第6-4話「負ける」
翌日。
ゲンが、若者に、こう、言った。
「――勇者様よ」
「なんだ」
「軍を、出せ、と、言ったな」
「言った」
「――なら、見せてもらおう」
「何を」
「――あんたが、強いところを」
工場の、外。
広場。
三十人が、囲んでいた。
若者の、正面に。
――鎧が、立っていた。
人の、二倍。
継ぎ接ぎ。
――魔獣の装甲を、剥いで、貼りつけたもの。
中に、人が、入っている。
ハルの、兄だった。
若者は、剣を、抜いた。
そして、思った。
――闇。
――何も、起きなかった。
彼は、もう一度、思った。
――闇。
――何も。
鎧が、走ってきた。
速い。
人の、三倍。
若者は、避けた。
――紙一重。
風圧で、耳が、切れた。
彼は、剣を、振った。
――弾かれた。
剣が、欠けた。
彼は、後ろに、下がった。
鎧が、追ってきた。
彼は、思った。
――なぜだ。
なぜ、通じない。
彼の魔法は、認証で、動く。
神が、彼を、識別し、命令を、実行する。
――だが、あの鎧は。
――神の、認証を、持っていない。
――神の帳簿に、載っていない。
――だから。
――「消せ」と、命じる、相手が、いない。
彼は、そこで、剣を、落とした。
鎧の、拳が、止まった。
顔の、五センチ手前で。
中から、声が、した。
「――終わりだ」
若者は、膝を、ついた。
息が、上がっていた。
彼は、初めて、負けた。
ゲンが、近づいてきた。
そして、こう、言った。
「――なあ、勇者様」
「……」
「あんた、強いな」
「――負けた」
「そうだ」
彼は、笑った。
「――だが、あんた、いま、俺たちの装甲を、見てから、動きを、変えたろ」
「三合目で」
若者は、顔を、上げた。
「――見てたのか」
「見てたよ」
ゲンは、彼の肩を、叩いた。
「――あんた、機械じゃないな」




