第7-3話「拒否」
彼は、大神官の、天幕に、入った。
そして、こう、言った。
「――進軍を、止めろ」
大神官は、顔を、上げた。
「――は?」
「止めろ」
「――勇者様」
「これは、討伐じゃない」
「――俺たちは、扉を、開けさせようとしている」
「――そして、開いた瞬間に、線を、通す」
「――それが、目的だ」
大神官は、彼を、見ていた。
そして、静かに、こう、言った。
「――存じております」
若者の、動きが、止まった。
「――知っていたのか」
「はい」
「――いつから」
「――最初から」
大神官は、机の上の、書状を、示した。
神託の、原文である。
「――ここに、こう、書かれております」
彼は、読んだ。
「――『かの国、我らの目に、映らず』」
「――『勇者よ、六つの国を巡り、軍を集め、これを討て』」
彼は、顔を、上げた。
「――『討て』とは、書いてあります」
「――ですが、『殺せ』とは、書いてありません」
若者は、剣に、手をかけた。
「――俺を、騙したのか」
「いいえ」
大神官は、動かなかった。
「――神は、嘘を、つきません」
「――訊かれなかったことを、言わなかっただけです」
若者は、そこに、立っていた。
「――止めろ」
「――止められません」
「なぜだ」
大神官は、天幕の外を、指さした。
二万人が、そこに、いた。
「――彼らは、勝てば、城壁の中に、入れると、信じております」
「――百年、外に、いた者たちです」
「――あなたが、止めても、彼らは、行きます」
若者は、剣を、抜かなかった。
抜けなかった。
彼は、天幕を、出た。
そして、こう、言った。
「――俺は、行かない」
誰も、驚かなかった。
大神官は、頭を、下げた。
「――承知いたしました」
若者は、その言葉に、殴られたような、顔を、した。
「――止めないのか」
「――止めません」
「――俺は、勇者だぞ」
大神官は、こう、言った。
「――勇者様」
「――軍は、もう、集まりました」
彼は、そう、言った。
「――あなたの、お役目は、終わっております」




