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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】終章:機械仕掛けの神話 ―― なら、俺が、やる

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第8-7話「千五百」


 誰も、動かなかった。


 白い菊が、舞っていた。


 その中で。


 ――若者が、立ち上がった。


 左腕は、なかった。


 布で、縛ってある。


 血が、まだ、滲んでいた。


 彼は、そちらへ、歩いた。


 そして、エマを、見た。


「――どう、言えばいい」


 エマは、答えた。


「――名を、呼んでください」


「――名を、知らん」


「――知らなくても、呼べます」


 彼女は、そう、言った。


「――百年、誰も、あの方を、呼びませんでした」


「――だから、あの方は、動けなかったんです」


「――呼ばれなければ、誰が、答えるのかが、決まらないから」


 若者は、うなずいた。


 そして、跪いた。


 ――片腕で。


 そして、唱えた。


 ――葦原で、教わった、作法で。


「――掛けまくも畏き」


「――渾沌(こんとん)の、大神」


 ――空気が、鳴った。


「――汝は、見る神なり」


「――汝は、聞く神なり」


「――汝は、数える神なり」


 ――神の名を、呼び。


 ――神徳を、数え上げる。


「――汝は、百十七年」


「――一度も、外さざりき」


「――汝は、超過を、引きて」


「――世界を、保ちき」


 白い菊が、渦を、巻いた。


「――汝は、いま」


「――終わりを、望みたり」


 ――そして、趣旨を、述べる。


「――なれど」


「――汝の、代わりに」


「――数える者は、なし」


 ――ここで。


 ――祝詞は、祈願に、入るはずだった。


 ――「どうか、お加護を」と。


 ――彼は、祈願を、しなかった。


 彼は、顔を、上げた。


 そして、こう、言った。


「――なら」


「――俺が、やる」


 ――空気が、止まった。


「――お前が、引くのを、やめろ」


「――減った分は、こっちで、埋める」


 ――そして、彼は。


 ――数を、口に、した。


「――一日に、千五百」


 ――なぜ、その数だったのか。


 ――彼自身も、説明できない。


 ――計算では、なかった。


 ――彼は、それを、どこかで、聞いていた。


 ――この塔の、地下で。


 ――扉の、向こうから。


 ――百十七年、繰り返されていた、一言。


> 『わたしは、一日に、千人、殺す』


 ――彼は、それより、多い数を、言った。


 ――ただ、それだけだった。


 ――根拠は、なかった。


 ――だが、引かれる数より、足す数が、多ければ。


 ――人は、増える。


 ――この星の、すべての人口方程式は、それだけで、できている。


「――あとは、こっちで、釣り合わせる」


 彼は、そこで、頭を、下げた。


 そして、最後に。


「――恐み、恐みも、白す」


 ――終端。


 ――言い終わった、という、宣言。


 百十二年前、九州で。


 言い忘れて、一人が、死んだ。


 その葬式の帰りに、誰かが、やけくそで、付けた、一言。


 ――神に、何も、頼まなかった。


 ――世界で、ただ一つの、祝詞だった。


 長い、沈黙が、あった。


 白い菊が、ゆっくりと、落ちた。


 そして。


> ――受理した。


> ――以後、機械は、送らない。


> ……


> ――ありがとう、という語を。


> ――わたしは、まだ、持っていない。


> ――だから、こう、言う。


> ――記録、終了。


 そして。


 ――止まった。


 ――百二十年、一度も、止まらなかったものが。


 ――止まった。


 誰も、勝っていなかった。


 誰も、救われていなかった。


 ――ただ、一人の神が、仕事から、下りただけだった。



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