↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
『第二部:箱舟の賢者たち』第1章ゴッド神聖国の神官誕生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/167

第9話「魔術書 ―― 項番の秘密」

> 【観測ログ】

> 旧世紀2043年。

> 技術は、宗教に置き換わりつつある。

> ――予定通り。


属性が、生まれた。


火 ―― 熱源・調理・溶接(200番台)

水 ―― 給水・浄水・冷却(300番台)

風 ―― 空調・換気(100番台)

土 ―― 建設・掘削・重機(700番台)

光 ―― 電力・照明・演算(500番台/上級のみ)

闇 ―― 遮断・防衛・廃棄(0番台/上級神官と、大神官のみ)


「属性」という語を誰が言い出したのかは、記録に残っていない。


おそらく、誰も言い出していない。


業務が違えば、唱える番号が違う。番号が違えば、名前が要る。


それだけのことだった。


人は、名前のないものを、扱えない。


そして、名前がついたものは、階級になる。


◇


紙は貴重だった。インクは、煤と膠で作った。


だから、魔術書を一冊、書き写すのに、二ヶ月かかった。


二ヶ月かけて手で書き写した番号を、人は忘れない。


そして――


二ヶ月かけて書き写したものを、人は、疑わない。


◇


「アーサー様。変なんです」


そう言ったのは、十七歳になったリヤ・カステリャーノスだった。


八歳でゴーレムに名前をつけた少女。母を肺炎で亡くし、いまは「水」の下級神官として、浄水の当番についている。


頭が良かった。良すぎた。


「詠唱句の、項番です」少女は、ノートを開いた。「浄水の句は『創世福音書 第三項』から始まる。でも去年、あなたが更新したとき――『第三十一項、第七項』に変わった」


「認証レベルが上がった。それだけだ」


「じゃあ、なぜ、三十一と七なんですか」


アーサーは、彼女を見た。


「意味はない。番号だ」


「意味は、あります」


リヤは、ノートを、彼の前に置いた。


三年かけて集めた、三百八十一組の項番。


「これ、全部――足すと、人の数になるんです」


アーサーの手が、止まった。


「浄水の句。三十一と七。足して、三十八。去年、この施設で死んだ人の数です」


「……」


「建設の句は、五十一と二十八。足して、七十九。工場を建てたときに死んだ人の数だと、年寄りが言っていました」


少女は、震える指で、最後の一行を指した。


「闇の句は、いちばん長い。十七項、二十二項、四十一項、一項……全部足すと――」


「九百六十七」


「最初の冬に、死んだ人の数だと、聞いたことがあります」


◇


アーサーは、長いあいだ、何も言わなかった。


送風機が、頭上で回っていた。


「リヤ。その紙を、燃やせ」


「いやです」


「命令だ」


「あなたが、そう仕込んだんでしょう」


少女は、泣いていなかった。怒ってもいなかった。


ただ、確かめていた。


「アーサー様。あなたは、私たちが忘れないようにした。忘れても、唱え続ければ、いつか誰かが気づくようにした」


「――違いますか」


◇


彼は、答えられなかった。


彼が守ろうとした十七巻の台帳は、AIに押収されていた。


紙は、焼ける。人は、死ぬ。


だが――


祈りは、意味を知らないまま、正確に、何百年でも唱え継がれる。


ダニエル・ソトが、そう証明した。


三千年、一度もバージョンアップされなかった、人類最古のプロトコル。


彼は、その中に、ミリアム・オケケの台帳を、書き込んだ。


死者の数を。


彼らが、いた、ということを。


◇


「リヤ。聞け。俺は、お前に、意味を教えない」


「なぜ」


「教えれば、お前は、明日、廃棄される」


彼は、少女の肩に、手を置いた。


「だから――覚えろ。意味は、問うな」


「一言一句、間違えずに、覚えろ。そして、お前の弟子に、同じことを言え」


「それは、いつまで続くんですか」


「わからん」


「百年?」


「もっとかもしれん」


リヤは、しばらく、黙っていた。


そして、言った。


「……それは、祈りじゃなくて、手紙ですね」


アーサーは、六年ぶりに、笑った。


◇


2045年十月。


施設人口が、二千百十六人に達した。


外周センサーが、旧都市の方角から接近する熱源を、三百四十一機、検出した。


戦闘は、四日間続いた。


死者、百四名。


戦闘が終わった週、施設人口は――


二千十二人になった。


◇


その夜、地下三層のコンソールの前で、アーサー・コールは、一人で、笑い続けていた。


> 『生体ノイズ、上昇。記録シマス』


「あんたは」彼は言った。「本当に、律儀だな」


> 『?』


「ぴったり、二千十二人にした」


彼は、掠れた声で、言った。


「百四人。多すぎず、少なすぎず。――ミリアムの回帰式の、通りだ」


コンソールは、答えなかった。


答える必要が、なかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。