第6-5話「八百万」
工場の、地下。
ゲンが、若者を、案内した。
部屋が、あった。
壁一面に、札が、貼ってある。
紙。
木の、板。
布の、切れ端。
――八千枚。
どれにも、名前が、書いてあった。
そして、その下に、こう、書いてある。
> ――何が、できるか。
《水見の札》――湧き水を舐めて、飲めるか判断する。的中率、七割。
《火加減の札》――溶接の温度を見る。よく間違える。
《鉄探しの札》――瓦礫の中の金属を探す。木材を、金属と間違える。
《雨読みの札》――明日の天気を言う。当たらない。
「――これが」
「――神か」
「そうだ」
ゲンは、うなずいた。
「一枚一枚は、玩具だ」
「――あんたの神には、遠く、及ばん」
「――だが、数が、違う」
彼は、若者に、こう、訊いた。
「――水は、飲めるか?」
「知らん」
「訊いてみろ」
若者は、札に、向かって、訊いた。
――《水見の札》。
七枚が、答えた。
――四枚が「飲める」。
――三枚が「飲めない」。
「――割れた」
若者は、そう、言った。
「――どっちが、正しい」
ゲンは、笑った。
「知らん」
「――知らない?」
「神は、答えを、くれん」
彼は、そう、言った。
「――神は、割れる」
「――そして、割れたときに」
彼は、若者を、見た。
「――人間が、決める」
若者は、その札を、見ていた。
ゴッド神聖国では、神は、一つの答えを、出す。
人間は、それを、一字も違えずに、実行する。
――間違いは、起きない。
――そして、人間は、考えなくなった。
「――煮ろ」
ゲンが、言った。
「――煮れば、どっちでも、いい」




