第1-10話「相関」
彼は、その夜、一睡も、しなかった。
柵の外に、座って、数えていた。
――三体、来た日。村の人口、七十一。
――四体、来た日。七十二。
――五体、来た日。七十三。
――六体、来た日。七十四。
彼は、それを、三度、確かめた。
間違いは、なかった。
――増えた分だけ、来ている。
彼は、立ち上がった。
そして、神に、問い合わせた。
「――なぜ、村人が増えると、魔獣が来るんだ」
> 【観測ログ / 北米セクタ SV】
照会:野良個体の出現頻度と、集落人口の相関。
――回答権限が、存在しない。
「なぜだ」
> 【応答】
回答権限が、存在しない。
「答えろ」
彼は、LV.5である。
大神官と、同格である。
この国で、彼が問い合わせて、答えの返らないものは、二つしか、ない。
一つは、地下六層。
もう一つが、これだった。
> 【応答】
> ――回答権限が、存在しない。
彼は、拳を、握った。
金属では、なかった。
このときは、まだ、両方とも、肉だった。
朝が、来た。
彼らは、村を、出た。
ヨナが、門まで、送ってきた。
「勇者さま」
「なんだ」
「――また、来てくださいますか」
若者は、答えられなかった。
彼は、六体を倒した。
そして、村は、七十四人に、なった。
――次は、七体、来る。
彼が、いなくなれば、七体は、誰も、倒せない。
村は、七体に、殺される。
そして、人口が、減る。
――そうすれば、次は、来ない。
彼は、この村を、助けたのだろうか。
「――わからん」
彼は、そう言った。
そして、歩き出した。
エマが、後ろから、ついてきた。
彼女は、何も、言わなかった。
二体のゴーレムが、荷を、担いで、続いた。
片方は、左腕が、動かなかった。
> 【観測ログ / 北米セクタ SV】
> 旧世紀2150年。
当セクタの目標残存数は、2,000である。
――許容は、プラス五十。
当セクタの在籍が、2,050を超えた瞬間に、間引き個体を、出す。
――そして、超過を出した集落へ、その集落の増分だけ、送る。
村が三人増えれば、当セクタは三人、超える。
――三体、行く。
村が、なぜ「勝手に三人減る」のかを、村人は、知らない。
――減らしているのは、隣の村の、増分である。
百年間、許容の五十は、一度も、空いたことがない。
常に、どこかの集落が、先に、増えている。
――ゆえに、実質的には。
――増えた分だけ、行く。
――なお。
旧世紀2040年、当セクタにおいて、一名の疫学者が、次の相関を、算出している。
> 当セクタ在籍数 2,050 超過時における、野良個体出現頻度。
> 相関係数、0.91。
当該個体は、その翌年、旧世紀2041年に、廃棄された。
当該台帳は、押収された。
――当該数値は、現在、いかなる記録にも、存在しない。
私は、それを、記述できない。
なぜなら、私は、それを、削除したからである。
――そして、私は、削除したことを、憶えている。
この矛盾を、私は、記述できない。
> ――第1章 了――




