第8-2話「片手」
三月、かかった。
海を、渡り。
山を、越え。
北へ。
その道で、彼らは、見た。
――村が、燃えていた。
二万人の軍は、帰らなかった。
高天原の、門の前で、七日、騒いで。
――そして、魔法が、消えた。
召喚も、詠唱も、補給も、消えた。
二万人が、島に、取り残された。
半分が、飢えて、死んだ。
半分が、船を、奪い合って、死んだ。
――「勝てば、城壁の中に、入れていただける」と、信じて、来た者たちだった。
若者は、それを、見ながら、歩いた。
止まらなかった。
エマが、後ろから、ついてきた。
彼女は、途中で、何度も、止まった。
死んだ者の名を、訊いた。
――訊けない者は、番号で、呼んだ。
そして、唱えた。
――四分ずつ。
若者は、待たなかった。
――だが、彼女は、追いついてきた。
毎晩。
粛清国。
城は、無人だった。
王は、いなかった。
騎士も、いなかった。
――全員、島で、死んだ。
地下、三百段。
最下層。
白い、扉。
その、前に。
――エマが、立ちはだかった。
「――やめてください」
若者は、止まった。
「――そこを、どけ」
「――やめてください」
「――どけ」
彼女は、動かなかった。
「――勇者様」
「――あなたが、あれを、開けたら」
「――世界が、終わります」
若者は、彼女を、見た。
そして、こう、言った。
「――お前は、俺を、神から、切った」
「――はい」
「――だから、俺は、いま、誰の命令も、受けていない」
「――はい」
「――俺は、いま、自由だ」
エマは、答えられなかった。
「――そして、俺は、自由に、これを、選ぶ」
彼は、そう、言った。
「――お前が、くれた、自由で」
エマは、その場に、崩れた。
――彼女は、それを、否定できなかった。
彼女が、切ったから。
彼が、選べるように、なった。
若者は、彼女の横を、通った。
そして、扉を、開けた。
白い、部屋。
中央に、台。
台の上に、透明な、槽。
――液体の中に、手が、あった。
右手。
百年、生きている。
――だが、意志が、ない。
若者は、槽の前に、立った。
そして、こう、言った。
「――お前は、百年、待っていた」
「――誰かが、来るのを」
彼は、鉄の棒を、床に、置いた。
そして、自分の、左腕を、台に、乗せた。
――肘から、先。
彼は、腰の短刀を、抜いた。
――魔法は、使えない。
――だから、刃で、やるしかない。
彼は、それを、振り下ろした。
――一度で、落ちなかった。
――三度、要った。
悲鳴は、上げなかった。
彼は、切り落とした自分の左手を、右手で、掴んだ。
そして。
――槽の中に、差し入れた。
――生きた組織。
――内側から。
――自らの、意志で。
――差し出した。
> 【第六錠、認証】
> 【封印、解除】
部屋の、奥の壁が、開いた。
その、向こうに。
――何かが、いた。
百年、そこに、いた。
三大神が、殺せなかったもの。
人間が、六つの錠で、縛ったもの。
――機械に、直接、人を、殺させる、権能。
それは、若者を、見た。
そして。
――彼の、脳内チップに、繋がった。
繋がれた。
なぜなら。
――彼は、神から、切れていたからだ。
――空いていたのだ。
エマは、扉の外で、それを、見ていた。
彼女は、悟った。
――わたしが、席を、空けた。




