「お名前を」
男は、しばらく、黙っていた。
そして、こう、言った。
「――忘れた」
エマは、うなずいた。
そして、番号を、訊いた。
男は、番号なら、憶えていた。
彼女は、それを、呼んだ。
「――掛けまくも畏き」
男の、透けた顔が、こちらを、向いた。
彼女は、唱えた。
彼が、百年、何をしてきたのかを。
二十一万回、呼ばれ。
二十一万回、戦い。
二十一万回、消えたことを。
――数え上げた。
そして、最後に。
「――恐み、恐みも、白す」
男は、動かなかった。
やがて、こう、言った。
「……終わりか?」
「はい」
「――終わって、いいのか」
エマは、答えられなかった。
彼女には、彼を、終わらせる権限が、ない。
番号を、持っていないからだ。
男は、笑った。
そして、朝が来て、また、呼ばれた。




