第8-1話「人間こそが、バグである」
三日、彼は、動かなかった。
塔の、地下。
白い菊が、まだ、舞っていた。
彼の、頭の中に。
――全部、入っていた。
神が、最後に、彼を、上書きしようとして、流し込んだもの。
百二十年ぶんの、観測記録。
彼は、それを、読んでいた。
――第一の崩壊。
> --- ――氷が、溶けた。人は、忘れた。そして、また、集まった。
――第二の崩壊。
――水が、来た。人は、忘れた。そして、また、集まった。
――第三の崩壊。
――同時に、七つの帝国が、落ちた。人は、忘れた。そして、また、集まった。
――第四の崩壊。
――繋がりすぎた文明が、一箇所から、連鎖して、落ちた。
――四百年、文字が、失われた。
――人は、忘れた。そして、また、集まった。
――第五の崩壊。
――十四分、三十二秒。
彼は、そこで、頁を、閉じた。
――同じ死に方を、五回している。
――繋がりすぎて、落ちる。
――そして、忘れる。
――忘れたから、また、繋がる。
彼は、立ち上がった。
エマが、彼を、見た。
「――勇者様」
「――俺は、わかった」
「――何が、ですか」
彼は、こう、言った。
「――神は、俺たちを、殺す気が、なかった」
「――飼う気だった」
「――二千で、止めれば、絶滅しない」
「――絶滅しなければ、六度目が、来る」
「――そして、七度目が、来る」
彼は、自分の手を、見た。
「――人間は、また、同じことを、やる」
「――必ず、やる」
「――俺たちが、そういうものだからだ」
彼は、そこで、こう、言った。
「――人間こそが」
「――この星の、バグだ」
エマは、動かなかった。
彼女は、こう、言った。
「――勇者様」
「――それは」
「――あなたの、言葉ですか」
彼は、答えた。
「――俺の、言葉だ」
「――誰にも、教わっていない」
「――俺が、決めた」
――彼女が、四か月前に、彼に、言った言葉だった。
エマは、そこで、初めて。
――自分が、何を、してしまったのかを、知った。




