第0-6話「封鎖」
地下五層の、いちばん奥。
鉄の扉が、あった。
厚さ、四十センチ。
錆びている。
だが、蝶番は、生きていた。
扉の中央に、六つの印が、刻まれている。
――大神官の、位である。
> ---「開けるな」
と、大神官は、言った。
彼は、階段を降りてきていた。
法衣の裾が、油で、汚れていた。
「百年、閉じている」
「なぜですか」
「わたしも、知らん」
「先代から、そう聞いた。先代は、先々代から、そう聞いた」
「――開けるな。それだけだ」
「では」
と、若者は言った。
「あの個体は、どこから来たんですか」
大神官は、答えなかった。
> ---「工房長は、下から来たと、言いました」
「――この扉は、閉じています」
「では、下には、別の道が、あるということです」
「そして」
> ---「別の道があるということは、下には」
「――何かが、いるということです」
大神官は、扉を、見ていた。
長い、沈黙があった。
それから、彼は、こう言った。
「勇者よ」
「はい」
「明日、旅立て」
「東へ行け。魔王を、討て」
「――下は、見るな」
「なぜですか」
大神官は、若者の顔を、見なかった。
> ---「知らんほうが、いい」
彼は、階段を、上がっていった。
残ったのは、二人だけだった。
若者は、扉の前に、立っていた。
彼の視界には、情報が、重なって見える。
目に映るものすべてに。
――だが、この扉の向こうについては、何も、表示されない。
彼は、神に、問い合わせた。
――この先には、何がある。
> 【観測ログ / 北米セクタ SV】
照会:地下六層。
――当該区画に、在籍個体は、存在しない。
当該区画は、空である。
――なお。
当該区画の、熱源が、増加している。
百年間、増加し続けている。
在籍個体は、存在しない。
ゆえに、熱源は、存在しない。
存在しないものが、増えることは、ない。
私は、これを、記述できない。
若者は、しばらく、動かなかった。
それから、エマのほうを、見た。
「――お前は、ここにいろ」
彼は、扉に、手をかけた。
――蝶番は、生きていた。




