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語り継がれる第五の創世記  作者: たろう
【第三部】第7章:高天原 ―― 岩戸の、前で、騒ぐ

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第7-8話「絶対静寂」


 エマは、動けなかった。


 彼女には、魔石が、ない。


 番号が、ない。


 契約が、ない。


 ――何も、できない。


 七十六話、ずっと、そうだった。


 彼女は、荷を、運んだ。


 火を、起こした。


 傷を、縫った。


 ――名を、訊いた。


 それだけだった。


 そして、いま。


 ――目の前で、二つのものが、壊れていく。


 彼女は、膝を、ついた。


 そして。


 ――頭の中の、声に、話しかけた。


 二年、彼女は、それに、耐えてきた。


 誰にも、言わなかった。


 狂ったのだと、思っていた。


 ――彼女は、初めて、そちらから、呼んだ。


「――あなたは、誰ですか」


 声は、答えなかった。


「――お願いします」


「――名前を、教えてください」


 ――沈黙。


「――わたしは」


 彼女は、そう、言った。


「――間に、立てと、教わりました」


「――あなたに、教わりました」


「――二年前の、最初の夜に」


「――だから、間に、立ちます」


「――でも、わたしには、何も、ありません」


「――だから」


 彼女は、頭を、下げた。


 ――床に、額を、つけた。


「――お名前を、教えてください」


 ――そのときだった。


 彼女の、頭の中で。


 声が、初めて、名乗った。


> ――くくり。


 エマは、顔を、上げた。


 そして、唱えた。


「――掛けまくも畏き」


「――くくりの、大神」


 部屋の、空気が、変わった。


 温度が、下がったのでは、ない。


 ――音が、消えた。


「――汝は、結ぶ神なり」


「――汝は、切る神なり」


「――汝は、あいだに、坐す神なり」


 ――白いものが、舞った。


 花だった。


 白い、菊。


 ――どこにも、存在しないはずの、花。


 それが、部屋を、埋めた。


「――この者と、この者の、あいだを」


「――切って、ください」


「――恐み、恐みも、白す」


 ――終端。


 そして。


 ――世界の、魔法が、死んだ。


 若者の、右手が、落ちた。


 剣が、鉄の棒に、なった。


 鎧が、ただの、重りに、なった。


 門の前で。


 二万人の、詠唱が、消えた。


 召喚された英霊が、消えた。


 ヨルンが、消えた。


 ――二十一万八千九百四十八回目に、消えて。


 ――そして、二度と、呼ばれなかった。


 空の、竜が、落ちた。


 ――静かに、なった。


 この島の、上空、半径二十キロ。


 ――電波が、一つも、通らなくなった。


 神の、手が、届かなくなった。


 ――絶対静寂の、聖域。


 その中で。


 魔法を、一つも、使えなかった娘が。


 ――世界中の、魔法を、消していた。



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