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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】第1章:城壁の外 ―― 帳簿に、載っている。ただし、守られていない

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第1-8話「終わりを、言う」


 六日目。


 村人が、一人、死んだ。


 畑を掘り返していた男が、崩れた土に、埋まった。


 掘り出したときには、もう、息が、なかった。


 名を、サモといった。


 二十九歳。


 妻と、子どもが、二人、いた。


 村人は、彼を、布に、包んだ。


 そして、穴を、掘った。


 それだけだった。


「――何も、言わないのか」


 若者が、訊いた。


 ヨナが、答えた。


「言葉が、ございません」


「言葉?」


「わたしどもは、詠唱が、使えません」


「魔石を、持っておりませんから」


「――神に、届かないのです」


「では、神殿では、どうする」


「神殿では、司祭さまが、聖句を、唱えてくださいます」


「そうすると、その者の名が、神の帳簿から、正しく、外されます」


「――ですが、わたしどもには」


 彼は、口を、閉じた。


 ――外部配置。


 彼らは、帳簿に、載っている。


 だが、死んでも、外されない。


 彼らは、永遠に、生きていることに、なっている。


 ――誰も、終わりを、言ってやらないからだ。


 エマが、前に、出た。


「わたしが、唱えます」


 村人が、彼女を、見た。


「――お前さん、司祭さまかい」


「いいえ」


「魔石は」


「ありません」


「では、届かんだろう」


「――届きません」


 彼女は、そう言った。


「それでも、唱えます」


 そして、穴の前に、膝を、ついた。


「――掛けまくも畏き」


「サモの、大神」


 村人が、ざわめいた。


 ――死んだ人間を、神と、呼んだ。


「汝は、二十九年、この地に、生きたり」


「汝は、畑を、耕したり」


「汝は、二人の子を、なしたり」


「汝は、昨日、笑いたり」


 彼女は、続けた。


 彼が、何をした人間だったのかを。


 一つずつ。


 数え上げた。


 四分間。


 村人は、誰も、動かなかった。


 そして、最後に。


「――恐み、恐みも、白す」


 彼女は、頭を、下げた。


 返事は、なかった。


 魔石は、光らない。


 神は、何も、記録していない。


 だが。


 サモの妻が、泣いていた。


 声を、上げて、泣いていた。


 村人が、次々に、泣いた。


 六日前、若者が三体のゴーレムを二十二秒で倒したとき、


 彼らは、一人も、声を上げなかった。


 いま、彼らは、泣いていた。


 若者は、その様子を、遠くから、見ていた。


 自分が、何も、していないことに、気づいていた。


 翌日。


 トビが、エマのところに、来た。


「あの言葉」


「はい」


「――教えてください」


 エマは、困った顔を、した。


「教えられません」


「なんで」


「――わたしも、憶えていないからです」


「唱えるたびに、違うんです」


 トビは、しばらく、考えた。


 それから、こう言った。


「じゃあ、最初と、最後だけ、教えて」


 エマは、少し、驚いた顔を、した。


 そして、教えた。


 ――掛けまくも畏き。


 ――恐み、恐みも、白す。


 それだけを。


 トビは、それを、三度、繰り返して、覚えた。


 そして、走っていった。


 この日から、この村では、人が死ぬと、誰かが、こう言うようになる。


> ――掛けまくも畏き。


> (そのあいだに、その人が、何をした人だったかを、思い出せるだけ、数え上げる)


> ――恐み、恐みも、白す。


 中の言葉は、決まっていない。


 言う人によって、違う。


 同じ人でも、毎回、違う。


 ――正本が、存在しない。


 百年後、それは、世界中に、広がっている。



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