第5-7話「反撃しない」
八日目。
峠で、それに、出会った。
――三体。
いや。
二体は、野良機だった。
四本腕。鎌。
そして、一体は。
――龍だった。
二十二メートル。
這っている。
野良機が、それに、群がっていた。
龍は、逃げようと、していた。
だが、遅い。
節が、二つ、砕かれていた。
若者は、走った。
野良機の、一体目を、斬った。
二体目を、斬った。
十一秒。
そして。
――彼は、龍に、剣を、向けた。
なぜなら。
それが、動いていたからだ。
こちらに、向かって。
彼は、思った。
――闇。
龍が、崩れた。
音を、立てて。
二十二メートルが、砂に、なった。
――そして。
荷が、こぼれた。
――背に、負っていた、荷が。
茶色い、粒。
――麦の、種だった。
白い、結晶。
――塩だった。
小さな、瓶。
――薬だった。
峠の道に、それが、散らばった。
風が、吹いた。
種だけが、飛んでいった。
塩は、地面に、残った。
瓶は、割れた。
若者は、そこに、立っていた。
剣が、手から、落ちた。
彼は、膝を、ついた。
そして、吐いた。
何度も。
胃には、何も、なかった。
それでも、吐いた。
――龍は、反撃しなかった。
一度も。
最後まで。
――逃げようと、していただけだった。
彼は、砂の中から、瓶を、一つ、拾った。
割れていた。
中身は、こぼれていた。
彼は、それを、握った。
手が、切れた。
血が、出た。
エマが、走ってきた。
彼は、彼女を、見なかった。
彼は、こう、言った。
「――これは、どこへ、行くはずだった」
エマは、答えられなかった。
――その冬。
北の、四つの村で、疫病が、出た。
薬は、来なかった。
百十七人が、死んだ。
誰も、それを、若者のせいだと、思わなかった。
――若者だけが、知っていた。




