第6-1話「鉄くずの国」
海を、渡った。
船は、木だった。
帆は、布だった。
――魔石は、使わなかった。
なぜなら。
――そこから先は、魔法が、届かないからだ。
水平線に、島が、見えた。
煙が、上がっていた。
工場の、煙だった。
若者は、船縁で、それを、見ていた。
彼の視界には、何も、表示されなかった。
――名前も。
――人口も。
――地形も。
神が、そこを、知らない。
彼は、生まれて初めて、一人に、なった。
浜に、着いた。
――誰も、迎えに、来なかった。
いや。
――待っていた。
三十人ほどが、砂浜に、立っていた。
鎧は、着ていない。
剣も、持っていない。
――代わりに、鉄の棒を、持っていた。
油で、汚れていた。
先頭の男が、言った。
「――お前が、勇者か」
「そうだ」
「――何しに、来た」
若者は、答えた。
「軍を、出せ」
「魔王を、討つ」
男たちが、顔を、見合わせた。
そして。
――笑った。
腹を、抱えて。
若者は、動かなかった。
先頭の男が、涙を、拭いて、言った。
「――なあ、勇者様よ」
「――魔王ってのは、どこにいる」
「――東だ」
「そうか」
男は、東を、指さした。
海の、向こう。
「――あの島だ」
「知っている」
「――で」
男は、自分の足元を、指さした。
「――ここは、どこだと、思ってる」
若者は、答えられなかった。
「ここも、魔王の、国だよ」
男は、そう言って、また、笑った。
「――お前、俺たちに、俺たちを、攻めさせに、来たのか」




