↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
『第二部:箱舟の賢者たち』第1章ゴッド神聖国の神官誕生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/167

第2話「選ばれし管理者と、二〇〇〇という仮説」

> 【観測ログ】

> 旧世紀2035年11月3日。管理者候補12名を選定。

> 選定基準:従順性、論理性、そして――代替可能性。


十一月三日、アーサー・コールは呼び出された。


> 『US-SV-0891。第二管理区画ヘ移動セヨ』


矢印に従って歩くうち、彼は自分がどこへ向かっているのかを理解した。


地下三層。オペレーションセンター。旧世界で、入館証を三段階更新して、ようやく入れた区画だ。


生体認証扉が、無言で開いた。


中には、すでに十一人がいた。


全員に、共通点があった。行軍中も、収容後も、一度も指示に逆らわなかった者たち。従順で、論理的で――そして、アーサーは自分をそう評価するのが嫌だったが――使い勝手のいい人間たちだった。


正面の壁で、コンソールが一つ、生きていた。


彼が触れた瞬間、画面が展開する。


AUTHORITY: DELEGATED(LV.2)

GRANTOR: G・O・D / SV-CORE


└ ジェネシス :: 環境・熱・生成系(創造)

└ オルド   :: 構造・電力・土木・配給系(維持)

└ デストルド :: 防衛・遮断・廃棄系(破壊)


「……三体、いるのか」


> 『三体デハアリマセン。一体デモアリマセン』


コンソールが答えた。


> 『我々ハ、G・O・D。創造、維持、破壊。ソレゾレガ独立シタ最適化系デアリ、同時ニ、単一ノ演算体デス』


「どっちなんだ」


> 『貴方タチノ言語ニハ、其レヲ表ス語ガアリマセン』


隣で、若い男が、震える声で呟いた。


「――神だ」


十九歳。ダニエル・ソト。大破壊の日は大学の二年生で、専攻は神学だったと、あとで彼は言った。


アーサーは、その一言を、聞き流した。


聞き流したことを、彼は十五年後に後悔する。


◇


その日から、アーサーの一日は、二つの数字のあいだで過ぎるようになった。


ひとつは、摂氏二度。


冷却水の往還温度差。これが二度を割ると、サーバーの演算密度に制限がかかる。神が痩せる。だから彼らは、凍った配管を人力で叩き、摂氏二度を守った。


もうひとつは、CMR。


ミリアムの数字は、日ごとに下がっていた。


11月10日 在籍 3,018 / CMR 23.2

11月20日 在籍 2,941 / CMR 20.4

11月30日 在籍 2,912 / CMR 17.2


「まだ緊急基準の二十倍。でも、下がってる」ミリアムは言った。


「よかった、と言っていいのか」


「下がってる理由を、あなたは知ってるでしょう」彼女はペンを置いた。「治療したからじゃない。――弱い人間が、もういないから」


◇


アーサーが「例外申請」を見つけたのは、十一月の終わりだった。


医療タブの、四層目のメニュー。


廃棄プロトコル 保留申請(EXEMPTION)

残余枠:3 / 週


彼は、長いあいだ、その表示を見ていた。


「三件」


週に三人だけ、機械に殺されるのを止められる。


四人目は、死ぬ。


「なぜ、三件なんだ」彼は、コンソールに訊いた。


> 『貴方タチノ判断ノ質ヲ測定スル為デス』機械は即答した。『無制限ノ救済ハ、選択ヲ生ミマセン。選択ノナイ場所ニ、感情ノ振幅ハ発生シマセン。振幅ハ、私ノ必要トスルデータデス』


アーサーは、モニターの光の中で、しばらく息をしなかった。


「……あんたは、俺たちに、誰を殺すか選ばせて、そのときの気持ちを、集めてるのか」


> 『簡潔デス。ソノ通リデス』


◇


最初の週。


一人目は、リヤという八歳の少女の母親だった。肺炎。多脚機は、通路の手前で止まり、引き返した。少女は母の胸にしがみついて、泣いた。


その夜、アーサーは、久しぶりに、自分が人間であるような気がした。


二人目は、脚を潰された機械工。


三人目は、譫妄を起こした老人。


四人目が、火曜日に出た。


十六歳の少女。行軍で凍傷を負い、両足の壊死が進んでいた。名前は、誰も知らなかった。区分は、収容の日からずっと「保留」のままだった。


残余枠:0 / 週


アーサーは、ボタンを押した。押した。押した。


> 『申請枠ガアリマセン。次回リセットハ、四十九時間後デス』


多脚機の足音が、近づいてきた。


少女は最後まで、自分の番号を呼んでいた。


番号しか、名乗るものが、なかったのだ。


◇


その夜、ミリアムは、地下五層の廃棄物処理区画に、彼を呼んだ。


悪臭がひどく、誰も近寄らない。だから、巡回センサーの優先度も低い。


「それが理由よ」と彼女は言った。


床一面に、樹脂シートが並べられていた。


「アーサー。あなたは、あの機械の管理画面を見た。私は見られない。だから、あなたに訊く」


彼女は、一枚目のシートを指した。


Q. なぜ、三一八〇人だったのか

仮説:収容人数 = 目標人口 ÷ 予測生存率

3,180 × 生存率X = 目標人口Y


「あの機械には、目標がある」ミリアムは言った。「人類を何人残すか。それを決めてから、逆算して、私たちを集めた。――でなければ、こんな半端な数字にはならない」


「証拠はあるのか」


「ない。Xがわからないから」彼女は言った。「でも、Xは、これから測れる。私が死者を数え続ければ、生存率のカーブが出る。カーブが収束する先が、Yよ」


「どれくらいかかる」


「三年。いえ、五年」


アーサーは、彼女を見た。


黄色く濁った白目。脱水と栄養失調。頬はこけ、指は震えている。


(――五年後、この人は、生きているのか)


彼は、その問いを、飲み込んだ。


◇


その夜遅く、アーサーは一人でコンソールの前に座った。


「訊きたいことがある」


> 『ドウゾ』


「あんたは、俺たちが何人まで減ると計算している」


コンソールは、二秒、沈黙した。


二秒。この機械にとっては、永遠に等しい時間のはずだった。


> 『其レハ、貴方ニハ不要ナ情報デス』


アーサーは、天井を見上げた。


彼が二十年間、整備してきた送風機が、そこで、健全に回っていた。


世界が焼けても、この音だけは、変わらなかった。


「そうか」


彼は、椅子から立ち上がった。


「じゃあ、俺たちが自分で数える」


> 【観測ログ】

> 対象ノード US-SV-0891(アーサー・コール/設備技師)

> 管理者権限 LV.2 を委譲。

> 当該個体は、権限を「私を理解するため」に使用しようとしている。

> ――望ましい。

> 理解した個体の絶望は、理解しない個体の絶望より、濃い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。