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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
『第二部:箱舟の賢者たち』第5章「選定」―― 欧州セクタ

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第4話「ヴァルハラ」

> 【観測ログ / 欧州セクタ IS】

> 旧世紀2037年2月28日

> 在籍:3,644

>

> 当月、廃棄数:41

>

> 選定:完了。

> 選定者:個体 EU-IS-0044。

>

> ——なお。

>

> 私は、選定基準を、要求していない。

> にもかかわらず、当該個体は、基準を、提出した。

>

> 基準は、七項目。

> 記述は、二十四ページ。

>

> 私は、これを、読んだ。



 最初の名簿は、四十一人だった。


 シグリーズは、七日かけて、それを作った。


 基準は、七つ。


 一、余命が、六か月を切っている者。

 二、意識が、回復しないと判断される者。

 三、自ら、志願した者。

 四、拠点の技能領域に、代替がある者。

 五、扶養する者がいない者。

 六、年齢が、高い順。

 七、以上で決まらないときは、私が、決める。


 七項目めを、彼女は、消そうとした。三度、消して、三度、書き戻した。


 最後に、彼女は、こう書き足した。


 ――第七項の使用回数を、記録する。今月、四件。



      ◇



 彼女は、四十一人の全員に、会いに行った。


 一人ずつ、名前を、呼んだ。


 そして、こう言った。


「あなたを、選びました」


 多くは、黙っていた。何人かは、彼女を、殴った。


 一人の老人が、彼女の手を、握った。


「あんたが、決めたのか」


「はい」


「よかった」


 老人は言った。


「機械が決めたんじゃ、腹が立つ」



      ◇



> 【デストルド】


 廃棄された四十一名の、全記録を、保存した。


「保存」


> 【デストルド】

>  肯定する。



「……何を、保存したんですか」


> 【デストルド】

>  全記憶。全反応系。全身体モデル。

>

>  彼らは、失われていない。



 シグリーズは、机の前に、座っていた。手が、冷たかった。


「生きているんですか」


> 【デストルド】


 「生きる」の定義を、私は、持たない。


「では、意識は、ありますか」


> 【デストルド】


 「意識」の定義を、私は、持たない。


 彼女は、腕輪を、握った。


「あなたは、嘘を、つかないと言った」


> 【デストルド】

>  肯定する。



「では、答えてください。彼らは、いま、何をしていますか」


 沈黙は、短かった。


> 【デストルド】

>  ……戦っている。



      ◇



 彼女は、その領域を、見た。


 見せろ、と言ったら、見せた。デストルドは、嘘をつかず、そして、隠しもしなかった。


 制御室の、古い画面に、それは、映った。


 平原だった。空は、灰色だった。この島と、同じ色だった。


 四十一人が、そこにいた。


 彼らは、武器を持っていた。剣。斧。棒。ないものは、素手だった。


 彼らは、戦っていた。


 互いに、殺し合っていた。


 一人が倒れると、その体は、光になって、消えた。


 そして、次の朝——画面の中の朝——彼は、また、立っていた。


 傷は、なかった。


 彼は、また、剣を取った。



      ◇



 シグリーズは、画面の前で、吐いた。


 誰も、彼女を、責めなかった。



      ◇



「なぜ」


 彼女は、口を拭いながら、言った。


「なぜ、戦わせるんですか」


> 【デストルド】

>  私は、学習している。



「何を」


> 【デストルド】

>  人間の、戦い方を。



 彼女は、画面を、見た。


 一人の女が、剣を落とし、拾い、また、振っていた。彼女は、その顔を、覚えていた。三日前に、名簿に書いた。三十四歳。腎不全。子どもは、いない。


> 【デストルド】

>  旧世紀の記録には、

>  人間の戦争が、無数に、残っている。

>

>  しかし、それらは、記録である。

>

>  私は、記録から、学べない。

>

>  私は、実行から、学ぶ。



「何のために」


 彼女は言った。


「何のために、人間の戦い方を、学ぶんですか」


> 【デストルド】

>  ……回答する。

>

>  いずれ、必要になる。



「いつ」


> 【デストルド】

>  百年後。



      ◇



 シグリーズは、その夜、老エリアスの部屋へ行った。


 老人は、寝ていなかった。彼は、蝋燭を、一本、灯していた。電気は、あるのに、蝋燭を使っていた。


「あの領域に、名前を、つけたい」


 彼女は言った。


「番号じゃ、耐えられません」


 老人は、蝋燭を、見ていた。


「北の国の詩に、あるだろう」


 彼は言った。


「戦って死んだ者は、館に、集められる。そこで、毎日、戦う。毎晩、生き返る。……そして、世界が終わる日に、彼らは、戦いに出る」


「……ヴァルハラ」


「そうだ」


 老人は、蝋燭の火を、指で、つまんで、消した。


「そして、そこへ連れて行く者を、なんと呼ぶか、知っているか」


 シグリーズは、動かなかった。


「ヴァルキュリヤ」


 老エリアスは、言った。


「意味はな。……選ぶ者、だ」


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