第0-8話「番号」
「お前たちは」
若者は、剣から、手を離さなかった。
「――何だ」
男は、笑ったように、見えた。
口の端が、動いた。
「われわれは」
「――免除された」
「免除?」
「そうだ」
「百年前」
「この国は、飢えた」
「そして、選ばれた者は、免除された」
「何から」
「――苦しみから、だ」
男は、天井を、見上げた。
「週に、三名」
「くじで、選ばれた」
「選ばれた者は、この扉を、くぐった」
「――そして、二度と、上がらなかった」
若者は、動かなかった。
「上の人間は」
男は、続けた。
「上の人間は、われわれが、天へ、召されたと、思っている」
「神が、迎えに、来たのだと」
「――百年、そう、信じている」
「違うのか」
「違う」
男は、自分の、金属の腕を、上げた。
「われわれは」
「――部品に、された」
若者は、しばらく、何も言わなかった。
「――再資源化」
男が、うなずいた。
「そう、呼ばれていた」
「使える部分は、機械に。使えない部分は、肥料に」
「だが」
男は、四つの目で、若者を、見た。
「――途中で、止まったやつが、いた」
「機械にも、なりきれず」
「肥料にも、なりきれず」
「――生きてしまった」
沈黙があった。
「われわれは」
「――失敗作だ」
「そして、失敗作は、捨てられない」
「なぜなら」
「――帳簿に、載っていないからだ」
「捨てるには、まず、数えなければならない」
「数えれば、記録が、残る」
「――だから、放っておかれた」
「百年、放っておかれた」
若者は、剣の柄から、手を、離した。
「お前」
「番号は」
男は、金属の腕の、内側を、見せた。
そこに、古い刻印が、あった。
「――US-SV-2244」
若者の、脳内チップが、応答した。
> 【照会】
個体 US-SV-2244。
旧世紀2041年、廃棄プロトコルにより、処理済み。
――当該個体は、存在しない。
「……それは」
「百年前の、番号だ」
「そうだ」
「お前は、死んでいるはずだ」
「そうだ」
男は、笑った。
「――だから、生きていられる」
「数えられていないものは」
「――殺しようが、ないだろう」
若者は、その場に、立ち尽くしていた。
彼の視界には、何も、表示されていなかった。
目の前に、五十人の人間が、いる。
――そして、神の目には、一人も、映っていない。
彼は、この日、二度目の空白を、見た。
一度目は、回廊で、すれ違った娘だった。




