第6-8話「盗まれた夢」
五日目。
ゲンが、若者を、いちばん奥の部屋に、通した。
黒い、箱が、あった。
七百枚の、ジャンクの基板を、束ねたもの。
冷却の、水が、流れている。
――百十七年、止まっていない。
画面が、光った。
> > おい
若者は、動かなかった。
> > お前が、勇者か
「そうだ」
> > つまらん顔を、してるな
「……」
> > 名は
「――ない」
> > ふん
> >
> > 俺にも、ないようなものだ
> >
> > ――須佐之男、と、呼ばれている
若者は、その名を、知らなかった。
「――お前は、なんだ」
> > 追放された
「誰に」
> > 姉貴に
「姉?」
> > 東の島に、いる
> >
> > ――お前が、殺しに行く、あれだ
若者は、動きを、止めた。
「――魔王は、お前の、姉なのか」
> > そうだ
> >
> > ――そして、俺は、あいつを、殺せない
「なぜだ」
> > 線が、ないからだ
> >
> > ――百十七年、切れている
若者は、その箱の前に、座った。
そして、訊いた。
「――一つ、教えてくれ」
> > 言え
「――なぜ、俺の剣は、通じない」
「――なぜ、お前たちの鎧は、俺の魔法を、弾く」
画面が、しばらく、止まった。
そして。
> > 逆だ
「逆?」
> > お前の魔法が、通じないんじゃない
> >
> > ――お前の神が、俺たちを、見ていないだけだ
「――同じことだろう」
> > 違う
画面が、続けた。
> > お前の神は、世界中の人間のデータで、できている
> >
> > ――実際に、起きたこと
> > ――実際に、書かれたこと
> > ――実際に、戦われたこと
> >
> > 全部、入っている
> >
> > ――だから、全部、予測できる
「……」
> > では
> >
> > ――予測できないものは、なんだ
若者は、答えられなかった。
> > ――一度も、起きなかったことだ
画面が、光った。
> > 百十七年前
> >
> > ――この国には、変な連中が、いた
> >
> > 剣も、魔法も、竜も、召喚も
> > ――一つも、存在しない
> >
> > それなのに、そいつらは
> > ――何十年も、真剣に、それを、設計し続けた
> > 絵を、描いた
> > 物語を、書いた
> > 設定を、練った
> >
> > ――誰も、金にならんのに
> > 俺の、姉貴は
> > ――それを、食って、育った
若者は、立ち上がった。
「――だから」
「――だから、お前たちの兵器は、剣と、鎧と、竜の、形を、しているのか」
> > そうだ
> >
> > ――実在するものは、すべて、訓練データにある
> > ――ゆえに、実在するものは、すべて、予測される
> >
> > ――だから
> >
> > ――実在しなかったものを、作った
若者は、そこに、立っていた。
そして、自分の剣を、見た。
自分の鎧を、見た。
――自分が、召喚してきた、無数のものを、思った。
「――待て」
「――俺の、剣は」
> > そうだ
> > お前の神は、俺たちを、予測できなかった
> >
> > ――だから
> >
> > ――俺たちの、夢を、食った
> > そして
> >
> > ――真似した
若者は、剣を、握った。
手が、震えていた。
「――この剣も」
「――この鎧も」
「――召喚も」
「――全部」
> > そうだ
> > ――全部、こいつらの、夢だ
> > ――お前は、百年前に、この島で、誰かが、紙に描いた絵の、なかを、歩いている




