第1-2話「歌」
五日目に、隊商と、会った。
荷車が、四台。
人が、十一人。
やせた馬が、二頭。
彼らは、若者の鎧を見て、道を、譲った。
それから、目を、そらした。
神殿の人間と、目を合わせるものではない。
――そういうことに、なっている。
だが、若者は、彼らを、呼び止めた。
「東の道は、どうだ」
隊商の頭が、答えた。
五十がらみの、女だった。
「――峠は、やめときな」
「なぜだ」
「三日前、四体」
「四体、何が」
女は、若者の顔を、見た。
それから、少し、驚いたような顔を、した。
「……あんた、旅は、初めてかい」
若者は、答えなかった。
女は、荷車の縁に、腰を、かけた。
そして、歌った。
節は、単純だった。
三つの音を、行ったり来たりするだけの。
> みっかまえ とうげにようたい
> みぎのくぼちに ひとつしずんだ
> のこりはみっつ きたへむかった
> きたのむらは はたけをやいた
若者は、聞いていた。
歌が、終わった。
「――それは、なんだ」
「知らせだよ」
「知らせ?」
「三日前、峠に、四体、出た。一体は、右の窪地に沈んだ。残り三体は、北へ行った。北の村は、畑を焼かれた」
「――なぜ、歌う」
女は、笑った。
「紙は、燃えるだろ」
「盗まれるし、濡れるし、読めないやつが、多いしね」
「歌は、燃えない」
「そして、一度聞けば、忘れない」
若者は、しばらく、黙っていた。
彼の脳内には、チップがある。
彼は、忘れない。何一つ。
だから、記憶を残す工夫というものを、考えたことが、なかった。
「――誰が、作った」
「知らないよ」
「南から、来た」
「南から?」
「ずっと南だ。海の向こうさ。そこの連中は、みんな、歌で覚えるらしい」
女は、荷車から、降りた。
「あんたも、覚えな」
「――一回でいい。あんた、頭がいいだろ」
彼女は、荷車を、引いて、行った。
エマが、その歌を、小さく、口ずさんでいた。
「――覚えたのか」
「はい」
「一回で?」
「……はい」
彼女は、うつむいた。
彼女もまた、一度聞いたものを、忘れない。
なぜなのかを、彼女は、知らない。




