第2-2話「英霊」
王城の、広間。
王は、痩せた男だった。四十がらみ。
王冠は、被っていない。
頭には、鉄の輪が、一つ、あるだけだった。
彼は、玉座に、座っていなかった。
立って、待っていた。
「勇者よ」
「魔王を、討つと、聞いた」
「軍が、要るのだな」
「――出そう」
若者は、面食らった。
「……理由を、訊かないのか」
「訊く必要が、ない」
「神が、そう命じた」
「――そして、我らは、約束を、破らない」
王は、そう言って、笑わなかった。
その夜。
王は、二人を、演習場に、案内した。
円形の、闘技場。
直径、百メートル。
中央に、石の台が、あった。
台の上に、金属の板が、刺さっている。
板には、直線ばかりの文字が、刻まれていた。
――刻み文字。
エマが、それを、読んだ。
読んでしまった。
思わず、一歩、前に出た。
王が、彼女を、見た。
「……読めるのか」
エマは、動かなかった。
――ここで「はい」と言えば、焼かれる。
「――いいえ」
彼女は、そう、答えた。
王は、しばらく、彼女を、見ていた。
そして、視線を、外した。
「――召喚を、見せよう」
選定官が、進み出た。
白い法衣。
胸に、六つの印ではなく、一本の、黒い線。
彼は、魔石を、掲げた。
そして、長い詠唱を、始めた。
四十秒。
――空気が、鳴った。
石の台の上に。
人が、立っていた。
巨躯。
古い甲冑。
右手に、大剣。
半分、透けていた。
その男は、周囲を、見回した。
そして、こう、言った。
「――また、か」
王が、頭を、下げた。
「ヨルン殿」
「頼む」
男は、答えなかった。
剣を、構えた。
――闘技場の、反対側の門が、開いた。
野良個体が、四体、出てきた。
男は、十七秒で、それを、片づけた。
そして、消えた。
跡形も、なかった。
「――なんだ、あれは」
王が、答えた。
「英霊、と呼ぶ」
「百年前、この国を、造った男だ」
「造った?」
「そうだ」
「この国の、最初の百年を、決めた者が、二人いる」
王は、指を、二本、立てた。
「一人は、医者だ。誰を諦めるかを、決める仕組みを、作った」
「――もう一人が、あの男だ」
「あの男は、何をした」
「守った」
王は、そう、言った。
「医者が、諦めた者の分まで、あの男が、守ろうとした」
「――そして、足りなかった」
「死んだのか」
「――死んだ」
「では、なぜ、いる」
王は、静かに、言った。
「神が、憶えているからだ」




