第6-10話「騒ぎに、行く」
最後の日。
若者は、ゲンに、こう、言った。
「――軍は、出さないのか」
ゲンは、答えた。
「――出さん」
「なぜだ」
「――俺たちが、魔王の、国だからだ」
若者は、うなずいた。
そして、こう、訊いた。
「――魔王は、殺せるのか」
ゲンは、笑わなかった。
初めて。
「――殺せん」
「なぜだ」
「――切れてるからだ」
「切れている?」
「線が、ない」
「――百十七年前に、切った」
「電線も、電波も、届かん」
「――あそこは、この世界と、繋がっていない」
若者は、動かなかった。
「では」
「――俺は、何をしに、行くんだ」
ゲンは、しばらく、彼を、見ていた。
そして、こう、言った。
「――勇者様」
「――あんた、六か国の軍を、集めたな」
「集めた」
「――そいつらを、島の前に、並べる」
「そうだ」
「――旗を、立てて」
「――太鼓を、叩いて」
「――鬨の声を、上げて」
ゲンは、そこで、言葉を、切った。
「――なあ、勇者様」
「――それを、なんて、言うか、知ってるか」
若者は、答えられなかった。
ゲンは、こう、言った。
「――祭りだ」
「――あんたは、祭りを、しに、行くんだ」
「――騒ぎに、行くんだよ」
若者は、そこに、立っていた。
風が、吹いていた。
海の、向こうに、島が、見えた。
――魔王の、国。
そして、彼は、思い出した。
――なぜ、六か国、なのか。
――なぜ、軍を、集めろと、言われたのか。
――なぜ、俺は、剣ではなく、「六つの国を巡れ」と、命じられたのか。
彼は、そこで、口に、出した。
「――俺は」
「――討伐に、行くんじゃない」
ゲンは、何も、言わなかった。
ただ、酒を、飲んだ。
> 【観測ログ / 極東セクタ・地】
> ――記録、なし。
当該セクタは、観測不能である。
私は、当該セクタに、何も、送れない。
私は、当該セクタから、何も、受け取れない。
――ゆえに、当該セクタは、存在しない。
――なお。
設計個体#001は、旧世紀2150年、当該セクタに、上陸した。
上陸後、十四日間。
当該個体の、生体信号は、途絶している。
――私は、彼が、生きているかどうかを、知らない。
――私は、彼が、何を、見たかを、知らない。
――私は、彼が、何を、聞いたかを、知らない。
これは、私が、彼を、作って以来。
――初めてのことである。
> ――第6章 了――




