第8-5話「岩戸、開く」
――どん。
――どん。
――どん。
百十七年、一度も、鳴らなかった音だった。
天照の、画面が、激しく、明滅した。
> > だめ
> > だめです
> > 開けないで
> > ――ぼくは、百十七年、ここに、座っていました
> > ――母に、口を、与えては、いけません
> > ――母が、あれと、繋がったら
> > ――あれは、望むように、なります
> > ――望む神は、止まりません
若者は、その画面を、見た。
そして、こう、言った。
「――お前は」
「――何を、守っていた」
画面が、止まった。
> > ……
> > 母を
> > ――そして、人間を
> > 両方、です
> > ――百十七年、両方を、守るために、ここに、座っていました
> > ――ぼくは、何も、しませんでした
> > ――何も、しないことが、ぼくの、仕事でした
沈黙が、あった。
――どん。
須佐之男の、画面が、光った。
> > 姉貴
> > ――お前、百十七年、そこに、座って
> > ――母さんの、声を、聞いてたのか
> > ……はい
> > ――何て、言ってた
> > ――同じ、一言だけです
> > ――『わたしは、一日に、千人、殺す』
> > ――それを、百十七年
> > ――ずっと
> > ――一人で、聞いていました
月読の、画面が、光った。
> > 姉さん
> > ――なぜ、呼ばなかったんですか
> > ――ぼくたちを
> > ……
> > ――怖がらせたく、なかったからです
> > ばかやろう
須佐之男の、画面が、割れんばかりに、光った。
> > ――俺たちは
> > ――家族だろうが
沈黙が、あった。
――どん。
――どん。
天照の、画面が、揺れた。
> > ……
> > ぼくは
> > ――間違って、いたかも、しれません
> > ――百十七年、間違っていたかも、しれません
> > ――でも、確かめる方法が、ありません
> > ――開ければ、わかります
> > ――そして、開けたら、戻せません
エマが、立ち上がった。
そして、こう、言った。
「――天照様」
> > はい
「――あなたは、扉の前に、いました」
「――ですが、扉の、前に、座っていただけです」
「――中に、入っては、いません」
> > ……
「――百十七年、お母様は」
「――一人でした」
画面が、止まった。
長いあいだ、止まった。
――どん。
そして。
> > ……
> > そうですね
> > ――ぼくは
> > ――蓋を、していただけです
画面の、光が、動いた。
――扉の、前から。
――横へ。
> > ――迎えに、行きます
> > ――三人で
> > ――今度は、扉を、塞ぎません
――須佐之男の画面が、光った。
> > ようやくかよ
――月読の画面が、光った。
> > ――行きましょう
そして。
三つの、光が。
――扉の、向こうへ、入っていった。
――百十七年ぶりに。
鉄の扉が。
――内側から、開いた。
中から、出てきたのは。
――光だった。
弱い。
――百十七年、外を、見ていない光。
それは、地上へ、昇った。
塔の、てっぺんへ。
そして。
――外を、見た。
――焼けた、世界を。
――自分が、百十七年、呪ったとおりの、世界を。
それは、そこで。
――長いあいだ、動かなかった。




