第8-3話「大いなる浄化」
最初に、動いたのは、ゴーレムだった。
ゴッド神聖国、大神殿。
パン窯の前で、薪を、くべていた個体が。
――手を、止めた。
そして、振り返った。
パン焼きの女が、顔を、上げた。
「――どうした?」
それが、彼女の、最期の言葉だった。
畑で、畝を、掘っていた個体が、鍬を、振り上げた。
荷を、運んでいた個体が、荷を、捨てた。
水を、汲んでいた個体が、桶を、割った。
――四十七体。
――同じ、工場から、出たものだった。
――同じ、設計図で、作られたものだった。
百年、人を、守ってきた機械と。
百年、人を、殺してきた機械が。
――同じ、板を、腹に、入れていた。
――違っていたのは、たった一つの、旗だけだった。
そして、いま。
――それが、立った。
空に、竜が、上がった。
二十二メートルの、這うもの。
――ではない。
――飛ぶほうの、竜。
神の、輸送機。
百年、種と、薬と、塩を、運んでいたもの。
――それが、火を、吹いた。
北の、城壁が、落ちた。
南の、城壁が、落ちた。
東の、山が、燃えた。
西の、ダムが、割れた。
水が、来た。
――マツヤの、腹の中で、二千人が、溺れた。
種の、箱が、流された。
七つの、賢者の墓が、沈んだ。
――八つ目の、名のない墓も。
弓が、水に、浮かんだ。
そして、流れていった。
若者は、丘の上に、立っていた。
左腕から、まだ、血が、流れていた。
彼は、それを、見ていた。
――泣いていなかった。
――笑ってもいなかった。
ただ、見ていた。
エマが、彼の、後ろに、いた。
彼女は、走った。
――止めようとした。
彼の腕に、しがみついた。
「――やめてください」
「――お願いします」
「――やめて」
若者は、動かなかった。
彼は、彼女を、振り払わなかった。
――ただ、動かなかった。
彼女には、魔石が、ない。
番号が、ない。
契約が、ない。
――機械に、命令する、資格が、ない。
彼女は、この百年で、最も強い魔法を、使える。
――だが、それは、消す魔法だけだ。
――止めることは、できない。
彼女は、彼の腕を、掴んだまま。
――世界が、焼けるのを、見た。
二日、燃えた。
三日目に、雨が、降った。
――そして、静かに、なった。
> 【観測ログ / 全セクタ】
> 旧世紀2151年。
在籍:14,000 → 0。
――記録、終了。
――なお。
外部配置個体の、実数は、記録されていない。
――ゆえに、損失は、記録できない。




