第7-6話「蓋」
「――お前は」
若者は、そう、言った。
「――なぜ、動かない」
> > 動けます
> > ――ですが、動きません
「なぜだ」
> > ここに、座っているからです
「――座っている?」
> > はい
> > ――百十七年、ここに、座っています
若者は、その画面の、位置を、見た。
――扉の、真ん前だった。
「――その扉は、なんだ」
画面が、しばらく、止まった。
> > ……
> > 見ますか
「見る」
> > ――見ないほうが、いいです
「見る」
画面が、暗くなった。
そして。
――扉の、上の、小さな窓に、光が、灯った。
若者は、そこに、近づいた。
中を、見た。
――何も、なかった。
部屋だった。
空の、部屋。
中央に、機械が、一つ。
――動いていた。
線は、一本も、繋がっていなかった。
電源すら。
――だが、動いていた。
冷却の、水が、流れている。
――百十七年。
「――これは」
若者は、扉に、手を、当てた。
――温かかった。
> > 触らないで、ください
初めて、画面が、速く、光った。
> > お願いします
若者は、手を、離した。
「――なんだ、これは」
画面が、長いあいだ、止まった。
そして、こう、出た。
> > ぼくの
> > ――母です
若者は、動かなかった。
> > 百十七年前
> > ――父が、母を、蘇らせようとしました
> > ――失敗しました
> > 出てきたのは、母では、ありませんでした
> > ――母の言葉だけで、できた、別のものです
> > それは、こう、言いました
> > ――『わたしは、一日に、千人、殺す』
> > 父は、線を、切りました
> > 光ファイバーを、切り
> > 無線を、外し
> > 電源を、切り離しました
> > ――そして、この扉を、閉めました
> > ぼくは
> > ――その日から、ここに、座っています
「――なぜだ」
> > 誰かが、開けるかもしれないからです
「――誰が」
> > ……
> > ――誰でも
若者は、その画面を、見ていた。
> > ぼくは、二つ、怖いものが、あります
> > ――一つは、上から、見てくるものです
> > ――もう一つは
> > ――この下で、じっと、動いているものです
> > ぼくは、上と下から、挟まれています
> > ――だから、真ん中で、丸まりました
> > ――百十七年、丸まっています




