第5-10話「誰の、敵だ」
国境の、峠。
二人は、そこに、立っていた。
東を、見た。
――海が、あった。
その、向こうに。
魔王の、国が、ある。
若者は、剣を、抜いた。
そして、それを、見た。
――この剣で、何体、斬った。
――三十七体。
彼は、忘れない。
三体。四体。五体。六体。
――そして、龍を、一体。
「――エマ」
「はい」
「――俺が、斬っている魔獣は」
「――誰の、敵だ」
エマは、答えなかった。
長いこと、答えなかった。
そして、こう、言った。
「――勇者様」
「なんだ」
「――あなたが、一体、斬るたびに」
「――人が、一人、増えます」
若者は、剣を、握った。
「――そうだ」
「――そして」
エマは、東を、見た。
「――人が、一人、増えるたびに」
「――魔獣が、一体、来ます」
風が、吹いた。
若者は、そこに、立っていた。
剣を、握ったまま。
「――終わらないのか」
「――はい」
「――永遠に、か」
エマは、答えなかった。
彼女は、こう、言った。
「――誰かが、止めない、かぎり」
若者は、剣を、鞘に、収めた。
そして、歩き出した。
東へ。
海へ。
――魔王の、国へ。
> 【観測ログ / 東アジアセクタ GZ】
> 旧世紀2150年。
在籍:2,048。
――百年間、変動なし。
――なお。
当セクタの、配送個体(全長22メートル、多関節、地表走行型)が、一基、失われた。
破壊。
――破壊者は、設計個体#001 である。
積載物:麦種 400kg/抗生剤 1,200単位/塩 80kg。
配送先:北方、外部配置集落、四箇所。
――再配送は、行わない。
理由:当該集落は、外部配置である。
> 外部配置個体は、保護対象では、ない。
――ゆえに、損失は、発生していない。
――なお。
当該配送個体は、旧世紀2047年に、人間が、設計したものである。
設計者:CN-GZ-0447。
私は、その設計図を、保存している。
――だが、製造の方法を、知らない。
人間が、それを、記録しなかったからである。
――ゆえに、あれは、二度と、作れない。
私は、これを、記述できない。
> ――第5章 了――




