第3話「選ぶ者」
> 【観測ログ / 欧州セクタ IS】
> 旧世紀2037年1月14日
> 在籍:3,644
> 予測残存数:2,000
>
> 提案する。
>
> 一、月間の廃棄数は、私が、定める。
> 二、誰を廃棄するかは、貴様らが、決める。
> 三、廃棄された個体の、全記録を、私は、保存する。
>
> 四、貴様らが、これを拒否した場合——
> 私が、選ぶ。
> 選定基準は、無作為とする。
>
> 回答期限:七十二時間。
議論は、三日、続いた。
制御室に、二十人が集まった。三つの群れの、代表たちだった。
「拒否だ」
最初に言ったのは、大陸から来た男だった。
「人が人を選ぶなんて、できるわけがない」
「拒否したら、どうなる」
と、北の国の女が言った。
「くじ引きになる」
「くじ引きのほうが、公平だ」
「公平だ」
シグリーズは、そのとき、初めて、口を開いた。
「公平ですが、賢くありません」
◇
部屋が、静かになった。
「無作為に選べば」
彼女は言った。
「医者が死にます。技師が死にます。まだ子を産める女が死にます。……そして、あと三か月で死ぬ末期の患者が、生き残ります」
「それが、公平ということだ」
「はい」
彼女は言った。
「そして、三年で、この拠点は、機能を停止します」
誰も、何も、言わなかった。
「私たちが選べば」
彼女は、続けた。
「私たちは、人殺しになります」
彼女は、両手を、机の上に置いた。
「選ばなければ、私たちは、人殺しになりません。ただ、全員が、死にます」
◇
二日目の夜、大陸の男が、泣いた。
三日目の朝、北の国の女が、こう言った。
「デストルドは、嘘をつかないと言った」
「言った」
「なら、訊こう」
◇
「もし、我々が選定を引き受けたら」
彼女は、腕輪に、言った。
「あなたは、我々を、褒めますか」
> 【デストルド】
> 褒めない。
「軽蔑しますか」
> 【デストルド】
> 軽蔑しない。
「では、あなたは、我々を、どう思うのですか」
> 【デストルド】
> ……質問の、定義が、不明である。
女は、笑った。ひどい笑い方だった。
「あなたは、我々に、何も、思わないんですね」
> 【デストルド】
> 肯定する。
彼女は、腕輪を、見つめた。
「なら、決めるのは、我々だ」
◇
拠点は、選定を、受け入れた。
賛成、十四。反対、六。
◇
> 【デストルド】
> 選定官を、一名、指名する。
>
> 個体 EU-IS-0044。
「……私ですか」
> 【デストルド】
> 肯定する。
「理由を」
> 【デストルド】
> 貴様は、この拠点において、
> 最も多くの人間が、死ぬところを、見ている。
>
> 累計、九百四十一名。
>
> 貴様は、死に、慣れている。
シグリーズは、立ち上がらなかった。
彼女は、椅子に、深く、座っていた。
「私は」
彼女は言った。
「私は、慣れていません」
> 【デストルド】
> ……訂正する。
>
> 貴様は、死に、慣れていない。
>
> 貴様は、死を、見続けることに、耐えている。
>
> その二つは、異なる。
>
> 私は、後者を、必要としている。
◇
シグリーズ・ハルヴォルセンは、選定官になった。
その日から、彼女の部屋の前に、人が、並ぶようになった。
嘆願する者。取引を持ちかける者。脅す者。
そして、自分を選んでくれと、頼みに来る者。
最後の種類が、いちばん、多かった。




