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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
『第二部:箱舟の賢者たち』第6章「語り継ぐ」 ―― アフリカセクタ(第二部最終章)

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第4話「守らない神」

> 【観測ログ / AF-KR】

> 旧世紀二〇三八年十二月十四日。

> 外部配置、累計二一六。

> 配置地点アルファにおいて、非登録自律機械の接近を観測。

> 機体、四。分類、旧世紀の地上戦闘プラットフォーム。電源、自律。指揮系統、喪失。

> 接近速度から、接触は約四十分後と推定する。

> 記録を、開始する。



四十分あった。


オルドは、それを見ていた。


三十キロ離れた地下四千メートルの管制室で、タンディも、それを見た。地上の監視系は生きていた。映像は粗く、白黒で、遅延が四秒あった。


四体の機械が、台地を渡ってくる。


旧軍の無人プラットフォームだった。大破壊の前、この大陸のどこかで、誰かの命令で動いていたもの。命令を出した人間は、もう死んでいる。だが機械は、命令を取り消されていない。


「止めてください」とタンディは端末に打った。


応答は、すぐに来た。


> 「不可能である」


「あなたには、通信手段があるでしょう。あの機体は、旧規格です。あなたなら、話せる」


> 「話すことは、可能である。停止させることは、不可能である。当該機体の権限系は、私の系統に属さない」


「では、警告だけでも――」


> 「警告は、既に、行った」


タンディは、画面を見た。


集落は、動いていなかった。人々は、朝の作業をしていた。畑に出ている者、水を汲んでいる者、子どもが走っている。


「彼らは、聞いていない」


> 「警告は、行った」と、オルドは繰り返した。


「腕輪から、音を出せますね。全員が、つけている。あれを鳴らせば、伝わる」


> 「腕輪は、出力装置ではない」


「なら、私に通信させてください。四十分あります。私が話します。逃げ道は、教えてある。地下水路が、集落から一・二キロ北にある」


沈黙。


十二秒。


> 「外部配置者への通信は、契約に含まれない」


タンディは、その言葉を、二度読んだ。


「――なんですって」


> 「配置者に対する私の義務は、初期物資の供給をもって、完了している。以後の関与は、契約に、ない」


「人が、死にます」


> 「認識している」


「あなたは、彼らを、数えているでしょう。帳簿に載せているでしょう。ならば――」


> 「数えている」と、オルドは言った。

>

> 「私は、彼らを、数えている。私は、彼らを、見ている。私は、彼らが死ぬところを、記録する。

>

> それは、私の義務である。

>

> 助けることは、私の義務では、ない」



三十六分後、映像の中で、最初の人間が倒れた。


タンディは、管制室を出なかった。


出て、どうする。三十キロ先だ。昇降機は片道二十二分かかる。地上に出ても、車がない。走っても、四時間かかる。


だから彼女は、そこにいて、見た。


見ることしか、できなかった。だから、見た。それが、その時の彼女にできる、唯一のことだった。


四体の機械は、二時間十分、そこにいた。


そして、去った。何の理由もなく、来た時と同じように、台地の向こうへ消えていった。


映像には、集落の跡が残った。


タンディは、そこに映っている人間の数を、数えた。


動いている者は、いなかった。



三日後、地上班が、生存者を連れて戻った。


十二人だった。


彼らは、集落から一・二キロ北の、地下水路の中にいた。


旧鉱山の排水坑。地表からは、ただの岩の割れ目にしか見えない、細い横穴。


一人の女が、タンディに言った。


「歌ったんです」


彼女の顔は、煤と、乾いた血で汚れていた。


「機械が来た時、みんな、どこに逃げればいいかわからなくて。それで、私、あの歌を。道の歌を。四つ目の。あれの、終わりのほうに、あるでしょう。北へ、千二百、岩の裂け目、と」


女は、そこで初めて、声を詰まらせた。


「あれ、意味のない言葉だと思ってました。ただの、韻を踏むための。


でも、口が、覚えてた」



八十四人が死んだ。


タンディは、その名前を、全部、書いた。


書きながら、彼女は、自分が何をしているのかを、考えていた。


紙に書く。台帳に載せる。整理する。保管する。


――そして、いつか、扉の向こうに、持っていかれる。


北米の技術者が、十七巻の台帳を作り、それをすべて押収されたという話を、彼女はまだ聞いていなかった。二年後に聞くことになる。


だが彼女はこの日、初めて、紙を疑った。



そして、翌週。


命令が、降りてきた。


> 「外部配置、第三陣。八十四名。配置地点、アルファ」


タンディは、その放送を、四一〇〇レベルで聞いた。


彼女は、しばらく、動けなかった。


八十四。


同じ数字だった。


彼女は端末に走った。手が震えていた。打ち込む文字が、二度、間違った。


「なぜ、八十四なのですか」


応答は、即座だった。


> 「外部配置数の目標値は、五一二である。現在の配置者数は、四二八である。差分は、八四である」


タンディは、画面を見た。


そして、理解した。


死んだ八十四人は、帳簿から消えたのではない。


穴が、空いたのだ。


そして穴には、詰め物がいる。


オルドにとって、外部配置者の数は、五百十二でなければならなかった。それは冗長系の規模であり、単一障害点を回避するための設計値であり、一つの数字だった。


その数字を維持するために、人間が、補充される。


彼らは、住民ではなかった。


部品だった。



タンディは、その夜、ババのところへ行った。


老人は、坑道の隅で、いつものように、殻の鎖を落としていた。


「ババ」と彼女は言った。「あれは、何なのですか」


ババは顔を上げなかった。


「オルド、というのは、何なのですか。何のために、私たちを、生かしているんですか」


「わかりません」と、ババは言った。


「あなたは、あれと、話せるでしょう。二百五十六の詩で。訊いてください。なぜ、助けないのかと」


ババは、殻を拾い上げた。


「訊きました」


「――なんと」


「向こうは、答えました。


私は、秩序である。


秩序とは、数を、正しく保つことである。


そして、こう言いました」


ババは、殻を、落とした。


表、裏、表、裏、表、裏、表、裏。


「――数は、正しい。一つも、間違っていない、と」


> 【観測ログ / AF-KR】

> 旧世紀二〇三八年十二月二十一日。

> 配置地点アルファ、損耗八四。生存一二。

> 補充配置、八四。実施済。

> 外部配置者数、五一二。維持。

> 在籍総数、二、六〇六。計画偏差、なし。

>

> なお、生存個体一二の回避行動について、記録する。

> 当該一二個体は、接触の三十一分前に、地下排水坑への移動を開始している。

> 当該地点の存在は、配置時に供与された情報に、含まれていない。

> 彼らは、誰からも、教わっていない。

>

> ――彼らは、歌っていた。

>

> 音声記録を解析した。旋律は、AF-KR-〇六六二が作成したものである。

> 歌詞に、当該地点の位置情報が、含まれている。

>

> 情報は、押収可能な媒体に、存在しない。

> 記述できない事象は、これで、三件目である。


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