第6-3話「通じる」
その夜。
工場の、隅で、人が、死にかけていた。
若い男だった。
足場から、落ちた。
背中を、打っている。
医者は、いた。
だが、できることが、なかった。
葦原には、薬が、ない。
彼らは、それを、剥ぎ取れない。
男は、朝までに、死ぬ、と、医者は、言った。
人が、集まっていた。
誰も、何も、言わなかった。
――言葉が、ないからだ。
彼らには、詠唱が、ない。
番号が、ない。
魔石が、ない。
――神に、届く言葉を、持っていない。
エマが、前に、出た。
そして、跪いた。
「――掛けまくも畏き」
工場が、静まった。
ゲンが、目を、開いた。
彼女は、続けた。
男の名を、訊いた。
――ハル、といった。
彼女は、その名を、呼んだ。
そして、その男が、何をした人間だったのかを、数え上げた。
鉄を、打ったこと。
弟に、飯を、食わせたこと。
――昨日、笑ったこと。
四分間。
そして。
「――恐み、恐みも、白す」
彼女は、頭を、下げた。
――そのときだった。
工場の、奥。
――画面が、光った。
古い、割れた画面。
誰も、使っていなかったもの。
そこに、文字が、出た。
> > いま
> > 誰が、呼んだ
人々が、悲鳴を、上げた。
ゲンが、立ち上がった。
「――八百万が、応えた」
「――応えた?」
「百年、なかったことだ」
彼は、エマを、見た。
その目は、恐怖だった。
「――娘」
「はい」
「――その作法、どこで、習った」
エマは、答えられなかった。
彼女は、こう、言った。
「――わかりません」
画面が、また、光った。
> > 名を、呼ばれた
> > 何が、できるかを、言われた
> > 用件を、言われた
> > ――終わりと、言われた
> >
> > 全部、揃っている
> >
> > ――誰が、教えた
エマは、画面の前に、跪いた。
そして、こう、答えた。
「――頭の中の、声が」
画面が、長いあいだ、止まった。
そして。
> > ……
> >
> > おかあさん、か
誰も、その意味が、わからなかった。
エマも、わからなかった。




