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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】序章:番号のない子 ―― 機械仕掛けの神話

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第0-1話「昔々」

 その老人は、嘘をついていた。


 毎晩、同じ嘘を、少しずつ違えて。


 分厚い石壁の内側で、炉の火が、揺れていた。


 外は、闇だった。命を凍らせるような吹雪が、壁の向こうで鳴っている。この村では、冬に外へ出た者は、帰ってこない。それは、寒さのせいだと、子どもたちは教わっている。


 半分は、本当だった。


 老人は、炉のそばの椅子に、背を丸めて座っていた。膝に、毛布。右手に、湯の入った木の椀。


 左手は、持っていなかった。


 正確には、左腕は、あった。肘から先が、金属だった。古い。継ぎ目に、灰が詰まっている。指は、五本ある。動く。ただ、湯の椀は、右手で持っていた。


 その足元に、孫が座っていた。六歳だった。


「ねえ、おじいちゃん」


「なんだい」


「お話、聞かせて」


 老人は、火を見た。


 しばらく、何も言わなかった。


 それから、いつもの一言を、言った。


「昔々、この世界には、神さまがいたんだよ」


「ある国に、一人の若者がいた」


「その若者はね、神さまに、選ばれたんだ」


 孫の目が、光った。


「選ばれたの?」


「そう。世界で、たった一人だけ」


「かっこいい!」


「……そうだね」


 老人は、火を見ていた。


「若者は、神さまから、三つのものをもらった。剣と、鎧と――魔石だ」


「魔石!」


「魔石を持つとね、言葉が、力になる。唱えれば、火が出る。水が湧く。壁が立つ」


「ぼくも、ほしい」


「――そうだね」


 老人は、木の椀を、傾けた。湯は、もう冷めていた。


「そして、若者は、旅に出た」


「どこへ?」


「東の果てだ」


「東の果てには、何があるの」


「魔王がいた」


 孫が、息を呑む。


「魔王は、悪いやつ?」


「……そうだね」


「勇者は、魔王を、討ちに行ったんだ」


 孫が、身を乗り出した。


「それでね、それでね。勇者は、どうなったの」


「六つの国を、回った」


「六つ!」


「氷の国。城壁の国。ダムの国。龍の国。それから――鉄くずの国」


「五つしかないよ」


 老人は、口を閉じた。


 しばらく、火を見ていた。


「……そうだったかな」


「ねえ、おじいちゃん」


「なんだい」


「きのうは、剣が、二本だったよ」


 老人は、笑った。


「そうだったかい」


「うん。きのうは、二本。おとといは、勇者の髪が、赤かった」


「そうだったかな」


「おじいちゃん、うそつき」


 老人は、しばらく、黙っていた。


 それから、湯を、一口、飲んだ。


「……そうかもしれないな」


 炉の中で、薪が、崩れた。


 火の粉が、いくつか、上がった。


 孫は、それを見ていた。


「ねえ」


「なんだい」


「勇者は、勝ったの?」


 老人は、答えなかった。


 右手で、湯の椀を、持ち直した。


 金属の左手は、膝の上で、動かなかった。


「――ああ」


「勝ったよ」


「そして、世界は、救われたんだ」


 孫が、笑った。


「よかった!」


「……そうだね」


「よかったね」


 老人は、火を見ていた。


 外で、風が、鳴っていた。


「ねえ、おじいちゃん」


「なんだい」


「その勇者は、いま、どこにいるの」


 老人は、しばらく、答えなかった。


 火が、揺れた。


 金属の指が、一度だけ、わずかに、鳴った。


「……さあ」


「どこに、いるんだろうね」


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