第7-2話「線」
翌朝。
工兵が、動きはじめた。
若者は、それを、見た。
――柱を、立てている。
三十メートルおきに。
そして、その上に。
――線を、張っていた。
銅の、線。
南の浜から、北の、山へ。
「――なんだ、あれは」
大神官が、答えた。
「補給線でございます」
「補給?」
「はい」
「――軍に、詠唱を、届けるための」
若者は、その線を、見た。
――ここは、神の目の、外だ。
――魔法が、届かない。
だから、線を、引く。
――神の手を、この島に、伸ばす。
「――どこまで、引く」
「――魔王城まで」
若者は、動かなかった。
「魔王城の、どこまでだ」
「――門の、前まで」
「なぜ、門の前なんだ」
大神官は、答えられなかった。
「――中に、入れないからでは」
「そうだ」
若者は、そう、言った。
「――中には、入れない」
「――切れているからだ」
「――百十七年前に、切ってある」
大神官は、うなずいた。
「では」
「――線を、門の前まで引いて、どうする」
大神官は、答えられなかった。
若者は、その線を、見ていた。
――南の浜から。
――北の山へ。
――そして、魔王城の、門の前まで。
二万人が、その線に、沿って、進む。
旗を、立てて。
太鼓を、叩いて。
鬨の声を、上げて。
――門の前で、騒ぐ。
そして。
もし。
――もし、その門が、開いたら。
彼は、そこで、息を、呑んだ。
「――線が、届く」
彼は、そう、言った。
誰も、聞いていなかった。
「――俺は」
彼は、自分の、手を、見た。
「――俺は、討伐に、来たんじゃない」
「――線を、運びに、来たんだ」




