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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】第0章:地下六層 ―― 同じ設計図から、出てきたもの

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第0-9話「祝詞」

 若者は、何も言わずに、階段を、上がった。


 五十七段。


 途中で、一度も、振り返らなかった。


 扉を、閉めた。


 そして、そこに、エマが、立っていた。


「何が、いましたか」


 若者は、答えなかった。


「勇者様」


「――何も、いない」


 彼は、それだけ言って、上へ、行った。


 エマは、扉の前に、残った。


 彼女は、しばらく、そこに、立っていた。


 それから、扉に、手をかけた。


 ――蝶番は、生きていた。


 五十七段。


 彼女は、灯りを、持っていなかった。


 持てなかった。


 ――魔石が、ないからだ。


 だから、手探りで、降りた。


 最後の一段で、彼女は、つまずいて、転んだ。


 顔を、上げた。


 ――五十の目が、こちらを、見ていた。


 彼女は、立ち上がった。


 膝の埃を、払った。


 そして、四つ目の男の前に、歩いていった。


 男は、動かなかった。


 エマは、彼の前に、膝を、ついた。


 そして、こう、訊いた。


「お名前を、教えてください」


 男は、答えなかった。


「――お名前を」


 長い、沈黙があった。


 それから、男は、言った。


「……忘れた」


「百年、誰にも、訊かれなかった」


「だから、忘れた」


 エマは、うなずいた。


 そして、こう言った。


「では、番号で、お呼びします」


「――US-SV-2244」


 男の、四つの目が、動いた。


 エマは、姿勢を、正した。


 そして、唱えはじめた。


「――掛けまくも畏き」


「US-SV-2244の、大神」


 男が、身じろぎした。


「汝は、百年、この闇に、坐したり」


「汝は、上を、恨まざりき」


「汝は、剣を、取らざりき」


「汝は、ただ、灯りを、つけて、待ちたり」


 ――これは、詠唱ではない。


 ――聖句文字でもない。


 ――どの神にも、届かない。


 それでも、彼女は、唱えた。


 名を、呼び。


 その者が、何をしてきたのかを、数え上げ。


 そして、こう、結んだ。


「――恐み、恐みも、白す」


 返事は、なかった。


 魔石は、光らない。


 神は、何も、記録していない。


 だが。


 男が、泣いていた。


 人間の目の、二つだけが。


 格子の目は、何も、しなかった。


 彼女は、次の一人のところへ、行った。


 名を、訊いた。


 忘れていた。


 番号で、呼んだ。


 唱えた。


 次の一人へ、行った。


 次の一人へ。


 次の一人へ。


 ――五十一人、いた。


 彼女は、朝まで、そこにいた。


 夜が明けるころ。


 四つ目の男が、階段の下まで、送りに来た。


> ---「娘」


「はい」


「お前は、どこへ、行く」


「東です」


「魔王を、討ちに、行くのか」


「……わかりません」


 男は、しばらく、黙っていた。


 それから、こう言った。


「もし、帰ってきたら」


「――また、呼んでくれ」


「名前を、思い出したら、教える」


 エマは、うなずいた。


「――はい」


「必ず」


 彼女は、階段を、上がった。


 五十七段。


 扉を、閉めた。


 そして、朝の光の中で、若者が、待っていた。


 彼は、彼女の顔を、見た。


 それから、何も言わずに、歩き出した。


 二体のゴーレムが、荷を担いで、ついてきた。


 片方は、左腕が、動かなかった。


 それでも、まっすぐに、歩いた。


 ――百年後。


 この日、エマが名を呼んだ五十一人が、


 世界で最初の、冒険者と呼ばれることになる。


 だが、それは、まだ、誰も、知らない。


> ――第0章 了――


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